2016年07月14日

若年層の経済格差と家族形成格差-増加する非正規雇用者、雇用形態が生む年収と既婚率の違い

生活研究部 主任研究員   久我 尚子

メールマガジン登録
twitter Facebook g+ このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

5年収300万円未満層の人口・雇用者比率~20代男性263万人・雇用者の過半数、非正規では約8割
次に、年収300万円未満層を推計する。図表4の20~24歳の男性正規雇用者の平均年収(292.6万円)の推計で、所定内給与額の平均値(20.8万円)に年間賞与その他特別給与額を合わせたことを参考に、ここでは「所定内給与額階級20.0~21.9万円以下」を年収300万円以下と仮定する。ただし、この仮定では、男性正規雇用者の所定内給与額と年間賞与その他特別給与額から推計した年収を参考にしており、男性非正規雇用者や女性では、男性正規雇用者と所定内給与額階級が同等でも、年間賞与その他特別給与額は少ない可能性がある。その場合、実際の年収は男性正規雇用者で想定したものより少なくなる。よって、男性非正規雇用者や女性における年収300万円未満の層は、この推計で得た結果より、やや多い可能性がある。

以上を踏まえて図表7を見ると、20~24歳の男性で年収300万円未満の雇用者は150万人で、同年代男性の正規雇用者と非正規雇用者を合わせた雇用者合計の74.9%を占めると推測される。雇用形態別に見ると、20~24歳男性の正規雇用者で年収300万円未満は83万人(同年代正規雇用男性の68.1%)、非正規雇用者では67万人(同85.5%)となる。

分かりやすさのため、図表7の正規雇用者と非正規雇用者を占める「所定内給与額階級20.0~21.9万円以下」の割合、つまり年収300万円未満と推定される層の割合を図表8に図示化した。

図表8を見ると、年収300万円未満層の割合は、正規雇用者より非正規雇用者の方が多い。また、男女とも20~24歳では正規雇用者でも7割程度を占めるが、年齢とともに低下し、45~49歳では男性は1割を下回り、女性でも3割程度まで低下する。一方、非正規雇用者では、20~24歳では男女とも9割前後を占め、正規雇用者ほど年齢に伴って大きく低下するわけではないため、45~49歳でも男性は6割、女性は8割程度を占める。
図表7 雇用形態別に見た「所定内給与額階級20.0~21.9万円以下」の雇用者数・性年代雇用者数に占める割合

3――若年層の家族形成格差

3――若年層の家族形成格差

図表8 雇用形態別に見た雇用者に占める「所定内給与額階級20.0~21.9万円以下」の割合/図表9 男性の年収と既婚率の関係 1男性の年収と既婚率の関係~年収300万円あたりの結婚の壁にぶつかる20~30代男性は約400万人
前節では、雇用形態による年収差や年収300万円未満層の規模を推計したが、実は男性では、雇用形態や年収の違いは経済格差のみならず、家族形成状況の違いにも直結する。

図表9にて、20~30代の男性の年収と既婚率の関係を見ると、両者はおおむね比例関係にある。

1500万円以上の高年収層では、年齢が若いほど逆に既婚率が低下するが、これは仕事が忙し過ぎて、まだ結婚を考えられない、あるいは、その高年収という状況から結婚相手を吟味しているといった可能性もあるのだろう。

1500万円以上の高年収層を除くと、男性の年収と既婚率は、ほぼ比例関係にある。両者で描く曲線は、年収階級の低い位置では緩やかな傾きを示すが、300万円台あたりから傾きが急になる。また、図中にプロットしたように、年齢階級別の既婚率が、このあたりに重なる。

図表4で20~30歳代の非正規雇用男性の年収は300万円に満たなかったことから、これは非正規雇用者と正規雇用者の境目と考えられる。雇用が比較的安定している正規雇用者の割合が多くなると、既婚率が大きく上昇するのだろう。逆に言うと、不安定な雇用は未婚化の進行につながることになる。

なお、この年収300万円の壁にぶつかっている20~30歳代の男性は、図表7より合計398万人、同年代男性雇用者の34.8%を占める4
 
4 図表7の5歳階級の値から20~30代を合計した値に計算したもの
図表10 20~30代の雇用形態別に見た婚姻・交際の状況 2雇用形態別に見た婚姻・恋愛の状況~20~30代非正規男性の既婚率は約5%、交際相手なしが8割
雇用形態の違いは、結婚の入り口である恋愛の状況にも影響を与える。

