2016年07月06日

北イタリアのまちづくり事例に学ぶ公共空間活用の重要性

社会研究部 土地・住宅政策室長   篠原 二三夫

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■要旨

一昨年の2月7日から2月19日にかけて、北イタリアのフィレンツェ、ボローニャ、フェラーラ、ヴェネツィア(本島及びメストレ地区)、ヴィアレッジョなどの5都市を訪問し、各都市のまちづくりにおいて、どのように公共空間が活用されているのかを調査する機会を得た。本稿では、フィレンツェの光による公共空間の演出事例および創造都市ボローニャにおける中心市街地活性化のための公共空間への取り組み事例について報告する。

■目次

1――はじめに
2――フィレンツェの魅力を高める光の演出
  1.事業主体
  2.対象公共物
  3.事業概要
3――創造都市ボローニャにおける公共空間利用の取り組み
  1.T-days事業
  2.小さな路のプロジェクト
  3.インクレディブル事業
4――むすびにかえて~公共のあるべき姿

※本稿は2016年3月「基礎研レター」2本をまとめ、加筆・修正したものである。
 

1――はじめに

1――はじめに

一昨年の2月7日から2月19日にかけて、北イタリアのフィレンツェ、ボローニャ、フェラーラ、ヴェネツィア(本島及びメストレ地区)、ヴィアレッジョなどの5都市を訪問し、各都市のまちづくりにおいて、どのように公共空間が活用されているのかを調査する機会を得た。本稿では、フィレンツェの光による公共空間の演出事例および創造都市ボローニャにおける中心市街地活性化のための公共空間への取り組み事例について報告する。

ここで言う公共空間の多くは道路や歩道、広場、そして数多い都市部の歴史的遺産である。フランスやスペインなどと同様に、イタリアの市街地を歩くと、オープンカフェが並び、広場ではマルシェ(市場)や催し物に出くわす。このように公共空間がうまく活用されておれば、まちの随所に活気が生まれる。しかし、このような公共空間の商業的利用に際して、旧市街地に多い歴史的遺産の価値が損なわれることはないように配慮され、街並みの景観が歪められることはない。

また、日本に次いで高齢化が進むイタリアにも空店舗や空地は多く、その再利用は大きな課題である。再利用者が定着することが鍵なので、徐々にしか地域への経済的効果は生じないが、再利用が進めば、店舗等が面する道路や広場には人々が集うようになる。こうした空店舗等の再利用をうながすことも、公共空間の活用と表裏一体なので、ボローニャで聴取した事例を報告する。

既成市街地の大規模な再開発などによらずとも、既存の公共空間を当初の目的以外にも弾力的かつ多様に活用し、市民と事業者、公共の三者がより大きな便益を得られるような「可変的利用」1を推進することによって、街区や都市の魅力が高まり賑わいが生まれる。北イタリアでは、こうした公共空間を利用したまちづくり事例を数多くみることができた。

わが国では、国レベルでは都市再生整備計画の区域内において特例道路占用区域を設け、オープンカフェや景観に配慮した質の高い広告塔などの配置が始まっている。地方公共団体では、神戸市などが「協定道路制度」を設け、地域団体がオープンカフェや休息ベンチ・飾花を設置できるようにしている。東京都では「しゃれた街並みづくり推進条例」における「まちづくり団体の登録制度」を通じて、公開空地等において、オープンカフェや有料イベント、市場などを開催することもできる。その他、全国各地においても同様な動きが出始めていることから、本報告が何らかの参考となり、日本における公共空間の活用に役立つことができれば幸いである。
図1 フィレンツェ・シニョリーア広場やガレリア下歩道上、小路などのオープンカフェ
 
