2016年08月15日

【タイGDP】4-6月期は前年同期比+3.5%~追加の景気刺激策で回復基調を維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2016年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比3.5%増1と、前期の同3.2%増からやや上昇し、Bloomberg調査の市場予想(同3.2%増)を上回った。

需要項目別に見ると、民間消費の拡大が成長率を押し上げたことが分かる(図表1)。

民間消費は前年同期比3.8%増と、耐久財・半耐久財が拡大して前期の同2.3%増から小幅に上昇した。タイ正月(ソンクラーン)中の消費刺激策1や農業所得の増加、そして年初に実施された物品税改正の影響の緩和による新車販売台数の反動増などが消費を押上げた。

政府消費は同2.2%増(前期:同8.0%増)と増加基調を維持したものの、前期に国民健康保険の支出を加速させた反動で移転支出を中心に低下した。

また投資は同2.7%増と、前期の同4.9%増から低下した。公共投資は同10.4%増と、輸送インフラや治水事業など公共事業の執行によって急増した前期(同13.3%増)からの反動でやや低下した。また民間投資は同0.1%増(前期:同2.1%増)と、高水準の家計債務や銀行の貸出姿勢の厳格化、住宅購入支援策の終了(4月)を受けた建設投資を中心に低下した。

純輸出は、まず輸出が同0.6%増(前期:同4.9%増)と低下した。財貨輸出は同2.5%減(前期:同1.0%増)と減少した。コメやエビといった農水産品の輸出は増加したものの、電子製品やピックアップトラック、石油化学製品など工業製品を中心に減少した。またサービス輸出も同12.1%増と、訪タイ外国人観光客数の拡大を受けて高い伸びとなったものの、前期(同18.2%増)からは低下した。一方、輸入は同2.2%減(前期:同4.7%減)と、製造業が持ち直すなかで金属や電子部品、電気機械といった素材・中間財が回復し、マイナス幅が縮小した。その結果、外需の成長率への寄与度は+2.0%ポイントと、前期の+6.7ポイントから縮小した。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイの外国人観光客数
供給項目別に見ると、農林水産業が低迷する一方、堅調な非農業部門が景気を支えていることが分かる(図表2)。

農林水産業は前年同期比0.1%減(前期:同1.4%減)と、6期連続の減少となった。引き続きエルニーニョ現象を背景とする干ばつの影響が残り、コメ、サトウキビ、トウモロコシ、ゴム、油ヤシなど主要の農産品を中心に減少した。なお、漁業は同13.2%増と、海外需要の拡大やベトナムでのエビの病気流行に伴う代替需要が生じて好調だった。

非農業部門では、まず全体の3割弱を占める製造業が同2.0%増となり、前期の同0.2%増から持ち直した。軽工業や紙・紙製品や石油製品などの素材関連は低迷したものの、自動車やエアコンの国内販売が好調で資本・技術関連産業が増加したことが製造業全体を押上げた。また建設業は同7.5%増(前期:11.2%増)と、公共部門の新規プロジェクトが乏しく低下した。サービス業は卸売・小売業が同5.4%増(前期:同5.0%増)、金融業が同4.5%増(前期:同4.3%増)、ホテル・レストラン業が同12.7%増(前期:同15.8%増)、運輸・通信業が同4.2%増(前期:同5.6%増)と全体を上回る一方、不動産業が同2.3%増(前期:同3.3%増)が全体を下回った。総じて、サービス業は鈍化した業種こそ多いものの、堅調に推移している。
 
タイ経済は、依然として政府支出と観光業(図表3)が牽引しているものの、政情安定化や景気刺激策による押上げ効果が剥落し、その牽引力は弱まりつつある。また財貨輸出が4期連続のマイナスを記録するなど輸出主導の回復軌道に入れず、企業と消費者のマインドは低迷したままとなっている(図表4)。しかし、4-6月期は内需主導の経済成長への転換を進める政府が4月にソンクラーン休暇中の所得減税策を実施したこと、また農産品価格の上昇による農業所得の改善も追い風となって民間消費が拡大し、景気は回復基調を維持している。

今後についても外需の回復には期待できないものの、大型予算(前年比7.8%増)の執行と観光業の拡大が景気を支えると共に、干ばつの悪影響が弱まるなかで農業所得の改善が個人消費の追い風となるだろう。また景気下振れ時には政府の追加刺激策が需要を喚起すると見込まれ、成長率は現行の3%台前半の水準が続きそうだ。
(図表3)タイ実質GDP成長率(供給側)/(図表4)タイの企業景況感と消費者信頼感
 
1 8月15日、タイの国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)は2016年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。なお、前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は0.8%増と前期の同0.9%増から低下した。
2 政府は4月のソンクラーン(4月13~15日)に伴う9日間の休暇中の飲食費と旅行関連費用を対象とした所得控除策(上限は1万5,000バーツ)を実施した。政府は同様の消費刺激策を12月25-31日にも実施している。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年08月15日「経済・金融フラッシュ」)

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