雇用形態別に20~30歳代の婚姻・恋愛の状況を見ると、男性では正規雇用者は既婚が27.5%、恋人ありが27.2%で、両者を合計すると54.7%となり、過半数にパートナーがいることになる(図表10)。一方、非正規雇用者は既婚が4.7%、恋人ありが15.3%で、両者を合計しても20.0%である。裏を返すと、20~30代の非正規雇用男性の8割にはパートナーがいないということになる。さらに、その8割の男性のうち約半数には交際経験もない。

なお、国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」によれば、既婚者の約9割は恋愛結婚である5。つまり、男性では雇用形態の違いは、結婚の前段階である恋愛の状況にも影響しており、それが既婚率の差としてあらわれている。

一方、女性では、正規雇用者より非正規雇用者の方が既婚率は高い。これは、これまでにも述べた通り、子育て期の女性は一旦離職して再就職するケースも多いためだろう。なお、既婚と恋人ありを合計したパートナーがいる割合は、女性では正規雇用者の方が多いが、男性ほどの違いはない。
 
5 既婚者の出会いのきっかけのうち、「見合いで」や「結婚相談所で」を除き、「職場や仕事で」や「友人、兄弟姉妹を通じて」、「学校で」、「街中や旅先で」、「サークル・クラブ、習いごとで」、「アルバイトで」、「幼ななじみ・隣人」の選択割合を合計した値。

4――おわりに

4――おわりに

本稿では、若年層における雇用形態の生む経済格差や家族形成格差について見てきた。長らく続く景気低迷を背景に非正規雇用者が増加しており、若い世代ほど同じ年齢時点における非正規雇用者の割合は高まっている。正規雇用者と非正規雇用者では年収差があり、特に男性では年齢とともに、その差は拡大する。男性では年収と既婚率は比例し、既婚率が上昇する年収300万円あたりに家族形成の壁がある様子がうかがえる。本稿では、この壁にぶつかっている年収300万円未満層を推計した結果、20代男性で263万人(雇用者の54.6%、正規雇用者の45.2%、非正規雇用者の79.5%)、30代男性で135万人(同様に20.4%、14.5%、62.4%)、40代男性で88万人(同様に12.1%、7.5%、59.4%)が相当していた。

政府は、今年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」の中で、「希望出生率1.8」の実現に向けて若者の経済的基盤の強化を図るとし、非正規雇用者の正社員転換や待遇改善の方向性を打ち出している。待遇改善策としては、同一労働同一賃金の実現や最低賃金の引き上げ、長時間労働の是正等の検討が進められている。

若年層の雇用環境の改善を考える上では、国の中期計画として位置づけられる「ニッポン一億総活躍プラン」の中に「若者の雇用安定・改善」が明示されていることは非常に意義深い。また、厚生労働省の同一労働同一賃金に向けた検討会では、不合理な待遇差を是正するとして、基本給だけでなく各種手当についても議論がなされており6、非正規雇用者の待遇改善に向けて大きな期待が寄せられる。

一方で、年収300万円未満の若年層が結婚に踏み切れない理由は、単に目の前の収入が違うということだけでなく、5年先、10年先の雇用の安定が見えないことがあるだろう。「ニッポン一億総活躍プラン」では「非正規という言葉を無くす決意で臨む」という強い表現も見られるが、若年雇用の改善に向けて、より実行性を高めるためには、「女性の活躍促進」で見られたような何らかの数値目標を設定し、現在の非正規雇用から安定した雇用への転換を促す政策も必要ではないだろうか。
 
6 厚生労働省「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」
twitter Facebook g+ このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む
83_ext_01_0.jpg

生活研究部   主任研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティング

(2016年07月14日「基礎研レポート」)

レポート

アクセスランキング

【若年層の経済格差と家族形成格差-増加する非正規雇用者、雇用形態が生む年収と既婚率の違い】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

若年層の経済格差と家族形成格差-増加する非正規雇用者、雇用形態が生む年収と既婚率の違いのレポート Topへ