2016年09月01日

法人企業統計16年4-6月期~経常利益は大幅減少だが、下げ止まりの兆しも

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.経常利益は前年比で二桁の減少

経常利益の推移 財務省が9月1日に公表した法人企業統計によると、16年4-6月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比▲10.0%と3四半期連続の減少となり、減少幅は1-3月期の同▲9.3%から拡大した。非製造業の減益幅は若干縮小した(1-3月期:前年比▲4.5%→4-6月期:同▲3.1%)が、製造業の減益幅が拡大した(1-3月期:前年比▲20.4%→4-6月期:同▲22.4%)。製造業は3四半期連続で20%台の大幅減益となった。
製造業は輸出数量の減少が続く中、円高の進展に伴う輸出価格の低下幅拡大から売上高が前年比▲5.3%(1-3月期:同▲2.2%)と減少幅が拡大したことに加え、売上高経常利益率が15年4-6月期の7.7%から6.3%へと4四半期連続で悪化した。製造業の売上高経常利益率(前年差)の悪化はほとんどが人件費要因によるものであった。製造業の人件費は5四半期連続で増加し、4-6月期は前年比2.7%と1-3月期の同0.3%から伸びが大きく高まった。人手不足などを背景に人件費の上昇が続く中、売上高が大きく落ち込んでいるため、人件費が製造業の収益を大きく圧迫している。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
一方、非製造業の売上高経常利益率は5.8%となり2四半期続けて前年と同水準となった。製造業と同様に人件費は利益率の悪化要因となっているが、金融費用の減少が利益率を押し上げ、人件費要因のマイナスを打ち消した。
 
経常利益の内訳を業種別に見ると、製造業では、食料品(前年比23.8%)は増益を確保したが、海外経済減速や円高の影響などを受けて、鉄鋼(前年比▲75.6%)、はん用機械(同▲31.2%)、生産用機械(同▲37.9%)、業務用機械(同▲43.1%)、輸送用機械(同▲27.0%)などが軒並み前年比二桁の大幅減益となった。非製造業では、不動産業(前年比2.7%)は増益を維持したが、個人消費の低迷、インバウンド需要の鈍化などから卸売・小売業が前年比▲10.4%と2四半期連続の減益となった。
経常利益(季節調整値)の推移 季節調整済の経常利益は前期比4.8%(1-3月期:同▲6.5%)と4四半期ぶりに増加した。製造業が前期比5.2%と4四半期ぶりの増加、非製造業が前期比4.7%と2四半期ぶりの増加となった。製造業、非製造業ともに前期の落ち込みを取り戻すには至っていないが、経常利益の水準をピーク時と比べると非製造業は5%以下の落ち込みにとどまる一方、円高、海外経済減速の影響が大きい製造業は3割近く低くなっている。

2.企業収益は最悪期を過ぎた可能性

設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比3.1%と13四半期連続で増加したが、1-3月期の同4.2%からは伸びが鈍化した。製造業(1-3月期:前年比6.7%→4-6月期:同11.1%)が伸びを高める一方、非製造業(1-3月期:前年比2.9%→4-6月期:同▲1.3%)が13年1-3月期以来13四半期ぶりの減少となった。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比▲0.5%と小幅ながら3四半期連続で減少した。製造業(1-3月期:前期比1.5%→4-6月期:同2.0%)は2四半期連続で増加したが、非製造業が3四半期連続で減少し、減少幅が1-3月期の前期比▲0.8%から同▲1.9%へと拡大した。

4-6月期の法人企業統計の結果を前年比(原数値)でみると企業収益が大幅減少、設備投資が増加を維持となるが、前期比(季節調整値)では企業収益が増加、設備投資が減少となる。為替、海外経済など先行きの外部環境にもよるが、企業収益は大幅に悪化しているものの下げ止まりつつあると考えられる。一方、設備投資は企業収益の大幅悪化に比べれば現時点では緩やかな減少にとどまっているが、企業収益に遅れて動く傾向があるため、先行きも減速傾向が続く可能性が高いだろう。

3.4-6月期・GDP2次速報は上方修正を予測

本日の法人企業統計の結果等を受けて、9/8公表予定の16年4-6月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.1%(前期比年率0.6%)となり、1次速報の前期比0.0%(前期比年率0.2%)から若干上方修正されると予測する。
2016年4-6月期GDP2次速報の予測 設備投資は前期比▲0.4%から同▲0.1%へと上方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比3.1%と13四半期連続で増加した(1-3月期:同4.3%)。一方、金融保険業の設備投資は前年比▲18.0%と減少幅が拡大した(1-3月期:同▲9.0%)。法人企業統計ではサンプル替えに伴う断層が生じるため、当研究所でこの影響を調整したところ、設備投資の伸びは前年比4%台となり、公表値より伸びが高くなった。GDP・1次速報の設備投資は名目・前年比▲0.5%となっており、本日の法人企業統計の結果は設備投資の上方修正要因と考えられる。

民間在庫は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され、1次速報の前期比・寄与度▲0.0%から同0.0%へと上方修正されるだろう。その他の需要項目では、6月の建設総合統計が反映されることなどから、公的固定資本形成が1次速報の前期比2.3%から同2.6%へと上方修正されると予想する。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2016年09月01日「経済・金融フラッシュ」)

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