2016年08月24日

中国経済見通し~上期は持ち直しも下期には再減速へ、景気対策なしでは失速しかねない状況

三尾 幸吉郎

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1.GDP統計(供給面)

(図表-1)中国の実質成長率(前年同期比) 2016年上期(1-6月期)の中国経済を振り返ると、1-3月期には景気が下振れしたものの、4-6月期には持ち直すこととなった。4-6月期の実質成長率は前年同期比6.7%増と1-3月期と同じ伸び率で横ばいだった(図表-1)。しかし、前期比で見ると4-6月期は前期比1.8%増と年率換算すれば7.4%前後の高い伸びを示した(図表-2)。1-3月期には同1.2%増(改定後、年率換算4.9%前後)まで低下して、このまま景気が失速するのではないかとの懸念が浮上していただけに、今年の成長率目標(6.5-7%)を上回る伸びを示したことで、市場には安心感が広がった。
産業別の内訳を見ると、第3次産業の実質成長率が高く第2次産業が低いという二極化が続いている。しかし、第2次産業には回復の動きがでてきた一方、第3次産業には鈍化の兆しがでてきた。第2次産業は1-3月期の前年同期比5.9%増から4-6月期には同6.3%増へ0.4ポイント上昇、2015年上期までの「急ピッチな減速」には歯止めが掛かり、「6%前後」で一進一退となっている。一方、第3次産業は1-3月期の前年同期比7.6%増に続いて4-6月期も同7.5%増と2四半期連続で7.5%半ばに留まり、それまでの「8%前後」から「7.5%前後」へと伸びが鈍化した(図表-3)。
(図表-2)中国の実質成長率(前期比、季節調整後)/(図表-3)産業別の実質成長率
今後の行方としては3つのシナリオが挙げられるだろう。第2次産業が「6%前後」を維持し第3次産業も「7.5%前後」の比較的高い伸びを維持する(現状維持シナリオ)、第2次産業が「6%前後」での一進一退から上向く又は第3次産業が「8%前後」の高い伸びに復帰する(楽観シナリオ)、第3次産業は「7.5%前後」の伸びを維持するものの第2次産業が再び「急ピッチな減速」に見舞われる(悲観シナリオ)の3つである。どのシナリオになるかを考える上では、次章で述べる需要面の動きと合わせて見極めていく必要があるだろう。
 

2.需要面の動き

2.需要面の動き

1|消費
消費は比較的高い伸びを維持している。消費の代表指標である小売売上高の動きを見ると、2016年1-7月期に前年同期比10.3%増と、昨年通期の同10.7%増をやや下回っているものの、10%台の高水準を維持している(図表-4)。但し、インフレ率がやや上昇したことを受けて、価格要因を除いた実質では1-6月期に前年同期比9.7%増と昨年通期の同10.6%増を0.9ポイント下回った。内訳を見ると、衣類や家電類の伸び鈍化が目立つものの、自動車は2015年10月に再開された小型車減税(排気量1.6L以下)が支援となって前年同期比7.9%増と回復、家具類はやや伸びが鈍化したものの住宅販売の回復を背景に同15.3%増と高い伸び率を維持している(図表-5)。
(図表-4)小売売上高の推移/(図表-5)産業別に見た小売売上高(限額以上企業)の動き
(図表-6)企業利益と個人所得 今後の消費動向を考えると、雇用指標に大きな落ち込みは見られず1、中間所得層の充実というトレンドが引き続き追い風となることから、比較的高い伸びを維持すると見ている。但し、2015年よりは伸びが鈍りそうである。ひとつのマイナス材料が所得の伸び鈍化である。2015年の工業企業利益は前年比2.3%減と落ち込んだものの、最低賃金の引き上げなどで都市部一人当たり可処分所得は前年比8.2%増と前年の伸びをやや下回る程度に留まった。しかし、企業利益の落ち込みが続けば賃金に反映しかねないため、中国政府は税制改革(営業税⇒増値税)や社会保険料率等の引き下げで企業負担を軽減する財政運営を進めている。企業負担の軽減で利益が上がれば、個人への所得分配の低下を回避できるからである。2016年に入り1-6月期の工業企業利益は前年同期比6.2%増と上向いた。ところが、昨年の企業利益が落ち込んだこともあり、都市部一人当たり可処分所得は前年同期比8.0%増と前年を下回った。もうひとつのマイナス材料がインフレ率である。昨年は原油価格などの下落を受けて、実質ベースでの都市部一人当たり可処分所得は前年比6.6%増と前年をやや下回る程度に留まった。しかし、1-6月期の都市部一人当たり可処分所得(実質ベース)は前年同期比5.8%増と前年の前年比6.6%増を0.8ポイントも下回っている(図表-6)。

1 中国政府は過剰生産能力削減を下期に加速する方針を示したことから失業増が懸念される。一方、その方針を示すまでの経緯を見ると、4月に再就職プランを配布するなど人員再配置・再就職に万全を期して準備を進めてきた。従って、今回の過剰生産能力削減加速を直接の原因として雇用不安に陥る可能性は低いと見ている。但し、民間投資の急減速などその他の要因で雇用不安に陥る恐れは残る。
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三尾 幸吉郎

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