2016年07月19日

英国のPRA(健全性規制機構)による最近の規制対応の動き-ソルベンシーIIへの対応-

中村 亮一

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6―ソルベンシーII開示要素の外部監査

PRAは、7月4日に「ソルベンシーII:パブリック・ディスクロージャー要件の外部監査」についてのCPを公表した。コンサルテーション期間は8月4日までとなっている。

1|CPの概要
PRAは、2015年11月に公表したCP43/15において、ソルベンシーII開示の外部監査のための提案をコンサルテーションにかけた。そのフィードバックの結果、広範な政策アプローチは変更していないものの、ルールにいくつかのマイナーな修正を行っている。規則案及びSS案は、これらの修正を含み、コンサルテーションのフィードバックに対するPRAの反応は、第3章に含まれている。それらのマイナーな修正に加えて、PRAは、提案された規則の中で、PRAに対する監査人の注意義務の明確化を提案している。PRAの政策に実質的な変化はなく、修正が監査人やアクチュアリーがPRAのルールに準拠するために何をしなければならないかについての本質を変更しないが、ルールは明確さを提供するために修正された。このCPは、この提案された明確化について意見を求めている。

2|CPの提案の概要
CP43 / 15で、PRAは、ソルベンシーIIの下での開示要件の要素の外部監査を必要とする方針のための提言を設定し、提案に対するフィードバックを求めた。ソルベンシーII対象の会社が、公にSFCR(solvency and financial condition report:ソルベンシー及び財政状態報告書)を開示する必要がある。PRAは、2つの例外を除いて、単独、グループおよびサブグループレベルで準備される保険会社のSFCR(SFCRの関連要素)の「ソルベンシー目的の評価」と「資本管理」セクションに含まれる定量的および定性的情報の外部監査を必要とする、ことを提案した。例外の1つは、承認された内部モデル(部分的内部モデルを含む)を用いて計算した場合のSCRが対象外となる。2つ目に、ソルベンシーIIが、SFCRの中の情報が部門の規則を使用して作成されることを要求する場合には、その情報は、外部監査の対象とはならない。

一部の回答者は、監査人のためのガイダンスが、最初の開示に間に合うように利用できないことを懸念していた。 PRAは、これらの懸念を検討評価し、公開の外部監査のための要件は繰延べられ、2016年11月15日以降に終了する年の会社に適用されることを決定した。

第3章に規定されている変更と説明に従うことを条件として、このCPで提案されているルールは、CP43 / 15の提案を反映し続ける。監査役の職務を明確にする提案は、第2章で論じられる。

3|EIOPAの考え方等
EIOPAは、2015年7月10日に「高品質なパブリック・ディスクロージャーの必要性:ソルベンシー及び財政状態報告書に関するソルベンシーII報告書と外部監査の潜在的役割:Need for high quality public disclosure: Solvency II's report on solvency and financial condition and the potential role of external audit 」というノート(Note)を公表している。この中で、EIOPAは、「高品質の開示数値と優れた公表レポートによってのみ、ソルベンシーIIによって設定された目標を満たすことができると確信している。そうでなければ、利害関係者は、厳しく規制・精査されている財務諸表のような他の公開資料と比較して、判断を誤ることになるかもしれない。」とし、「全ての保険及び再保険会社のSFCRの単体及びグループレベルの主な要素の両方が、外部監査の範囲に含まれるべきである。」と主張している。

ただし、これは強制力があるものではなく、SFCRの監査要件の取扱いについては、EU加盟国間で異なっている。例えば、英国、ドイツ、オランダでは外部監査要件を求めることとしているが、フランスでは求められていない。

(参考)財務報告評議会(Financial Reporting Council:FRC)の対応

英国のFRCは、上記のPRAの動きに対応して、7月12日に「コンサルテーションと影響評価:ISA800(改訂)及びISA805(改訂)の(英国における)採択の提案:Consultation and Impact Assessment: Proposal to adopt (in the UK) ISA 800 (Revised) and ISA 805 (Revised)」と称するCPを公表して、保険会社がソルベンシーII報告の監査要件を満たすのを助けるために、2つの国際監査基準(International standards on auditing:ISAs)の採択を提案している。具体的には、現在の監査ガイドラインはPRAのソルベンシーII報告に関する「合理的な保証」要件と適合していないため、財務報告の特別目的のフレームワークと監査に対する考察を詳述しているISA800とISA805を採択することを提案している。なお、コンサルテーション期間は10月3日までとなっている。
 

7―まとめ

7―まとめ

以上、英国におけるPRAによる昨今の保険規制を巡る動きについて、述べてきた。

このように、PRAは、他のEU諸国に比較して、かなり積極的に規制に対する監督当局の考え方の表明に取り組んできている。このため、仮に英国がEUから離脱しても、英国の保険監督規制に関する限りにおいては、かなりの充実した体制で、規制・監視が行われていくことになるものと思われる。

英国がEUに残存している間に、PRAが、現行のソルベンシーIIに対して、どのような改正を求めていくのか、あるいは離脱後を見据えて、どのように英国内で独自の改正等を行っていくのか、については大変興味深いところである。

仮に、EUを離脱した英国が行う現行のソルベンシーIIに対する改革であっても、それが市場等に受け入れられるのであれば、EUのソルベンシーIIに大きな影響を与えていくことになることは十分に想定されることになる。

その意味で、今後PRAがどのような規制改革を進めていくのか、という点については、単に英国にとどまらない形で他に波及していく可能性もあることから、その動向については、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年07月19日「保険・年金フォーカス」)

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