2016年08月03日

災害時のトリアージの現状-救急医療の現状と課題 (後編)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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3|DMATの拡充が期待される
DMATは、災害医療専従のチームではない。災害発生時に、出動要請があってから編成される。このため、要請と同時に出動するドクターヘリやドクターカーに比べると、出動のタイミングは遅くなる。

DMATは、阪神・淡路大震災での災害医療救護体制不備への反省をきっかけに、創設の検討が進められた。この震災では、災害医療の訓練を積んだ医療チームが、救出・救助チームに帯同していなかったため、初期医療体制が遅れたと考えられている。後に、平時の救急医療レベルの医療が提供されていれば、救命できたと考えられる「避けられた災害死」が500名存在した可能性があった、と報告されている9

2005年に、厚生労働省は、日本DMATを発足させた。近年、DMATの注目度は、徐々に高まっている。DMAT隊員になるためには、4日間の研修を受けて登録することが必要とされている。登録後は、隊員資格の更新が、5年ごとに行われる。DMAT隊員数は、9,328人(2015年3月現在)となっており、徐々に拡充が進んでいる。
図表6. DMAT隊員登録者数の推移
 
9 「DMATとは?」(DMAT事務局ホームページ, (アドレス) http://www.dmat.jp/DMAT.html) より。
 

4――災害医療の教育・訓練

4――災害医療の教育・訓練

災害医療においては、防災教育や防災訓練が欠かせない。特に、後述するトリアージについては、訓練を通じて、課題を明らかにし、その是正を図ることが、災害時の的確な判断につながるとされている。ここでは、災害医療の教育・訓練について見てみよう。

1|防災訓練を通じて、防災・減災意識の高まりが期待される
災害医療においては、医療をいかにマネジメントして実践するか、が重要である。イギリスでは、大規模災害時の医療について教育・訓練をするために、MIMMS10という、少人数向け教育システムが設けられている。これは、医療関係者、救急救命士、消防、警察等、災害医療に関わる幅広い職種を対象としている。MIMMSは、日本には、2003年に紹介された。それ以来、DMATの養成研修テキストに組み込まれるなど、国内の災害医療従事者の間で、急速に広まった。

MIMMSでは、大規模災害に体系的に対応するために、CSCATTTと呼ばれる7項目が、基本的な項目として掲げられている。即ち、災害時に、トリアージ、治療、搬送のTTT(3T)を実践するためには、その前提として、CSCAのマネジメントを確立させておくことが重要とされている。
図表7. CSCATTT
災害医療では、平時から、CSCATTTのAにあたる防災訓練を行い、搬送や医療の体制の確認、課題の抽出などを行うことが有効である。近年、全国の防災訓練の実施回数は、増加している。訓練を通じて、災害に対する備えを啓発する中で、一般住民の防災・減災意識が高まっていくことが期待されている。
図表8. 防災訓練の実施回数
 
10 MIMMSは、Major Incident Medical Management and Supportの略。Advanced Life Support Group (ALSG) という、イギリスの独立した慈善団体によって、運営されている。MIMMSコースに基づく研修は、イギリスのみならず、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、南アフリカなど、多くの国で行われている。
2|トリアージの実施には、教育・訓練が欠かせない
次章以下で詳述するように、トリアージは、一時に発生した多数の傷病者を、重症度・緊急度に応じて区分し、搬送や治療の優先順位付けをするという、災害医療に特有のものである。実際に、災害が発生したときに、切迫した状況下で、的確な判断を下すためには、平時におけるトリアージの教育や訓練が欠かせないものとされている。

(1)トリアージ教育
トリアージの教育研修コースは、標準化が進められてきた。これにより、医師、看護師、救急救命士、消防、警察等、多職種・多機関の間での連携が、可能となってきた。

DMATなどの集合研修では、トリアージについての講義と演習が行われる。講義では、講師と受講生の間で、ディスカッションを行い、知識やスキルの定着が図られる。演習では、ホワイトボードで、傷病者をマグネットに見立てて行う机上演習や、模擬患者を使い、災害現場を想定する実働演習などが行われる。

(2)トリアージ訓練
トリアージは、災害発生時に行われるもので、広域での事前訓練が重要となる。例えば、ある病院の医療スタッフ全員に対して、訓練が行われる。その際、多数の模擬患者の発生を想定する。災害時に生じやすい、異常事態、突発事象を織り込みながら、訓練が行われることもある。

また、住民も参加して、地域全体で訓練を行う場合もある。その場合は、消防、医療間の情報連携や、搬送等の訓練が行われる。併せて、地域住民に対して、トリアージについて周知する機会にもなり、一般市民の防災・減災や、自助意識の醸成につながるものと期待されている。
 
図表9. 応急対策訓練の例
以上、見てきたように、災害医療では、一時に、多数の死傷者が出現し、時間の経過とともに、求められる医療の内容が変化する。このため、災害医療体制を整備し、DMAT等の救急医療チームを拡充させることが必要となる。これに併せて、トリアージの枠組みを確立することも、不可欠となる。

次章以降では、トリアージについて、見ていくこととしたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

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