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- マイナス金利下における退職給付制度~事例に基づいた検証~
退職給付債務の算定において用いられる割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定する。マイナス金利および国債の利回り低下は、国内の債券市場全体の利回り低下も及ぼす。その結果、各社は割引率を引き下げざるを得なくなってきている。割引率の低下は退職給付債務を増加させることになる。割引率が低下してもそれを補うだけの運用益があれば、影響は小さくて済む。しかしながら、2015年度の資産運用環境は厳しいものであった。既に報じられているように公的年金においては、マイナス3.81%を記録した。各社における退職給付制度における資産運用も多くの場合がマイナス(運用損)となったと考えられる。
ここでは、日本経済新聞社が2016年7月26日付の朝刊で、退職給付の未積立額が多い企業として取り上げた日本郵政、NTT、トヨタ自動車、日立製作所、東日本旅客鉄道、東芝、パナソニック、ソニー、各8社の退職給付制度の状況を概観する。図表2では、各社の未積立額の純額、自己資本に対する未積立額の比率(以下、未積立自己資本比率)、割引率の各数値を2014年度、2015年度を比較する形で表している。
先に述べた通り、「負債額が増加=企業業績への影響」とは限らない。トヨタ自動車の未積立額の増加率は、他社と比べて大きいものの、未積立自己資本比率は5%未満であり、他社と比べてかなり低い。一方で、日立製作所、パナソニック、ソニーの未積立自己資本比率は、2015年度に27.82%、26.98%、18.49%となっている。特にパナソニックの未積立自己資本比率が急激に上昇しており、企業業績に及ぼす影響が懸念される。
各社の保有している退職給付制度の形態によってマイナス金利がもたらす影響は異なる。しかしながら、未積立額が企業業績にもたらす基本的な構造は変わらない。手厚い自己資本を確保しているトヨタ自動車のような企業にとっては、未積立額の増加による影響は軽微である。一方で、自己資本が目減りしている企業にとっては、未積立額の増加は業績への重荷となっている。
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静岡県立大学 経営情報学部
上野 雄史
研究・専門分野
(2016年09月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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