2016年08月22日

学歴別に見た若年労働者の雇用形態と年収~年収差を生むのは「学歴」か「雇用形態(正規・非正規)」か

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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2――学歴別に見た若年労働者の状況

(図表1)図表1 短大・大学・大学院進学率の推移  1大学等進学の状況~大学進学率は2015年で男性55.4%、女性47.4%。男性は頭打ち。
まず、近年の進学状況を確認する。大学進学率は、男女とも1990年代から大きく上昇し、2015年では男性は55.4%、女性は47.4%であり、男性ではやや頭打ちの状況である(図表1)。女性では大学進学率の上昇に伴い、短大進学率は1996年より大学進学率を下回って低下し、2015年では9.3%である。なお、大学院進学率は、男女とも微増・横ばいで推移しており、2015年では男性15.0%、女性6.2%である。
(図表2)若年労働者(在学中を除く15~34歳)に占める正社員と正社員以外の割合 2若年労働者に占める正社員以外の割合~高学歴ほど低いが大学卒20.4%、大学院修了12.3
近年、若年層で非正規雇用者が増えていることは冒頭に挙げたレポートで詳しく述べた通りである。本稿では、学歴別の現状を確認する。

厚生労働省「平成25年若年者雇用実態調査」によれば、在学中を除く若年労働者(15~34歳)に占める正社員以外の割合は、中学卒で62.0%、高校卒で42.8%、大学卒で20.4%、大学院修了で12.3%である(図表2)。高学歴ほど正社員以外が少ないが、現在、大学卒でも5人に1人、大学院修了でも10人に1人は正社員ではない。
(図表3)図表3 正社員以外の若年労働者(在学中を除く15~34歳)が正社員以外として勤務した理由 3正社員以外の若年労働者の働き方選択理由~大学卒や大学院修了では約6割が「不本意」
 正社員以外の若年労働者が正社員以外として勤務した理由は、「正社員求人に応募したが採用されなかった」(27.4%)が最も多く、次いで「自分の希望する会社で正社員の募集がなかった」(16.7%)、「元々、正社員を希望していなかった」(15.4%)と続く(図表3)。

学歴別に見ると、「正社員求人に応募したが採用されなかった」は高専・短大卒や大学卒、大学院修了で多く、「元々、正社員を希望していなかった」は中学卒で多い傾向がある。なお、大学卒・大学院修了では、「正社員求人に応募したが採用されなかった」と「自分の希望する会社で正社員の募集がなかった」を合わせると約6割を示す。つまり、大学卒や大学院修了の約6割は不本意な理由で正社員以外の立場で働いていたことになる。
(図表4)正社員以外の若年労働者(在学中を除く15~34歳)の今後の働き方の希望 4正社員以外の若年労働者の今後の希望~大学卒の54.4%、大学院修了の70.7%が「正社員」希望
 正社員以外の若年労働者の今後の働き方の希望は「正社員」(47.3%)が約半数を占めて多く、「正社員以外」(28.7%)が続く(図表4)。

学歴別に見ると、「正社員」は特に大学院修了(70.7%)で多く、次いで大学卒(54.4%)で多い。
 
 

3――学歴別に見た平均年収~大学・大学院卒の非正規雇用者の男性は30歳以上で年収300万円を越えるが、同年代の中学・高校卒などの正規雇用者の男性の年収を下回る

3――学歴別に見た平均年収~大学・大学院卒の非正規雇用者の男性は30歳以上で年収300万円を越えるが、同年代の中学・高校卒などの正規雇用者の男性の年収を下回る

次に、学歴別に平均年収を推計した結果を示す。図表5・6より、性別や年齢階級、雇用形態が同じであれば、平均年収は、中学卒<高校卒<高専・短大卒<大学・大学院卒の順であり、高学歴ほど年収は多い傾向がある。また、若い年代では学歴間の年収差は比較的小さいが、年齢とともに、その差は拡大する。これは高学歴ほど年収水準が高く、年齢に伴う年収の増加幅も大きいためである。

雇用形態による違いに注目すると、性別や年齢階級、学歴が同じであれば、平均年収は非正規雇用者より正規雇用者の方が多く、年齢とともに両者の差は拡大する。また、その差や年齢に伴う差の拡大は高学歴ほど大きい。例えば、高専・短大卒や大学・大学院修了の男性では、年収のピークである50~54歳では正規雇用者の平均年収は非正規雇用者の2倍以上になる。

大学・大学院卒の非正規雇用者に注目すると、男性では同じ年齢階級の中学卒や高校卒、高専・短大卒の正規雇用者の年収をおおむね下回る。女性では40~44歳までは中学卒の正規雇用者の年収を上回るが、45歳以上では逆転も見られる。また、高校卒や高専・短大卒の正規雇用者の年収は下回る。

また、年収300万円という区切りで見ると、正規雇用者では、男性は学歴によらず25~29歳以上、女性は高専・短大卒や大卒・大学院卒の25~29歳以上、高校卒の35~39歳以上、中学卒の45~49歳以上で300万円を上回る。
図表5 性・年齢・雇用形態・学歴別に見た平均年収(2015年)
図表6 性・年齢・雇用形態・学歴別に見た平均年収(2015年)
非正規雇用者では、男性は中学卒や高校卒では全ての年代で300万円を下回るが、高専・短大卒の45~49歳以上、大学・大学院卒の30~34歳以上では300万円を上回る。また、非正規雇用者の大学・大学院卒の男性は、45~49歳以上で、おおむね400万円をも上回る。つまり、非正規雇用者の男性では大学・大学院卒で30代以上であれば、平均年収が300万円を上回るため、家族形成の壁に比較的ぶつかりにくいようだ。しかし、同じ非正規雇用者の男性でも、現在の40~50代は新卒で正規雇用者として働いた後の早期退職者が含まれている可能性もあり、20~30代とは労働者としての質が異なる可能性を考慮する必要がある。また、非正規雇用者の女性では、年収300万円を上回るのは大学・大学院卒の55~59歳の女性のみであり、その他の全ての層は300万円を下回る。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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