2016年07月06日

北イタリアのまちづくり事例に学ぶ公共空間活用の重要性

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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2.小さな路のプロジェクト
小さな路のプロジェクトは、非営利組織がコミュニティ活動のために、路上駐車空間などの公共空間を活用している事業である。市は、公共空間を市民活動利用のために認可し、情報提供を行うことによって、このプロジェクトを支援している。
 
(1) 事業主体
事業主体は、Association “Centotrecento”という2010年に若い建築家3名が立ち上げた社会活動非営利組織である。活動を開始した通りの名前がチェントレチェント通りであることと、3人で100%を超えるということからCento-tre-centoと名付けられているhttp://www.centotrecento.it/)。

(2) 対象公共物
道路、特に路上駐車帯や広場などの公共空間及びポルティコ7下などの準公共空間。

(3) 事業概要
1)背景
住民同士の交流が希薄になり地域としての力が落ち、疲弊し始めたコミュニティの中で、お互いに地域の空間をシェアするという文化をひろめ、居心地を高めることで、コミュニティの再生を目指す試みである。多くの出会いの場と機会を創出することがCentotrecentoの活動目的である。活動のための3つのビジョンは、(a) 市民同士を結びつけること、(b) 中間支援団体として、行政と市民との関係を仲立ちすること、(c) このための公共空間利用の促進であり、参加型ワークショップにコミュニティ内の公共空間を使うこととしている。

2)事業内容
文化的で楽しめる小さなイベントを開催するなど、市民の少しずつの参加と協働を通じてコミュニティの強化を図り、歴史的建物の維持管理等も含めた難しい課題に取り組めるようにする。小路に面する店舗を含め、市民にとって便利な空間をつくる。

具体的には2台分の路上駐車スペースの利用を市に認めてもらい、飲食による交流や学習の機会を設けるなど、徐々にできることから近隣の交流を進めている。

3)事業スキーム
路上駐車帯や歩道、広場、ポルティコ下などの公共空間利用の認可を市から取得し、テーブルや椅子、白板等の用具を持ち込み、コミュニティの場に一時的に転換して活用する。

(4) 事業評価
当初はCentotrecentoによる試行でしかなかったが、今では既に1年近く継続する事業となり、活動範囲は徐々に広がっている。住民等が自発的に行う活動も増加し、さらに他地区にまで住民主導による同様の活動が拡がっており、ボローニャ市内の小路に新たな価値を与えつつある。
図11 小さな路のプロジェクトの事業エリア
図12 小さな路のプロジェクトの活動風景
 
7  ポルティコ(Portico)は、柱で支えられるか壁で囲まれた歩道上に屋根があるポーチである。ボローニャ市内のポルティコの総延長は40㎞ほどで、世界最長水準と言われる。制度上は民間の私有財産だが、ポルティコ下の歩道空間などは公共空間として取り扱われており、所有者であっても、占有利用するには市等の認可取得が必要である。
3.インクレディブル事業
高齢化や景気後退による空家や空地、空店舗などの増加に伴うコミュニティの衰退への有効な対応策はわが国でも喫緊の政策課題である。ボローニャ市にて、実際に公共の空家や施設の再利用に向けた取り組みを行うGiorgina Boldrini女史のお話を聞くことができたので報告する。
 
(1) 事業主体
ボローニャ市の都市経済発展部テリトリー促進・部門間プロジェクト調整室

(2) 対象公共物
市が所有している空家や店舗等の施設及び空地。

(3) 事業概要
1)背景
近年の景気悪化により市所有不動産の空家や空店舗等が増え、この再有効活用が課題であった。一方、世界に冠たる文化芸術産業を発展させるため、長期的に文化創造事業を下支えする後継者や起業家を育成する必要があり、芸術家や若い起業家への支援が課題となっていた。この2つを解決する方策として、インクレディブル(「すごい」というような語彙)事業が促進されることとなった。最終的には、市が所有する公共の空家や施設を、文化創造事業の起業拠点として最大限に活用することによって、地域経済の発展を支援することが目的である。

2)事業内容
文化創造事業を起業したいグループからの提案を公募し、審査の上、採択した提案に対し、起業に必要な支援策を講じる。

3)事業スキーム
採択された起業者は、事務所・スタジオ・工房などに使える市所有の空家等を最大4年間無償で借り受けることができる(電気代等ユーティリティや修繕費用は起業家負担)。あるいは、起業費用として最大1万ユーロの補助を受けることができる。その他、市の斡旋により、弁護士や会計士、コンサルタントサービスなども無償で受けられる(これらの専門業者は起業家の将来の成長を期待し、無償で起業家を支援する仕組みとなっている)。必要に応じて、宣伝等のプロモーションについても市が支援する。詳細は、http://www.incredibol.netを参照。
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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

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