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EUソルベンシーIIの動向-UFR(終局フォワードレート)水準の見直しを巡る動きと今後の展望-
中村 亮一
いずれにしても、今後は、欧州委員会(European Commission)等の関与やそれを巡る動きが注目されるところとなってくるものと思われる。
今回のUFRの見直しについては、EIOPAは法的枠組みの適用の一部として、方法論の開発を行っており、「方法論については、欧州委員会と欧州議会によって承認されることになっていない。」としている。
これに対して、欧州委員会も、EIOPAが方法論を開発することには異論を挟まないが、「EIOPAが月次で発行しているリスクフリーレートが、強制的でEU全体に適用されるためには、委員会の承認が必要とされている。」と整理することで、今回の議論への関与及び決定権限の保持を主張していく方針のようである。
4|今後の動向については、不透明性が拡大
先のコメントにあるように、今回のUFRの引き下げに反対している関係者は、2018年の標準式の見直しや、2021年のLTGMの見直しに合わせる形で、UFRを見直すべきと主張することで、引き下げのタイミングを遅らせることを望んでいる。
従って、今回の問題についても、LTGMに関連して、過去に取られたアプローチと同様な形になることを目指して、欧州委員会への働きかけを行っているようである。これを受けて、欧州委員会も即時の変更に対して反対の姿勢を示していると言われている。
このように欧州委員会を巻き込む形になっていくと、「単なるUFR水準の見直し」ということにとどまらず、「規制の枠組みの妥当性」を含む幅広い議論になっていく可能性も出てくることになる。
いずれにしても、こうした点を含めて、事態が複雑化し、より一層不透明になっていく可能性も否定できないものと思われる。
7―まとめ
本来は理論的に整理されていくべきUFR制度の設計だが、その水準の持つ意味合いの重要性から政治的な色彩が強くなってしまう面があるのも止むを得ないと思われる。
ただし、いずれにしても、現在の指令に定められたスケジュールによれば、ソルベンシーIIに関して、2018年までに標準式の見直しが、2021年までにLTGMの見直しが行われることになるため、現時点でのUFR水準の見直しに反対している関係者も含めて、遅くともこの時期までには何らかの見直しが行われることについてはコンセンサスが得られていくものと思われる。
なお、こうしたEUのソルベンシーIIにおけるUFRの見直しに合わせる形で、現在各国の制度で使用されている様々なレベルにあるUFRの水準が、どの程度調整が図られて、整合的なものになっていくのかは気になるところである。
具体的には、ユーロのUFR水準について、現在のソルベンシーII制度では4.2%(EIOPAのCPによる見直し案では3.7%)、IAISのICSでは3.5%、スイスのSSTでは3.9%、若干意味合いは異なるかもしれないが、オランダの年金負債評価では3.3%等と設定されており、複数の水準が存在する形になっている。
UFR制度の信頼性を高めていくためにも、UFR水準の設定の考え方や市場金利の流動性の指標となるLLPの設定等、リスクフリー曲線等の設定方法についての統一化ができる限り図られていくことが望まれる。
UFRを巡る議論は世界的にも極めて注目されているものである。日本の保険会社においても、UFRの導入の機運が広がってきているように見受けられる。今後も、EIOPAにおいてだけでなく、IAIS等における検討状況やそれに対する関係者の反応等を注視していくことで、議論の行方や決着の状況をフォローしていくこととしたい。
中村 亮一
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(2016年08月22日「基礎研レポート」)
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