「可変的利用」については、国土交通政策研究所報の第56号(2015年春期)に、国内調査と海外調査の速報が掲載されているので、是非ともご参照いただきたい

2――フィレンツェの魅力を高める光の演出

2――フィレンツェの魅力を高める光の演出

フィレンツェ市はイタリア共和国中部の北西側にあるトスカーナ州の州都であり、人口規模は国内第8位で約36万人である(第1位のローマは人口約260万人)。15世紀のフィレンツェはルネサンス文化の中心地として栄え、旧市街地は「フィレンツェ歴史地区」としてユネスコの世界遺産に登録されているが、80年代に約45万人だった市の人口は既に20%も減少している。

歴史的遺産の保全が義務づけられているフィレンツェでは、地区再開発などの事業は旧市街地では難しい。そこで、EUにおける都市間競合の中で、都市としての魅力を維持し高める方策の1つとして、公共空間や歴史的遺産を光によって演出する「フィレンツェ・光の芸術祭」(Firenze Light Festival: F-Light)が2011年から企画され、毎年12月上旬から1月中旬にかけて行われてきた2

日本でも、札幌や仙台、新潟、丸の内中通りや表参道のイルミネーション、神戸のルミナリエなど各地で著名な大規模イルミネーション事業が実施されている。LEDが普及し利用が安価になったこともあり、市町村や商工会レベルでも、今や季節になると、イルミネーションやプロジェクション・マッピング事業を随所でみることができる。

しかし、2011年以降のF-Light事業は、日本の商業地の特定の区画を中心とした演出と比べると、旧市街地の歴史的遺産を軸とするイベントと連携しながら市内全域の公共照明網と連坦し、フィレンツェ全市全域を多様で品格ある光りに満たしている点に大きな違いがある。これを実現しているのが、フィレンツェ市内の公共照明のすべての維持管理や運営を行っている民間会社の形態をもつ準公共機関のSocietà Illuminazione Firenze (Silfi) 社とフィレンツェ市である。著名なアート・ディレクターを起用し統合的なコンセプトを掲げてマネージさせるとともに、民間のスポンサーを得て、強いリーダーシップを発揮し事業を企画運営している。以下、具体的な事業運営について報告する。
図2 Firenze Light Festival 2015 in Viaggio Conlaluce のウェブページより
 
2  従来からも小規模の光のイベントが行われていたが、LEDの普及や照明芸術の確立によって、新たな企画で2011年からF-Light事業が始動している。F-Light事業の詳細については http://www.flightfirenze.it/ を参照。
1.事業主体
フィレンツェ市とともに共催し、実質的に事業を推進しているのは、Silfi社である。同社は、市が30%、ラベンナの民間実業家であるPierco Branzanti 氏が70%の株式を保有している民間会社である。同社の2013年の決算書によると、市内の公共照明等の通常事業とF-Light事業等による利益は250 万ユーロである。配当総額は90 万ユーロなので、市には27 万ユーロの配当収入が入っている。

Silfi 社は民間会社であるが、市全域の街路灯やアルノ川・広場・歴史的資産のライトアップなど景観照明のすべての点灯・消灯の管理や維持、更新を請け負っている。さらに、新たな照明機器の開発や照明システムの開発を通じて、駐車場等の施設の案内や空き情報案内版などの電光掲示板、電気自動車の充電設備とともに、街頭の各種監視カメラ(CCTV)の設置・管理も行っている。

市の照明や信号、監視カメラに至る電気機器関係のすべてを民間会社1社が受託することは日本では考えにくいが、この背景には、Silfi社の70%出資者であるBranzanti氏がかつてフィレンツェ市内を流れるアルノ川の氾濫による洪水で壊滅的な打撃を受けた公共照明システムの復旧と新技術の導入のために多大な資金援助を行い貢献した事情がある。同氏は「フィレンツェ市の光の父」と呼ばれ、市からギルドの称号を授与されている。
図3アルノ川付近の照明による景観/図4シニョリーア広場のネプチューン像
図5アルノ川ヴェッキオ橋の照明による景観/図6ヴェッキオ橋のプロジェクション・マッピング
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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

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