2016年07月08日

Brexitを受けた為替の見通し~金融市場の動き(7月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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(2)2016年11月~12月:やや円安にシフト
その後、11月に入ると、ドル高材料の登場が期待される。一つは11月8日に予定される米大統領選だ。現在優勢を維持しているクリントン氏が次期大統領に決定することで、米国経済の先行きに対する不透明感が緩和され、ドル高圧力になりそうだ。

また、この頃になると、米国の利上げ観測が再び台頭し始める可能性が高い。Brexitの米経済に与える悪影響が限定的に留まることが経済指標から確認され、FRBは12月の利上げに向けたメッセージを発信し始める可能性が高い。12月半ばのFOMCにかけて利上げ観測台頭に伴って最大108円程度まで円安ドル高が進む余地があると見ている。

当研究所ではメインシナリオとして12月の利上げを予想しているが、利上げの際にはFRBから改めて「その後の利上げは慎重に進める」旨のメッセージが発信されることで、FOMC以降年末にかけては利益確定のドル売りが優勢となり、年末は105円台で着地すると予想している。

(3)2017年:緩やかに円安へ
最後に、来年についても、緩やかな円安ドル高が進むと見ている。当研究所では、来年も米国の利上げ路線は変わらず、2回の利上げが実施されると予想しており、ドル高材料となる。また、これまでの円高によって輸出が圧迫され、日本の貿易赤字が再び定着することも円安材料となりそうだ。
(ただし、下振れリスクも高い)
以上がBrexitを踏まえた見通し(メインシナリオ)となるが、前回6月7日時点(Brexit決定前)の見通しと比べると、かなり円高方向に修正している。具体的には、今年10-12月期平均で108円から100円に、来年10-12月平均で117円から109円に、それぞれ修正している。Brexitによってリスク回避の円買いが入りやすくなったことと、米国の利上げ回数が減少することがその理由である。

さらに、ドル円の下振れリスクも高い。Brexitで先行きの不透明感が強まったためだ。Brexitの悪影響が予想以上に広がり、米国の利上げが予想通り行われないことになれば、ドル円レートは上記の見通しから下振れる(円高方向へ)ことになる。
 

2.日銀金融政策(6月):またも動かず

2.日銀金融政策(6月):またも動かず

(日銀)維持
日銀は、6月15~16日に開催した金融政策決定会合において、金融政策の維持を決定した。マネタリーベースが年80兆円に増加するペースで各種資産買入れと、日銀当座預金の一部に対する▲0.1%のマイナス金利適用を継続する。前回同様、資産買入れに対しては1名(木内委員)、マイナス金利に対しては2名(木内委員・佐藤委員)が反対票を投じた。

市場では、追加緩和見送りの発表を受けて、大幅な円高・株安が進行した。
 
声明文では、景気の総括判断を、「基調としては緩やかな回復を続けている」に据え置いた。個別項目では、住宅投資と公共投資の判断を上方修正した。先行きについては、景気・物価ともに回復に向かうとのシナリオは従来同様だが、物価については、「当面小幅のマイナスないし0%程度で推移する」(従来は「当面0%程度で推移する」)とやや下方修正。足下の物価下振れを反映した。
 
その後に行われた会見で、黒田総裁はマイナス金利の効果について、企業の前向きな設備投資スタンスと住宅投資の持ち直しを挙げ、「実体経済面にも徐々に波及してきており、今後、より明確になっていくのではないか」と前向きに評価した。急速に進む円高については、「金融政策自体が為替レートにリンクしていたりターゲットにしたりはしていない」と、円安誘導と受け取られないよう配慮しつつも、「こういった形で円高が進んでいることが、日本経済あるいは将来の物価上昇率に対して好ましくない影響を与えるおそれがある」とやや踏み込んだ発言をし、円高をけん制した。今後の追加緩和については、「必要になれば、「量」・「質」・「金利」の3つの次元を活用して躊躇なく追加的な緩和をとる用意がある」と従来同様の表現に留めた。なお、Brexitに関する表現が声明に見当たらないことに関しては、「”金融市場は世界的に不安定な動きが続いており”という中に読み込んで頂いたらと思っている」と説明した。
 
その後、6月24日に「金融政策決定会合における主な意見」(6月15~16日開催分)が公表され、同決定会合において、Brexitを警戒する意見が多数出ていたことが明らかになった。Brexitを見極める必要があることを追加緩和見送りの理由とする意見もみられた。

現在の金融緩和の枠組みについては、その持続性や信頼性、サプライズ重視の姿勢、ヘッジ付外債への資金流出など、問題点を指摘する意見が多数あった。非主流派からの意見と推測されるが、日銀内の意見の対立はさらに目立ってきている。
 
今後の金融政策に関しては、メインシナリオとして7月の追加緩和を予想している。マイナス金利の影響をある程度見極められるようになってくるうえ、年初から急激に進んでいる円高の影響などから物価の基調にも変調が出ており、下振れリスクも大きいためだ。また、7月の会合では展望レポートの公表が予定されているが、物価見通しの下方修正は避けられない情勢にある。

さらに、市場との関係の観点でも、最近は日銀の追加緩和見送りを受けて円高が進む傾向が強く(3回連続)、結果的に物価の押し下げに繋がっている面がある。7月は市場の緩和予想が集中しているだけに、ここで見送れば「動けない日銀」との印象から、大幅な円高が進む懸念がある。つまり、「緩和しないリスクが高い」ことも追加緩和に踏み切る材料になると見ている。
 
追加緩和手法は、ETF買入増額、マイナス金利拡大、地方債買入れ導入等を予想。マイナス金利での(銀行への)資金供給策導入も有り得る。現在、打てる手を全て投入してくると予想している。
消費者物価上昇率の推移/次回の金融政策変更の予測分布(38機関)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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