2016年07月12日

中国の「さとり世代」―就職難で政府は躍起も、「別に・・・」で温度差

保険研究部 准主任研究員   片山 ゆき

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■要旨

中国では今年も新卒者が新社会人として働き始めるシーズンを迎えている。中国の大学は6月に卒業であるが、今年の卒業者数は昨年より16万人増加し、過去最多の765万人となった。
 
この4年間、史上最悪の就職難といわれ続ける中で、政府は新卒者の安定した就業を特に重視する、と躍起になっている。
 
一方、当の新卒者である一人っ子で、中国の高度経済成長とともに育った90年代生まれ(90后)の彼らからは、その前の世代に見られたような悲壮感はそれほど感じられない。
 
今年の新卒者は大学入学時点で、先輩たちの就職難を目の当たりにしており、むしろ将来を見据えて堅実な就職先を確保するといった現実的な考えの持ち主が多いのだ。
 
 
中国では今年も新卒者が新社会人として働き始めるシーズンを迎えている。中国の大学は6月に卒業であるが、今年の卒業者数は昨年より16万人増加し、過去最多の765万人となった。この4年間、史上最悪の就職難といわれ続ける中で、政府は(社会の安定のためにも)新卒者の安定した就業を特に重視する、と躍起になっている。一方、当の新卒者である一人っ子で、中国の高度経済成長とともに育った90年代生まれ(90后)の彼らからは、その前の世代に見られたような悲壮感はそれほど感じられない。

今年の新卒者は大学入学時点で、先輩たちの就職難を目の当たりにしており、むしろ将来を見据えて堅実な就職先を確保するといった現実的な考えの持ち主が多い。

中国の大手就職情報サイトが就活ピーク時の4月に実施したアンケート調査によると、卒業を控えた学生のうち、企業への就職を考えているのは75.6%であった1。昨年が71.2%であることから、企業への就職が4.4ポイント増加している。

一方、国内の大学院などへの進学や海外留学については若干ではあるものの減少している。昨年政府が力を入れていたIT(情報技術)ベンチャーやスタートアップ企業の立ち上げを考えている学生は、3.1%と前年の6.3%からむしろ後退した。
図表1 新卒者のその後の進路
中国では、アリババやテンセントといったIT企業と金融事業との融合-Fintechが急速に普及している。その広がりは、いまや金融のみならず、医療などの社会インフラにまで革新を与えている。また、政府は昨年、「インターネット+」として、既存の産業とITの融合を国の成長戦略の1つとした。

学生の就職難ということもあって、政府は、ベンチャーファンドによる資金調達など、新卒者によるITベンチャーやスタートアップ企業の立ち上げの支援措置を相次いで発表していたが、若年層の雇用の吸収は難しかったようだ。就業経験のない学生が支援を受けて、企業の立ち上げをしたとしても、それを軌道に乗せるのは至難の業である。また、国内での更なる進学や海外留学をしたとしても、すでに供給が上回り、以前のような高額な給与水準の確約や役職の保証を得られないのが現実だ。
 
史上最悪の就職難に対する社会の同情や政府の対応を横目に、このような現実を悟っている新卒者の彼らは、ずいぶん冷静である。前掲の調査では、新卒者に対して、就職の大変さについて聞いているが、「就職は難しく、情況は厳しい」と回答したのが36.5%であったのに対して、「就職は多少厳しいが、まだ許容範囲内」が50.0%、「普通」が10.4%と大半は冷静な回答であった。

また、学生側から考える就職難というのは、就職の機会が少ないというよりは、むしろ、自身が持っているスキルや期待と、会社や現実社会が求めるものの間でのミスマッチが大きいこと、ととらえているようだ(図表3)。就職難というのは、需要側(会社や社会)にあるのではなく、供給側(学生)に課題があるのではないかと捉える向きが強い点は、新たな視点である。
図表2 就活生が感じる就職の大変さ/図表3 就活生が考える就職難の原因
そんな彼らにとって、仕事とはどんな意味を持っているのか。90后の彼らは、80年代生まれとは異なり、経済的に恵まれた環境下で育っており、何かあっても親のバックアップを受けられるという強みがある。仕事に対する意識についてもそれが反映されており、「自身の目標を達成するため」(71.0%)が最も多く、「お金を稼ぐため」(62.6%)を上回っている。労働による収入の多寡は重要ではあるものの、それが必ずしも最優先ではない点が明確となった。

また、「自身の夢や理想を叶えるため」(53.6%)、「生きている価値を示すため」(45.7%)など自己実現や「個」を重視する新しい世代の特徴も表れている(図表4)。
図表4 仕事に対する意識
では、彼らが希望した就職先と、実際の就職先はどのようになったのか。業界別の新卒者の就職希望先としては、需要の多いIT関連が最も多く(16.3%)、次いで金融(12.7%)、公務員関連(11.6%)となった(図表5)。
図表5 希望した就職先と実際の就職先
一方、実際の就職先では、IT関連(29.5%)、次いで、製造業(加工、自動車など、16.1%)、金融(13.7%)の順で多かった。希望就職先と実際の就職先の乖離が大きかったのは、希望、実際の就職先として首位であったIT関連を除いて、製造業(実際の就職が希望より10.3ポイント多い)、公務員(実際の就職が希望より9.8ポイント少ない)となっている。

公務員は、以前ほどではないものの人気は高く、狭き門であることには変わりない。また、製造業は、消費ニーズの高付加価値化や、生産技術の高度化など産業の高度化によって、需要が高まったと考えられる。

2016年の新卒者の就職は一先ず落ち着きを見せているが、今後、経済成長の行方や産業の動向によっては、転職やその後の行き先に大きな影響が出かねない。しかし、これまでの社会の安定を目指した政府の策と、新たな世代の就職への意識には多少隔たりが出てきている気がしてならない。今後の経済成長を牽引すべく、その担い手である彼らの気持ちをつかむ必要があるのであれば、政府としてもよりフレキシブルな対応が必要であろう。
 
 
1 中国の大手就職情報サイト「智聯招聘」が、卒業を控えた全国の大学生、大学院生、専門学校生を対象に実施したアンケート調査を実施。2009年以降、毎年調査を実施しており、2016年の有効回答件数は89170件。
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保険研究部   准主任研究員

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の保険・年金・社会保障制度

(2016年07月12日「基礎研レター」)

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