2016年08月23日

消えたPBR効果~足元の復調は続くのか~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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6――背景には成長格差の拡大か

では、なぜ2010年以降、PBRの収斂が弱かったのでしょうか。その背景の一つには、低PBR銘柄と高PBR銘柄の資本成長率の差が拡大したことが上げられます。高PBR銘柄と低PBR銘柄の資本成長率の差を見てみると、2010年度以降はその差は広がる傾向にありました【図表10】。特に、「除く金融」の場合にその傾向が顕著でした。

やはり自己資本の成長が見込みにくい企業の評価は、投資家の間で見直されにくいのではないでしょうか。そのため、資本成長率差が拡大傾向にあった足元6年(2010~2015年度)は、低PBR銘柄の企業価値が見直されず、PBRの水準が相対的に低い状態が続きやすかったと筆者は考えています。

加えて、資本成長率の差の大きさ自体もPBR効果に影響します。高PBR銘柄の自己資本が大きくなればなるほど、期末の高PBR銘柄のPBRを押し下げ、PBRからみた割高感が解消されるためです。PBRの収斂度合いが同じ場合、資本成長率の格差が大きいほど、PBR効果が小さくなります【図表11】。2015年度は、市場全体が調整し企業価値評価の見直しが入り、PBRの収斂が「除く金融」では見られましたが、PBR効果が得られませんでした。資本成長率の格差が大きかったことも要因といえます。
【図表10】 高PBR銘柄と低PBR銘柄の資本成長率の差の推移/【図表11】 資本成長率とPBR効果のイメージ

7――PBR効果の復活はまだ先の話か

7――PBR効果の復活はまだ先の話か

2016年度は、久々にPBR効果が年を通してあらわれるのでしょうか。まず、足元4月以降のラッセル野村スタイル・インデックスの動きを見てみましょう。6月下旬から7月上旬にかけて市場全体が下落し、特にバリュー指数が下落しました。グロース指数とのリターン差は、期初からの累積で一時▲6%に迫りました【図表12:左】。7月中旬以降は、市場と共にバリュー株が大きく反発したため、バリュー指数がグロース指数をやや上回るまで回復しました。

足元の状況は、PBRの収斂自体がみられなかった2005、2012、2014年度とは市場環境が大きく異なっています。そのため、PBRの収斂は起こると思われます。ただし、低PBR銘柄の資本成長率の低迷は続くかもしれません。高PBR銘柄の株価がBPS成長を織り込む過程で、再び高PBR銘柄(グロース指数)が浮上してくることも考えられます。

また、金融関連銘柄は2016年度に入っても、金融政策や株式市場の動向に左右され、株価が市場以上に大きく変動する展開が続いています【図表12:右】。そのため、金融関連銘柄が引き続きPBR効果に大きく影響することもあると思います。

以上から、7月上旬以降、バリュー指数が急反発していますが、この流れのまま2016年度を通してPBR効果があらわれる可能性は高くないと筆者は考えています。特に「全業種」では、今後の金融関連銘柄の動向にも注意が必要といえるでしょう。
【図表12】 2016年度の株価の推移
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2016年08月23日「基礎研レポート」)

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