2016年09月02日

どうなる?日銀「総括的な検証」~金融市場の動き(9月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(8月):総括的な検証への思惑が交錯

(日銀)維持(開催無し)
8月は金融政策決定会合の非開催月にあたるため、金融政策の変更はなし。市場の関心は、次回9月20日~21日に開催される会合での実施が予告されている「総括的な検証」と検証を踏まえた対応に集中した。
 
そうした中、8日に日銀から「金融政策決定会合における主な意見(7月会合分)」が公表された。「総括的な検証」に関する部分は少ないが、その目的について以下の3つの意見が挙げられている。

 ・2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現する観点から、総括的な検証を行うことが適当
 ・2%の早期実現に何が必要かという視点から総括的な検証が必要
 ・「物価安定の目標」達成のための具体的な政策対応を考えるうえで、総括的な検証が必要
また、その他の意見として、
 ・金融緩和の限界、副作用という考えを否定することが必要
との意見もあった。

手掛かりは不十分だが、緩和縮小方向ではなく、強化方向に向かう印象を受ける。
 
また、27日にジャクソンホールで黒田総裁による講演が行われた。この席上で、総裁はこれまでの政策について、13年3月に導入した「量的・質的金融緩和」は「強力な緩和効果が発揮されてきた」としたうえで、14年10月の緩和拡大、今年1月の「マイナス金利政策」付加によって、「柔軟かつ強力な政策枠組みへと進化した」と非常に前向きに評価した。このうち、マイナス金利政策については、「幅広い借入主体に恩恵を与えている」、「(マイナス金利政策によって)中央銀行はより大きな自由度を獲得した」と、その効果と深掘りの余地を強調した。量・質・金利のいずれについても追加緩和の余地は十分あり、「今後も必要であれば、量・質・金利の3つの次元で、追加措置を講じる」と表明した。

なお、長期的なインフレ予想に弱めの動きが出ていることについては、「原油価格の下落に起因するとの見方を否定することは難しい」、「日本のインフレ動学は、原油価格の大きな変動を含む
外的なショックに対する頑健性が低い」と説明した。
 
消費者物価上昇率の推移/次回の金融政策変更の予測分布(39機関)

3.金融市場(8月)の動きと当面の予想

3.金融市場(8月)の動きと当面の予想

(10年国債利回り)
8月の動き 月初▲0.1%台前半からスタートし、月末は▲0.0%台後半に。
月初、日銀の7月末追加緩和への失望や9月総括的検証への警戒を引きずる中、低調な入札を受けて2日に▲0.0%台後半まで上昇。イングランド銀行の利下げに伴う欧米金利低下から、一旦5日に▲1.0%に戻ったものの、入札への警戒から8日には▲0.0%台半ばに接近。その後は予想を上回る入札結果や欧米金利の低下を受けてやや低下し、▲0.0%台後半での膠着した展開に。月終盤はイエレン議長講演等を受けた米金利上昇の余波で若干上昇したが、月末も▲0.0%台後半で終了。

当面の予想
足元は日銀の総括的検証への警戒などから▲0.0%台前半に上昇している。今後の最大の焦点は、21日の日銀決定会合となる。会合前は思惑が交錯しやすく、会合後はその評価を巡って、金利は不安定な動きを示しそう。会合では、国債買入れの超長期債の買入れ減額が決定され、金利上昇に働く可能性があるが、フォワードガイダンス強化なども同時に決定されることで、次第に▲0.1%程度で落ち着いてくると見ている。米9月利上げの有無も米長期金利を通じて本邦長期金利に影響を及ぼすが、現時点では9月の可能性は低いと見ており、影響は限定的に留まりそう。
日米独長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールド・カーブの変化
日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(8月)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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