2016年07月06日

北イタリアのまちづくり事例に学ぶ公共空間活用の重要性

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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(4) 事業評価
市は2010年から2015年現在までの公募に対し446提案を受領しており、起業意欲と本事業に対する需要は強いとみている。このうち62事業を採択し、最終的に24起業家を支援した。現状では約半数以上の起業家が成功し、支援がなくても自ら事業を展開できるだけの力量を発揮するようになった。こうした起業家の中には引き続き、支援を受けていた場所を有償で賃貸するものもいれば、活動水準に合わせて他の物件に移転するものもいる。支援を行った起業家が446提案中5%程度というのは、少ないという声もあるが、この種の事業は容易ではなく、きめ細やかさと忍耐が要求されることが分かっていたため、ボローニャ市としては、希望に満ちた成果と考えており、起業意欲を喚起しつつ、今後も着実に推進する方針である。
図13 スペース事例(左:従前、右:従後)/図14 スペース事例(現状)
図15 スペース事例

4――むすびにかえて~公共のあるべき姿

4――むすびにかえて~公共のあるべき姿

フィレンツェでは、その他にも公共空間利用事例をみることができたが、その中から特に印象深かったF-Lighting Festivalについて概要を報告した。民間が個々の商業目的で行うイルミネーションや光のイベントからさらに飛躍し、公共がリードすることによって、都市レベルで調和ある美しい古都の空間を光の芸術で満たし、フィレンツェの市民や観光客を魅了している。旧市街地の歴史遺産は、新しい命を吹き込まれ、誰もが認める付加価値を得ている。公共空間の活用がいかに都市の価値を高めるのかが強く認識できた訪問であった。

民間事業や市民の参加は当然であるが、これを実現しているのが、市やSilfi社の強いリーダーシップとアート・ディレクターや照明技術等の専門家による取り組みである。日本の場合、市内の全域をまとめてマネージできるようなアート・ディレクションを行う人材を確保することは大変難しいものと考えられ、公共の役割と責任について改めて考えなければならないと感じた。

ボローニャ市では、市が公共空間の活用をリードする事業として、(1)旧市街地の道路や広場を歩行者と自転車優先の魅力ある空間として整備するT-days事業、(2)路上駐車帯などの公共空間を非営利組織がコミュニティ活性化のために活用することを認可し支援する小さな路のプロジェクト、(3)空いている公共施設などの空間を起業家への公募と審査を通じて利用させ、支援策を講じることによって、公共施設の再利用を通じた賑わい創出と経済効果、芸術家の育成を同時に行おうとするインクレディブル事業の3事例を紹介した。

フィレンツェ及びボローニャのいずれの事例においても、直接的あるいは間接的に民間事業者や専門家の力を最大限に活用しつつ、公共空間を最大限に民間に活用させ、旧市街地における魅力の維持やコミュニティの活性化、空家対策と経済振興を図ろうとする公共的な役割と責任が明確に認識でき、日本の公共のあるべき姿を考える上で大変参考になったと思う。
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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

経歴
  • 【職歴】
     1975年 丸紅(株)入社
     1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
     2001年より現職

    【加入団体等】
     ・日本都市計画学会(1991年‐)           ・武蔵野NPOネットワーク役員
     ・日本不動産学会(1996年‐)            ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
     ・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
     ・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
     ・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
     ・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
     ・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
     ・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
     ・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
     ・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)

(2016年07月06日「ニッセイ基礎研所報」)

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