2016年08月10日

米国生保業界における2015年のM&A動向-日中の生保会社によるM&A、非伝統的な買収者の活動-

松岡 博司

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2――米国における2015年の生命保険会社M&Aの特徴

表1は、米国の生保会社をターゲットとする2015年の主なM&A案件である。これから見られる2015年の特徴を、(1)日中の生保会社による活発なM&A、(2)非伝統的な買収者と事業閉鎖・ランオフ、の2点に絞って説明する。
表1 2015年 米国の生命保険会社をターゲットとする主なM&A案件
(1)日中の生保会社による活発なM&A
 
表1で見られる通り、2015年の米国におけるM&Aの最大案件は、わが国 明治安田生命のスタンコープ・ファイナンシャル買収(50億ドル)、第2位案件は、わが国 住友生命のシメトラ・ファイナンシャル買収(37.6億ドル)である。続いて第3位には、中国の安邦(アンバン)保険グループによるフィデリティ&ギャランティ・ライフ買収(15.7億ドル)が入る。第4位案件のゲンウォース・ファイナンシャルの定期保険事業を買収したプロテクティブも、2014年に第一生命が買収合意し2015年に買収を完了した会社なので、2015年においては、実に上位4案件が日中の生保会社が仕掛けた買収案件となっている。

先に記載したとおり、コニング社の統計では、2015年に米国生保会社が買収社または被買収社として関係した案件は17件、118億ドルということであったので、金額的には、日中が絡む上位4案件をあわせた109.91億ドルで、全体金額118億ドルの93%を占める状況になっている。

この傾向は1年前の2014年にも、全案件78億ドル中の57億ドルを第一生命によるプロテクティブ買収が占めるという状況として、現れていた。

コニング社のデータによれば、明治安田生命と住友生命の案件は、世界全体の2015年の生命保険会社M&A案件の中でも、第1位、第3位にランクインする案件となっている。

またアンバン保険グループの案件も世界全体の中で第7位に位置づけられている。同社は2015年、韓国においても東洋生命を買収しているが、これも世界全体の生命保険会社M&Aの第10位にランクインしている。このように2015年は、日中の生保会社による積極的な買収が、世界的に注目を浴びることとなった。

日本の生保会社によるM&Aを通じた米国市場への参入について、コニングは、「ホームマーケットの人口縮小に直面して、日本の生保会社は、2015年、先進国マーケットの生保会社を買収することにより成長することも目標に含めることとした。」、「日本の生保会社によるアグレッシブな買収は、日本国内の低金利、収益性等の逆風を受けて活発化した」と解説している。また、明治安田生命の「われわれは米国を含む先進国市場に参入することにより、可及的速やかに海外事業からの利益を確保することが重要だと考えている。」、住友生命の「買収は住友生命の海外事業を多様化し収益基盤を強化する」という趣旨の言葉を紹介している。

一方、アンバン保険グループによる買収については、「中国の買収者たちは、ホームグラウンドの外側に、投資すべき資産を捜している」と解説している。

なお、アンバン保険グループは、近年、世界各国の保険会社やホテルの買収案件に顔を出し、知名度を高めてきた保険グループである。ニューヨークでは名門ホテル、ウォルドルフ・アストリアホテルを買収した。しかし最近は、シェラトンやウェスティンブランドのスターウッド・ホテルズの買収合戦に顔を出し、その後提案を取り下げる等の動きを見せ、M&Aの遂行体制に疑問を呈される状況ともなっている。表1のフィデリティ&ギャランティ・ライフ案件についても、グループの株主構成についての詳しい情報を求めた監督当局の要求に応じなかったため、買収認可を取得する見通しが立たなくなったとの報道が、最近なされている。
 
(2)非伝統的買収者の登場と事業閉鎖、ランオフ
 
低金利等、厳しい経営環境が続く中、生保会社は、成果の上がらない事業や自社の戦略にフィットしない事業の打ち切りを望むようになった。そうした状況を背景に、2010年頃から、プライベート・エクイティ会社やヘッジファンド等の短期投資家、保険会社が事業再編のために保険の引受を停止した事業ブロックの保険契約の管理を行うランオフ事業者といった、典型的な保険会社ではない買収者が登場し力を得てきている。事業ブロックの買収に専門性を持つ再保険会社も多くの買収を手がけている。

こうした非伝統的な買収者たちは、投資に関する専門知識、契約管理能力等、自身が有する専門性を用いれば、伝統的な生保会社が収益をあげることができなかった事業ブロックからでも利益をあげることができると考えている。

例えば、表1の第6位案件と第8位案件に顔を出すナッソー再保険グループは、プライベート・エクイティー会社であるゴールデンゲート・キャピタルが出資する保険グループである。第7位の案件はスイス再保険の関係会社による買収案件であるし、第9位の案件はランオフ事業の買収案件、第4位案件と第5位案件はともにゲンウォースの事業再編に絡む案件である。非伝統的買収者、事業閉鎖、ランオフというキーワードが米国生保市場において、重要な意味を持つようになっている。
 

さいごに

さいごに

世界各国で全産業的にM&Aの勢いが増す環境下、米国の生保業界におけるM&Aの今後についても、その動きが拡大して行くであろうと見る向きが多い。

本稿では、(1)日中の生保会社による活発なM&A、(2)非伝統的な買収者の登場と事業閉鎖・ランオフ、という2点だけにポイントを絞って、米国生保業界におけるM&A動向を見てきたが、日中の生保会社が買収者として米国生保市場に参入する動きは、まさにわが国生保業界自身の問題でもある。

今後とも、米国生保業界を舞台とするM&Aの動きについて、注視して行くこととしたい。
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松岡 博司

研究・専門分野

(2016年08月10日「保険・年金フォーカス」)

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