2016年08月09日

IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)について-公表された市中協議文書の概要と関係団体からの初期反応等-

中村 亮一

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3―2016 ICS CDの全体像

1|プレス・リリース資料による説明
2016 ICS CDについて、IAISによるプレス・リリースによれば、以下の通りとされている。
IAISによるプレス・リリース
2|協議期間等
2016 ICS CDに対する協議期間については、その重要性を考慮して、(これまでの2ヶ月を延長して)3ヶ月とし、2016年10月19日まで、となっている。

2016 ICS CDは、技術的な質問に焦点を置いており、多くの問題が協議にかけられている。200以上の質問が含まれているが、殆どの質問は、「yes or no」での回答とその説明が求められる形となっている。

なお、これまでの関係者との非公式な協議プロセスを通じて、2016 ICS CDに対する重要問題の多くについては、プレビューがなされてきた、としている。

3|2016 ICS CDのカバーする範囲等
2016 ICS CDは、2016年のフィールドテストで検討されているアプローチの背景と合理性を提供しており、より技術的な詳細については、同時に公開された「2016 Quantitative Field Testing package」に提供されている。

2016 ICS CDは、先に述べた、1) 評価方法(valuation)、2) 適格資本リソース(qualifying capital resources)、3) ICS資本要件を決定するための標準手法(standard method for determining the ICS capital requirement)に加えて、4) グループの範囲(ICS算出の境界線)、5) 税に対する全体論的アプローチ(holistic approach)に対する予備的考察、をカバーしている。

ただし、以下のような長期的な戦略問題は含まれていない。

 (a)内部モデル(ICS Version 1.0からICS Version 2.0への発展の中で検討される)
 (b)実践におけるICSの比較可能性の評価手法
 (c)ICSがIMFのFSAPの一部となる可能性
 (d)ICS Version 2.0が消費者や投資家の教育を含むパブリックに対して伝達される方法
 (e)既存の監督制度からICSの実施への移行措置
 (f)グループベースの連結資本要件として、ローカルな法的単体資本要件とICSの間の相互作用
 (g)資本の代替可能性
 

4―2016 ICS CDの概要

4―2016 ICS CDの概要

2016 ICS CDの概要のうち、IAISがフィードバックを求めている主要な要素としている3点に関しては、以下の通りとなっている。

1|評価方法(valuation
(1)市場価値調整ベース(Market Adjusted Valuation:MAV)、(2)GAAP調整アプローチ(GAAP4 with Adjustments(GAAP PLUS)、以下「GAAP+」という)、の2つの評価方法が提案されている。

2つの方式の類似性については、1) 各管轄地域のGAAPからスタートして、調整を加えること、2) 技術的準備金に現在推計への調整を行うこと、3) 過度なボラティリティやプロシクリカリティを制限する合理的なアプローチを目指していること(そのためのアプローチは2つの評価方式で異なるかもしれない)、4) 資本リソースに関して同じ定義・仕様を用いていること、としている。

一方で、差異については、1) GAAP+の場合、全ての金額と調整は、独立した監査人による監査を受ける金額とプロセスやシステムに依存しているのに対して、MAVにおいては、監査への依存は明示的な原則ではない、2) MAVとは異なり、GAAP+の調整は、監査対象の残高やプロセスの使用を最大化し、資産と負債の対称的な評価を生成するために、管轄地域(時には会社)によって異なるかもしれない、3) 管轄地域によっては、GAAP+の数値は市場ベースではなく、MAVデータに適用されるストレスと比較して、ストレスに対して異なるように反応する、と説明されている。

(1)市場価値調整ベース(MAV)
(1-1)基本的なイールドカーブ
保険負債に対して、現在推計を使用するが、現在推計は、偏りのない最新の前提条件を用いて、保険債務を履行する際に生じる全ての関連する将来キャッシュフローの期待現在価値を反映する。

ここで、保険負債の割引率については、IAISが指定する通貨別のイールドカーブを使用する。

イールドカーブについては、EUのソルベンシーIIにおけるUFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)に相当するLTFR(Long Term Forward Rate:長期フォワードレート)を使用する。

LTFRは、1) 長期経済成長率と、2) 長期インフレ目標 の合計値 で決定される。

「1) 長期経済成長率」は、実質金利を表し、50年間の経済成長予測に基づいて、2つのバケットに区分(OECD加盟国 1.5%、OECD非加盟国 2.75%)される。また「2) 長期インフレ目標」は、中央銀行のインフレ目標等に基づいて、以下の6つのバケットに区分されている。
中央銀行のインフレ目標等
結果的に、具体的な通貨別のLTFRの水準は、以下の通りとなっている。
具体的な通貨別のLTFR水準
 
4 GAAP(Generally Accepted Accounting Principles:一般に(公正妥当と)認められた会計原則)
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中村 亮一

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