2016年07月12日

【東南アジア経済】ASEANの輸出動向(7月号)~原油価格上昇でマイナス幅縮小も、冴えない展開が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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5月のASEAN主要6カ国の輸出(通関ベース)は前年同月比3.5%減と、前月(同5.2%減)から上昇した(図表1)。年明けに原油価格が上昇したことから昨年に比べてマイナス幅が縮小しているが、底打ちまでには至っていない。国別に見るとベトナムが唯一増加基調を維持している一方、その他の国は冴えない展開が続いている。依然として世界経済は低調で、輸出の底打ちには暫く時間が掛かりそうだ。
(図表1)ASEAN6ヵ国合計の輸出の伸び率(国別寄与度)/ASEAN6ヵ国輸出の伸び率
(図表2)タイ輸出の伸び率(品目別) タイの16年5月の輸出額は前年同月比4.4%減と、前月の同8.0%減から上昇した(図表2)。2-3月こそ多国間共同軍事訓練など一時的な要因で増加したものの、その後は再びマイナスに転じている。5月は農産品の価格下落が全体を押し下げた。また輸出数量は同3.1%減と、前月の同6.2%減から上昇した。

品目別に見ると、主要工業製品は同2.8%減(前月:同7.8%減)とマイナス幅が縮小した。家電製品(同5.8%増)と自動車・部品(同5.1%増)が増加したものの、電子製品(同12.4%減)と機械・装置(同9.6%減)は引き続き減少している。また鉱業・燃料は同31.6%減(前月:同40.8%減)と引き続き大幅減少となった。農産品・加工品は同4.2%減(前月:同0.6%減)と、コメ(同24.2%減)やゴム(同9.0%減)、砂糖(同11.3%減)を中心に低下した。
(図表3)マレーシア輸出の伸び率(品目別) マレーシアの16年5月の輸出額は前年同月比0.9%減(ドルベースでは同11.7%減)と、前月の同1.6%増から低下した(図表3)。年明けから石油・ガスの輸出の落ち込みが和らいできていたが、5月に再び大きく減少し、全体を押下げた。また輸出数量指数についても同0.3%減と、前月の同4.8%増から低下した。

品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器が同4.3%増(前月:同4.2%増)と、電気・電子機器を中心に堅調を維持した。しかし、原油や天然ガスなどの鉱物性燃料は同23.6%減(前月:同1.0%減)と輸出数量の落ち込みを受けて再び二桁減となった。また拡大傾向が続いていた動植物性油脂は同3.7%減(前月:8.7%増)とパーム油を中心に大きく低下し、5ヵ月ぶりのマイナスとなった。
(図表4)インドネシア輸出の伸び率(品目別) インドネシアの16年5月の輸出額は前年同月比9.8%減(前月:同12.4%減)と上昇したが、資源の価格低迷や鈍い海外需要を背景に20ヵ月連続のマイナスとなった(図表4)。また輸出数量は同3.5%減と、前月の同11.2%減から上昇した。

品目別に見ると、輸出全体のそれぞれ1割強を占める石油ガスが同31.2%減、鉱業製品が同35.1%減と大幅なマイナスが続いており、資源価格の低迷が輸出の重石となっていることが分かる。また製造品は同0.8%減(前月:同5.8%減)と、宝飾品を中心に上昇した。
(図表5)ベトナム輸出の伸び率(品目別) ベトナムの16年5月の輸出額は前年同月比4.9%増(前月:同7.5%増)と製造業を中心に拡大傾向が続いているが、足元では伸び悩んでいる(図表5)。

品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同8.1%増と堅調な伸びを示したものの、前月の同18.2%増からは低下した。また織物・衣類が同4.4%増(前月:同6.8%増)、コンピュータ・電子部品が同2.5%増(前月:同13.0%増)と、それぞれ伸び悩んだ。一方、履物については同7.0%増(前月:同3.7%増)と上昇した。

資本別に見ると、輸出全体の7割を占める外資系企業が同1.8%増(前月:4.1%増)、地場企業が同3.1%増(前月:同3.4%増)とそれぞれ低下した。
(図表6)シンガポール輸出の伸び率(品目別) シンガポールの16年5月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比11.6%増(米ドルベースでは同8.7%増)となり、前月の同7.9%減から大きく上昇し、3ヵ月ぶりのプラスとなった(図表6)。

品目別に見ると、その他製品は同37.0%増(前月:同11.9%減)と上昇した。5月は英EU離脱を問う国民投票を控え、安全資産である金の輸出増(同436.7%増)が全体を大きく押上げた。一方、輸出(石油と再輸出除く)全体の約3割を占める電子製品は同6.0%減(前月:同7.4%減)とマイナス幅が縮小した。二桁増の好調が続いていた通信機器(同0.8%減)が落ち込んだほか、主力のIC(同4.8%減)やPC(同26.0%減)、PC部品(同26.0%減)、ダイオード・トランジスタ(同7.4%減)など幅広い品目が低迷している。また同じく全体の約3割を占める化学製品は同4.1%減(前月:同2.7%減)と、医薬品が伸び悩んで低下した。
(図表7)フィリピン 輸出の伸び率(品目別) フィリピンの16年5月の輸出額は前年同月比3.8%減と、前月の同4.1%減から小幅に上昇したが、これまで牽引役だった電子製品が遂にマイナスに転じた(図表7)。新政権の下でインフラ整備の加速や外資規制の緩和が実行されなければ、輸出不振が長引く恐れもある。

品目別に見ると、衣服(同41.7%減)、化学(同31.3%減)の大幅な減少が続くなか、輸出全体の約5割を占める電子製品が同4.0%減(前月:同1.9%増)、その他電子機器が同16.9%減(前月:同8.7%増)とそれぞれマイナスに転じた。また一次産品では、農産品(同29.4%減)と鉱業製品(同13.6%減)がそれぞれ前月に続いて二桁減となった。一方、木工品(同57.2%増)は二桁増の好調が続いており、また機械・輸送用機器(同16.9%増)とその他製造品(同1.2%増)は2ヵ月のプラスを記録した。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年07月12日「経済・金融フラッシュ」)

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