2016年08月05日

徒歩帰宅訓練、やってみました!-地上踏査でつくる頭の中の“ ナビゲーション・マップ”

基礎研REPORT(冊子版) 2016年8月号

川村 雅彦

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25㎞の徒歩帰宅訓練

5月の連休に、会社から自宅まで徒歩による帰宅訓練を敢行した。直接のきっかけは4月の熊本地震であったが、5年前の2011年3月11日、実は、筆者はたまたま在宅勤務で出社しておらず、多くの人が経験した“帰宅困難”を知らないのである。

会社(千代田区)から自宅(東京都西部)までの25kmを、還暦を過ぎ膝も完全ではない身体がどこまで耐えられるのか。どのルートがベストで、何時間かかるのか。首都直下地震の可能性もあり、確認しておきたかった。

山手線を越すまでが一苦労

さて、帰宅開始。ペットボトル一本、ベーグル一個を通勤用リュックに詰めて、折畳式(紙製)の地図を手に会社を出たのが午後4時。晴れ、気温21度。風はやや強いが、歩くには悪くない。まず「靖国通り」に出て新宿をめざす。

この道は初めてではあったが、1kmほど行くと、“ややこしい”陸橋が出てきた。1分で済むところをウロウロして15分も費やし、夜ならば迷っていた。ここに限らず、都心部では路上で地図を見ても位置関係がつかみにくい。特に三叉路は悩ましい。それでも進むしかない。

新宿に近づくにつれて混み始め、かなり歩きにくい。いろんな外国語も聞こえてくる。新宿って、こんなに人が多いのかと改めて驚いた。実際の災害時には、この何倍にも膨れあがるだろう。何とか歩いて行くと、前方を塞ぐように横切る「新宿大ガード」が見えてきた。JR山手線などが通るこの大ガードで、靖国通りは終わる。時計を見ると、午後5時半。5kmの距離を1時間30分かかったことになる。

急に視界が広がり、ひたすら歩く

大ガードをくぐると、「青梅街道」が始まる。左には高層ビル群が迫るが、急に人通りは減り、視界が広がる。ここからはひたすら西に向かって20km歩くのみ。日が暮れてきて中野坂上を通過。午後8時に荻窪でJR中央線を斜めに横切った。この辺りで帰宅半分。

ただ、そのまま進むと自宅から北に逸れるので、どこかで玉川上水に沿う「五日市街道」に入る必要があるが、歩きながら判断せざるを得ない。途中、五日市街道入口という交差点もあったが、ここは見切って少し先の三鷹付近で入ることにした。

やがて大きな三叉路にさしかかると、思いがけなく五日市街道方面の標識がみえた。既に午後9時を過ぎて人通りはなく、不安もあったが、意を決してそちらに進んだ。暫く行くと、今度は五叉路に出た。ここでも悩んだが、偶然にも「鈴木街道」の小さな看板を発見したのである。これは、日頃通勤で通る自宅のそばの道であった。

それなら、この道を行けばよい。急に自宅に近づいた気がした。あと5km。体調も特に問題ない。住宅街の夜道ゆえ、すれ違う人はほとんどいない。やがて「都立小金井公園」に出て、見慣れた建物が増えてきた。そして、10時半、ついに自宅にたどり着いた。6時間30分の徒歩帰宅であった。

点と点がつながり、新発見の連続

今回地上を歩いて分かったのは、自分が知っている地名と地名が道路を介してつながり、いわば点と点がつながり面的な広がりができたこと。それゆえ方向感覚も確実になった。また、地下鉄がどの道路の下を走っているのかも分かった。

日頃、都心部の地下鉄では乗り降りの駅名は確認するが、どこをどう走っているのか、ましてや地上ならどの辺りなのか、ほとんど意識したことがない。ここが帰宅困難の一つの盲点かも知れない。

あぁ、ここだったのか、と歩きながらの“発見”も少なくなかった。やはり、事前に地上踏査しておくことで、“帰宅”に関する様々な情報を得ることができると確信した。

頭の中の“ナビゲーション・マップ”

ただ、実際の災害時には雨風雪もあろう。猛暑あるいは酷寒かもしれない。多くの“帰宅民”が道に溢れる場合、トイレをはじめ円滑な食事・水補給や一時避難なども必要であろう。

災害は会社にいる時に起きるとは限らない。外出先で起きるかもしれない。それゆえ、別の場所からどのように帰宅するかシミュレートしておくことも大事である。その際役に立つのが、頭の中の“ナビゲーション・マップ”である。その範囲を広げ、かつ精度を上げるために、いつかまた会社とは異なる地点から徒歩帰宅してみようと思う。
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