コラム
2016年08月02日

「ポケモンGO」と高齢社会(その1)-拡張現実(AR)への期待

土堤内 昭雄

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スマートフォン向けゲーム『ポケモンGO』が社会現象になっている。日本での配信開始をまえに、政府が記者会見で使用上の注意喚起を促したことからも、その影響の大きさがうかがえる。ゲームをしない筆者とて、まったく無関心というわけにはいかない。なぜなら、危険な「歩きスマホ」が増え、本人や他者の重大事故の発生が懸念されるからだ *。また、社会現象となるほど多くの人を魅了する『ポケモンGO』が、高齢社会にも少なからず影響を与えるのではないかと思うのだ。

今日も公園をはじめあちこちで『ポケモンGO』を楽しむ人の姿をみた。このゲームは、スマホの位置情報を使った拡張現実(AR:Augmented Reality)のなかに現れるポケモンたちを捕えるものだ。ゲームが現実空間で展開されるため、プレイヤーは外に出かけなくてはならない。このゲームには人の移動を誘発する力がある。うまく利用すれば地域活性化や観光振興にも役立つだろう。WEBでは、『ポケモンGO』が引きこもる人の外出を促す効果があったという記事もみられた。

最近では高齢者ケアの現場でも、AI搭載の人型ロボットなどが高齢者との対話に活躍している。引きこもりの若者だけでなく、社会的孤立が深刻になる高齢者も、スマホをかざしてポケモンを獲得できればよろこんで外にでかけ、健康寿命も伸びるだろう。ひとり暮らしが増え、地域のつながりが薄れている。しかし、今後、バーチャルなポケモンを追いかける多くの人たちが、拡張現実を契機に現実空間のなかでリアルにつながるという高齢社会も決して夢物語ではないだろう。

高校時代に中国の思想家・荘子の『胡蝶の夢』という漢詩を習った。荘子は蝶になったのが夢なのか、それとも自分が荘子であることが夢なのか、渾然となるのだ。夢と現実が一体化するなかで、仮想現実(VR:Virtual Reality)は夢の空間だが、拡張現実(AR)はあくまでも現実空間を拡張するものだ。例えば、実際の部屋の映像に家具カタログのデジタル写真を取り込み、家具配置のシミュレーションを行うことなども可能で、実生活への影響もリアルだ。

人は意識して夢をみることはないが、現実世界にバーチャルな映像が重なる拡張現実においては、現実の世界に夢を重ねることもできる。現在の『ポケモンGO』が映し出す社会現象は、多くの人が拡張現実のなかに意識的に夢を重ねようとしているのかもしれない。『ポケモンGO』というゲームアプリのもたらす拡張現実(AR)が、ひとり社会を生きるたくさんの人たちを結びつけ、安心できる高齢社会の支えの一助となることを期待したい。

(つづく:「ポケモンGO」と高齢社会(その2)-健康増進の“アプリ”と“サプリ”
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2016年08月02日「研究員の眼」)

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