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1――世界が熱狂
経済はある期間に急速に成長してきたが、重要な発明・発見が行われてすぐに経済成長率が高まるわけではなく、かなりの時間が経ってから「経済や社会に大きな影響をあたえるようになっていた」という指摘がある1。蒸気機関などが発明され産業革命が起こったのは18世紀半ばから19世紀にかけてだが、人々の生活水準が急速に高まったのは20世紀に入ってからだ。新技術を他の技術と組み合わせた新製品が生まれて、人々の生活スタイルまで変えてしまうまでには、かなり時間がかかったためだろう。
2――悲観論と楽観論
悲観的な見方では、低い樹になる果実のように比較的簡単に手に入れることができる発明や発見はこれまでに収穫されてしまい、残されている科学や技術的な課題は容易には解決できないものばかりだ2。今後は、科学技術がこれまでのように急速な発展を遂げることは期待できず、必然的にゆっくりしたものになる。20世紀には経済成長によって、我々の平均寿命は大きく伸び、労働時間は短縮され、労働内容も労働環境も著しく改善するなど、人間の生活は飛躍的に豊かになったが、高成長の時代は1970年頃には終わってしまった、と考える。
他方では、IoT(Internet of Things)であらゆるものがインターネットに接続することやAI(人工知能)の発展で、経済・社会が飛躍的に発展するという予想もある。先日囲碁の世界トッププロを人工知能が破ったように、今やコンピューターは人間の発想を超えるようになった。世界中の自動車会社が自動運転技術の開発にしのぎを削っており、遺伝子工学を使った再生医療などの進歩で、これまで治療が難しかった病気やケガも治せるなど、世界を大きく変える可能性がある、と予想する。
3――楽観論実現の課題
とはいうものの、楽観論が描く未来を実現するために、我々は人間社会が急速な技術の変化についていけるように様々な努力をする必要がある。経済学で言う技術進歩には、科学・工学的な技術のみでなく、法律や規制、企業経営や労務管理など社会の幅広い仕組みの改善が含まれている。
ポケモンGOで遊ぶ人達の事故を懸念して、鉄道各社が駅のホームや線路でキャラクターが出現しないようにゲームの運営会社に要請したと報道されているが、こうした問題への適切な対応が必要だ。新しい製品や技術を現実に提供しようする人達には、様々な規制は新しい変化を妨げる障害物にしか見えないかも知れない。しかし、新技術と社会とが大きな摩擦を起こせば、却って社会の仕組みの変化は遅くなってしまう。新しい技術を開発・利用していく人達の適切な自制や、社会が新しい技術に対応して迅速にルールを制定していくことで、新技術がより速く社会で利用されるようになるだろう。
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櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
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(2016年09月07日「基礎研マンスリー」)
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