2016年07月11日

ロンドン2012大会 文化オリンピアードを支えた3つのマーク

東京2020文化オリンピアードを巡って(1)

吉本 光宏

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3プログラムなどの印刷物
ではこれらのルールがどのように運用されたのか、実際に作成された印刷物で見てみよう。

図表6は、ロンドン2012フェスティバルの公式ガイドの表紙と内部ページの一部である。まず、140ページのプログラムの中には、五輪マークとパラリンピックのマークは一度も登場しない。その代わり表紙には、フェスティバルの一環として12名のアーティストに委嘱したポスター用の作品のうち、レイチェル・ホワイトリードの《L○nd○n 2○12》が使用されている。それは五色のリングをモチーフにした作品で、五輪マークを使用することなく、オリンピックのフェスティバルであることを示しており、関係者のクリエイティブな発想や工夫が読み取れる。
図表6 ロンドン2012フェスティバルのプログラム(左:表紙、右:内部ページの一部)
表紙右下にレイアウトされた小さな「認証の翼」とフェスティバル・エンブレムは、同じものがほとんどの見開きページで右肩に施されている。右側に示した内部ページは、フレキシブル・リボンの活用例である。他のページではイベントのタイトルなどにも、このピンク色のリボンが活用され、公式ガイド全体でフェスティバルのイメージと雰囲気(look and feel)がアピールされている。

英国石油、英国テレコムのプレミエ・パートナーと5社のサポーター企業(注17参照)のロゴマークは、巻頭と巻末に掲載されている。この公式ガイドには、芸術団体や文化施設の既存スポンサーとして非公式スポンサーが支援した事業も含まれているが、その企業名やロゴマークは一切登場しない。

次に図表7は、ウエスト・ミッドランズ地方の公式ガイドの例である。表紙・裏表紙ともに五輪マーク、パラリンピック・マークのある文化オリンピアードのマークが使われ、裏表紙の「認証の翼」の白いスペースには、前述のとおり2企業・3団体のロゴが掲示されている(黒枠部分)。内部は、フェスティバルの事業の紹介ページにはフェスティバルのエンブレムやピンク色のフレキシブル・リボンがデザインされているが、フェスティバル以外の文化オリンピアードの事業を紹介するページには、フェスティバルのデザイン要素は使われていない。
図表7 ウエスト・ミッドランズ地方のプログラム(左:表紙、中:内部ページの一部、右:裏表紙の部分拡大)
もう一つ、従来から主催団体を支援してきた非公式スポンサーが支援を行ったワールド・シェイクスピア・フェスティバルのパンフレットを紹介しておきたい(図表8)。

表紙の「認証の翼」にはフェスティバル・エンブレムと、英国石油、オリンピック宝くじ、アーツカウンシル・イングランドのロゴマークが掲載されている(黒枠部分)。前述の2企業・3団体のうち、英国テレコムとレガシートラストUKが掲載されていないのは、この事業には資金提供しなかったためだと考えられる。

そして、プログラムの最後のページには、ナショナル・シアターやロイヤル・シェイクスピア・シアターの従前からのスポンサーであるトラベレックスやアクセンチュアなど、ロンドン2012大会の公式スポンサーではない企業のロゴマークが表示されているが(黒枠部分)、上部には「以下の支援団体はロンドン2012大会の公式パートナーではない」と明示されている。そのページ及び前後のページにはフェスティバルのブランディング要素は施されていない。
図表8 ワールド・シェイクスピア・フェスティバルのプログラム(左:表紙、右:非公式スポンサーの掲載ページ)
4|会場におけるフェスティバルのブランド展開
劇場や美術館など会場での展開例についても、ガイドラインではイラスト付でいくつかのケースを想定した解説が行われている。大会非公式のスポンサーの表示がない場合は、展覧会の看板や床などにフェスティバルのデザイン要素を展開できる(図表9左側)。それに対し、展覧会のタイトルを示した看板に、大会の非公式スポンサーで美術館の元々の支援企業の名前やロゴマークが掲載された場合(赤丸部分)、その看板にはフェスティバルのブランディング要素を施してはならないが、その企業名やロゴマークから十分離れたところには、フェスティバルのバナーなどを設置できる(図表9右側)。
図表9 会場におけるフェスティバルのデザイン要素の展開例
実際、ロンドン2012文化オリンピアードの関係者から、フェスティバルのデザイン要素と美術館などの既存スポンサーのマークが何メートル離れていなければならないといったルールを守るのに神経を使い、たいへんな手間と労力を要した、という話を伺った。他にも、野外コンサートの会場でドリンクを販売する場合、それが非公式スポンサーのものであれば、販売スタンドの企業名やロゴマークにカバーをしなければならなかった、とか、ロゴは頭の痛い問題で、数多くの複雑な認証のプロセスがあり、頭痛、頭痛の毎日だった、といった話を聞いたこともある。

それほど、オリンピック・パラリンピックのブランドを守りつつ、多様な文化イベントを展開するのは骨の折れる仕事だった。しかし、ロンドン2012大会の関係者はIOCとの協議を重ねて、インスパイア・マークやフェスティバル・ブランディングなどのルールを作成し、かつてない規模と内容の文化オリンピアード、フェスティバルを実現させたのである。
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