2016年08月10日

【東南アジア経済】ASEANの輸出動向(8月号)~2ヵ月連続でマイナス幅縮小も、未だ底打ちせず

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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16年6月のASEAN主要6カ国の輸出(通関ベース)は前年同月比2.4%減と、前月(同3.5%減)から上昇した(図表1)。輸出の減少幅は昨年に比べて明らかに縮小しているものの、依然として海外需要は低調で、農産物価格と石油価格も低水準で推移しており、輸出の底打ちには至っていない。
(図表1)ASEAN6ヵ国合計の輸出の伸び率(国別寄与度)/(図表2)ASEAN6ヵ国輸出の伸び率
(図表3)タイ輸出の伸び率(品目別) タイの16年6月の輸出額は前年同月比0.1%減と、前月の同4.4%減から上昇した(図表3)。2~3月に多国間共同軍事訓練など一時的な要因で増加した後は減少したが、6月は概ね横ばいとなった。今後も工業製品の拡大が続けば底打ちする気配が出てきた。また輸出数量指数は同2.3%増と、前月の同3.1%減からプラスに転じた。

品目別に見ると、主要工業製品は同3.1%増(前月:同2.8%減)と3ヵ月ぶりのプラスに転じた。自動車・部品(同22.0%増)と家電製品(同6.6%増)は顕著な改善が見られる一方、電子製品(同2.4%減)と機械・装置(同5.6%減)は減少している。また鉱業・燃料(同39.9%減)は引き続き大幅減少となった。農産品・加工品は同2.7%減(前月:同4.2%減)と、ゴム(同23.2%減)や砂糖(同8.1%減)、魚の缶詰(同5.7%減)を中心に3ヵ月連続で減少した。
(図表4)マレーシア輸出の伸び率(品目別) マレーシアの16年6月の輸出額は前年同月比3.4%増(ドルベースでは同5.2%減)と、前月の同0.8%減からプラスに転じた(図表4)。機械類が堅調に増加すると共に石油・ガスの輸出の落ち込みが和らいだことが全体を押上げた。また輸出数量指数についても同7.4%増と、前月の同0.3%減から上昇した。

品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器が同5.4%増(前月:同4.3%増)と、電気機械と通信機器を中心に堅調を維持した。また原油や天然ガスなどの鉱物性燃料は同2.6%減(前月:同23.3%減)と、主に輸出数量の回復によってマイナス幅が一桁台まで縮小した。一方、年明けに増加傾向が続いた動植物性油脂は同19.3%減(前月:3.7%減)とパーム油を中心に大きく低下し、2ヵ月連続のマイナスとなった。
(図表5)インドネシア輸出の伸び率(品目別) インドネシアの16年6月の輸出額は前年同月比4.4%減(前月:同9.7%減)とマイナス幅こそ縮小したが、資源の価格低迷と鈍い海外需要を背景に21ヵ月連続のマイナスとなった(図表5)。また輸出数量は同2.9%増(前月:同2.2%減)と、2年半ぶりのプラスとなった。

品目別に見ると、輸出全体のそれぞれ1割強を占める石油ガスが同17.6%減、鉱業製品が同6.3%減と、資源価格の低迷を受けて減少しており、全体の重石となっている。農産品についても同13.2%減と、動植物性油脂を中心に減少した。また製造品は同1.9%減(前月:同0.8%減)と、鉄鋼製品や電気機械を中心に低下した。
(図表6)ベトナム輸出の伸び率(品目別) ベトナムの16年6月の輸出額は前年同月比3.9%増(前月:同5.3%増)と製造業を中心に増加傾向を維持しているが、足元では伸び悩みが目立つ(図表6)。

品目別に見ると、織物・衣類が同7.0%増(前月:同5.9%増)、コンピュータ・電子部品が同12.4%増(前月:同3.1%増)とそれぞれ上昇した一方、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同0.4%増(前月:同8.2%増)と急低下した。また履物も同5.6%増(前月:同7.8%増)と低下した。

資本別に見ると、輸出全体の7割を占める外資系企業が同4.5%増(前月:4.7%増)、地場企業が同0.6%減(前月:同0.5%増)とそれぞれ低下した。
(図表7)シンガポール輸出の伸び率(品目別) シンガポールの16年6月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比2.3%減(米ドルベースでは同2.8%減)となり、前月の同11.6%増から大きく低下し、2ヵ月ぶりのマイナスとなった(図表7)。なお、5月は英EU離脱を問う国民投票を控え、安全資産である金輸出の大幅な増加(同436.7%増)が全体を大きく押上げた。

品目別に見ると、輸出(石油と再輸出除く)全体の約3割を占める電子製品は同1.7%減(前月:同6.0%減)とマイナス幅が縮小した。好調の通信機器(同4.0%増)の伸び悩みに加え、主力のPC(同29.0%減)、PC部品(同8.5%減)、ダイオード・トランジスタ(同2.9%減)など幅広い品目が低迷した一方、IC(同7.0%増)は9ヵ月ぶりにプラスに転じた。また同じく全体の約3割を占める化学製品は同8.7%減(前月:同4.1%減)と、医薬品と石油化学製品が揃って低下した。その他製品についても同2.7%増(前月:同37.0%増)と低下した。
(図表8)フィリピン 輸出の伸び率(品目別) フィリピンの16年6月の輸出額は前年同月比11.4%減と、前月の同3.8%減から一段と低下した(図表8)。これまで輸出を牽引してきた電子製品が2期連続でマイナスとなり、輸出不振が長引く恐れがある。

上位10品目を見ると、唯一増加したのは雑品(同137.7%増)であり、その他9品目は軒並み減少した。まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同5.1%減(前月:同4.0%減)と低下した。電子製品の内訳を見ると、電子データ処理機が同13.8%増と3ヵ月連続の二桁増となる一方、半導体デバイスが同8.7%減と4ヵ月連続の二桁減となった。また機械・輸送用機器(同31.6%減)、その他製造品(同26.1%減)、木工品・家具(同14.5%減)、イグニッションワイヤーセット(同10.2%減)は前月からマイナスに転じた。このほか、その他鉱産物(同41.1%減)、化学(同25.7%減)、金属部品(同2.2%減)、ココナッツオイル(同2.0%減)は引き続き減少した。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年08月10日「経済・金融フラッシュ」)

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