2016年09月05日

未婚の原因は「お金が足りないから」という幻想-少子化社会データ検証:「未婚化・少子化の背景」は「お金」が一番なのか-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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2――本当にお金が足りないから結婚できないのか、の検証

1結婚にはどれくらいのお金が最低限必要と考えているのか?  < 既婚者VS未婚者 >

前章にて、未婚者が高い割合で結婚希望・子どもをもつ希望があることが示されたので、次に、未婚者のお金に関する感覚について検証してみたい。

民間シンクタンクの2016年実施の最新調査3において、20代から40代の男女が「結婚生活を送るために最低必要だと思う世帯年収」を回答者の既婚・未婚別にみることが出来る。

結婚生活の現実を知る「既婚者」と未経験の「未婚者」との間には、金銭感覚のズレがあることがわかる(図表5)。

既婚者の回答は1位2位の300万円から500万円に約半数がおさまっているのに対し、未婚者は1位2位の400万円から600万円に約半数がおさまっており、既婚者よりも100万円以上必要と思う年収ゾーンが高額となっている。また、既婚者ではランクインしてこない、最低年収700万円から1000万円といった回答も未婚者では1割を超えている。

図表5からは、2/3以上の男女が最低ラインを世帯年収400万円以上と考える未婚者の世帯年収感覚と現実的な感覚とのズレが指摘できるであろう。
【図表5】結婚生活に必要な最低世帯年収の感覚
 
3 明治安田生活福祉研究所「第9回結婚・出産に関する調査」2016年3月実施
 回答者:全国の20歳から49歳の男女3595人、調査方法:WEBアンケート調査
2結婚にはどれくらいのお金が最低限必要と考えているのか?  < 20代未婚女性 VS 30代未婚女性 >

前節で未婚者が既婚者よりも高い世帯年収が必要であると考え、400万円以上の回答が大半を占めることを示した。そこで本節ではこのように高い水準を希望する未婚男女のうち、妊娠・出産などお金がかかるライフイベントをより現実的にとらえる女性が必要と考える世帯年収、についてもう少し詳しく見てみることにする。

同じ民間調査において、20代・30代の未婚女性がどれくらいの年収を結婚相手に最低基準として求めているのかがわかる調査結果がある。

図表6を見ると、明らかに20代未婚女性よりも30代未婚女性のほうが男性に高い年収を最低基準として希望していることがわかる。

400万円未満の年収男性でも結婚相手である、と考える女性は20代で3割弱、30代では2割弱となっており、未婚女性は年齢が上がると結婚相手の男性へ求める最低年収も上がる結果となっている。
【図表6】未婚女性が結婚相手に求める最低年収
「20代未婚女性の6割、30代未婚女性の7割が最低400万、またはそれ以上の年収を相手に求めている。」

このような未婚女性の希望はさておき、現実的な日本の給与所得者の年収はどうであろうか。

国税庁の公表しているデータが示す「お金の現実」が図表7である。

図表7は結婚を希望する相手に「せめて日本人の平均的な所得の相手を」と望んだとしても、40歳以下の未婚者「1人」に年収400万円以上を望むのは、相手が非正規である場合は勿論のこと、「たとえ正規社員であっても困難である」ことを示している。

平均年齢45.4歳の男性で、ようやく500万を超える平均給与だからである。一般的には賃金は年齢や勤続年数に比例して上昇してゆくことを考えると、一般論として20代、30代の男性に「最低年収400万円」を求めることは現実を無視した感覚といえるのではないだろうか。
【図表7】平成26年度 納税者の平均給与
これとは別に、厚生労働省が公表している平成27年賃金構造基本統計調査においても、短時間勤務を除く一般労働者男性(年齢43.1歳 正規・非正規含む)の平均賃金は月額33万5千円で単純に12倍すると402万円強である。

したがって多くの20代、30代の未婚女性は男性に対し、現実的に見ても結婚の最低条件に非常に厳しい金銭的要求をもっていることが示されている。

以上をまとめると、

女性が男性に現実を度外視した収入要求を持っており、
未婚者は男女とも既婚者よりも生活に必要な収入額を大きくとらえてしまっている

ということができる。

つまり、「お金が足りないから結婚できない」という未婚者の回答は、額面どおりに受け取ることはいささか問題がある、と考えられるのではないだろうか。お金が足りないから未婚でいる、のではなく、結婚するにはお金が足りないというイメージがあるから、結婚できないと回答している可能性が高い。

実際、既婚者は常識的な年収水準で生活できると回答し、日々の暮らしも立てている。

このような現実感覚を未婚者に認識してもらうことが生涯未婚率を低下させるためには有効であると言えそうである。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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