2016年08月22日

EUソルベンシーIIの動向-UFR(終局フォワードレート)水準の見直しを巡る動きと今後の展望-

中村 亮一

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2|DAV(ドイツアクチュアリー会)のコメント
DAVは、例えば、次ページの内容のコメントを提出している。その中で、「UFR水準の見直しは、(a)EIOPAの2016年ストレステスト、(b)EIOPAによるLTGM(Long Term Guarantee Measures:長期保証措置)の影響のレビュー、(c)EIOPAによる標準式のレビュー、を考慮に入れて、後日レビューを検討することが、UFRルールの精神や意図とより整合的である。」「UFRの年間の変更幅については、例えば毎年5bp~10bpのように、より制限的にすべきである。」と述べている。
DAV(ドイツアクチュアリー会)のコメント
3|GDV(ドイツ保険協会)のコメント
GDVも、例えば、以下の内容に加えて、Insurance EuropeやDAVで触れられている論点に基づく数多くのコメントを提出している。
GDV(ドイツ保険協会)のコメント
4|Allianz(アリアンツ)のコメント及び反応
Allianzは、個別の保険グループとしても、今回のCPに対して、以下のコメント及び提案を行っている。
Allianz(アリアンツ)のコメント及び反応
Insurance Europeの会長のSergio Balbinot氏は、Allianzの経営委員会のメンバーであるが、5月に開催されたInsurance Europe の年次会議で「ソルベンシーIIは現在既に十分に保守的な水準にある。UFRの水準を引き下げて、資本要件を増やすことは、殆どの会社にとって、さらにより保守的なアプローチをもたらすことになる。資本は希少資源であり、そのコストを支払わなければならない。過剰資本は、手数料や資産運用に影響を与えることから、保険契約者に直接的な悪影響をもたらすことにつながる。」と述べていた。
5|CFO Forum 及び CRO Forumのコメント
欧州の保険会社のCFO(チーフ・フィナンシャル・オフィサー)やCRO(チーフ・リスク・オフィサー)から構成されるCFO ForumやCRO Forumも、例えば、以下の内容に関して強い懸念を有している旨のコメントを提出している。
CFO Forum 及び CRO Forumのコメント
6|DNB(オランダ中央銀行)の反応
オランダの監督当局であるDNBは、ソルベンシーIIのUFRのさらに低い水準への引き下げとユーロの割引曲線の収束速度の見直しを呼びかけている。

DNBは、「現在のUFRと市場金利との差は、『低金利環境が保険会社の財務報告において一部しか反映されず、保険会社のソルベンシー・ポジションがあまりにも楽観的な財務状況を示す程度まで』、近年着実に増加している。」と述べている。

さらに、現在のコンサルテーション・ラウンドはUFRの水準を決定することに関連しているが、DNBはEIOPAに対して、UFRの計算方法の他の側面を検討するように促している。具体的には、DNBは、20年のLLP(最終流動性ポイント3と40年の曲線の補外を拡張することを提案している。

新しいUFR方法論の影響は「オランダの生命保険会社は、平均して多くの長期負債を有しているので、オランダの保険会社にとって相対的に大きいものかもしれない。」とDNBは述べている。

なお、DNBは、2015年7月14日に、オランダの年金基金の負債評価のためのUFRの算出方法を変更し、その結果として、2015年7月15日から適用するUFR水準を4.2%から3.3%に引き下げている。今回の動きを受けて、こうした年金基金のUFRを算出する方法が「最も適切である」と主張している4
 
3 市場金利をそのまま採用する最終点
4 オランダの年金負債評価におけるUFRについては、基礎研レター「超長期の金利水準はどのように決定されていくべきなのか―UFR(終局フォワードレート)について―」(2015.7.13)を参照いただきたい。
 

4―CPで示されたUFR水準の見直しに伴う影響

4―CPで示されたUFR水準の見直しに伴う影響

現在志向されている案によれば、改訂後のUFRの水準は3.7%になるが、引き下げは、数年かけて段階的に行われていくことになる。具体的には、UFRの水準は、2019年に3.7%となり、さらに現在のデータが変化しないと仮定すれば、2020年には(IAISのICSが検討している水準である)3.5%となることが想定されている。

このように、CPの提案は、UFR水準の引き下げに伴う各種の影響の大きさを勘案して、毎年の最大の変更幅を20bpにとどめてはいるが、それでもUFRが有すべき安定性の観点からは、変更による影響の度合いを指摘するコメントが多数提出されている。

1|全体の影響度
UFR水準の引き下げは、保険負債の増加を通じて、保険会社のソルベンシー・ポジションの悪化をもたらすことになる。EIOPAによれば、UFRの水準が3.7%になった場合、保険会社の適格自己資本は平均で5%程度侵食されることになる。

2|各国毎の影響度
ただし、UFR水準の引き下げの影響は、欧州全域で均一となっているわけではなく、会社の負債構造等によっても異なってくることになる。さらには、表面的なソルベンシー比率は、各種の経過措置の使用の有無によっても異なってくることになる。

具体的には、国毎にみた場合、特に、高い予定利率保証水準やデュレーション・ギャップの存在から、ドイツとオランダの保険会社のソルベンシー比率等に大きな影響を与えることになる。

ドイツの場合、移行措置が広範に認められていることから、ソルベンシー比率への影響は一定程度緩和されることになる。ただし、低いUFRの水準は、保証水準を引き下げた商品等の低資本商品(Capital Light Products)へのシフトを加速させていくことになる。

オランダの場合、DNBの厳しいスタンスにより、移行措置の使用等が認められていないため、よりUFR水準の引き下げの影響を直接的に受けることになる。
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中村 亮一

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