2016年07月05日

地域アーツカウンシル-その現状と展望

吉本 光宏

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2沖縄版アーツカウンシル(沖縄文化活性化・創造発信支援事業):マネジメント力や組織力の強化、人材育成を促進しアーツカウンシルのあるべき姿を追求
沖縄県では文化行政組織の改編によって文化観光スポーツ部が創設され、5本柱の事業の一つとして2012年8月から沖縄文化活性化・創造発信支援事業がスタートした。これは、沖縄県の多様で豊かな沖縄文化の活性化や、芸術文化の創造・振興・発信の一層の推進を支援するため、様々な分野の芸術文化活動、地域の芸能・行事等の文化資源を活用した取組や、アートマネジメントを含む沖縄文化の担い手や継承者の育成などの各種の取組に対して費用を補助するものである。

そのため、公益財団法人沖縄県文化振興会に、プログラムディレクター、プログラムオフィサーを起用し、PDCAサイクルによる事業評価システムを導入して「沖縄版アーツカウンシル」のあるべき姿について検討を進めている。補助金の総額は、当初1億9,000万円(2012年度予算)で、助成金・補助金に限った比較では、本稿で紹介する4つの地域アーツカウンシルの中で最も規模が大きかったが、14年度予算は1億5,300万円、15年度予算は1億1,014万円となっている。

2015年度は以下の4つの枠組みで支援を行っており、補助金額の上限は他の地域アーツカウンシルよりかなり高めに設定されている。
  • 県内の文化芸術関連事業者の組織化、マネジメント力強化に資するインキュベート事業(主に、当該芸術文化関連事業者あるいは業界分野の組織化、マネジメント人材の育成を目的としたインキュベート事業|補助金額:500万円以内)
  • 沖縄文化の担い手・継承者の育成及び新たな文化創造の仕組みづくりに寄与する事業(主に、当該芸術文化関連事業者の組織力、創造力、発信力、育成力等の強化に資する事業|補助金額:1,000万円以内)
  • 新たな沖縄文化の創出、文化産業の創出等に寄与する事業(主に、当該芸術文化関連事業者及び業界のより社会的、発展的役割の創出に寄与する事業|補助金額:1,000万円以内)
  • 芸術文化の普及啓発(アウトリーチ)に寄与する事業(主に、需要層・ファン層の拡大、国内外の市場開拓に資する事業|補助金額:500万円以内)

芸術文化活動そのものへの支援は別途「文化活動支援助成事業」で実施されており、この事業では、マネジメント力や組織力の強化、芸術文化団体の組織化、人材や継承者の育成など、基盤整備に重点が置かれている。また、上記3番目の事業では募集要項に「他の分野(農林水産、福祉、商工、観光等)との連携等により、新たな沖縄文化の創出、文化産業の創出、地域文化の活性化に寄与するもの」と明記されるなど、他分野との連携や文化の産業化を視野に入れた支援が明確に打ち出されている点も特徴だろう。

対象となる沖縄文化には、芸能、演劇、音楽、舞踊、美術デザイン工芸に加え、言語文化(しまくとぅば)、コンテンツ関連産業(映像、アニメ、ゲーム、ウェブ等)、伝統武道、食文化なども含まれており、沖縄ならではの文化の特性が反映されるとともに、創造産業の振興も対象となっている。
 
3東京芸術文化評議会とアーツカウンシル東京:10名以上のプログラムオフィサーによる審査体制を確立した本格的地域アーツカウンシル
東京都は、2006年12月に文化振興条例(1983年制定)を改正して、東京芸術文化評議会を設置した。同年5月に策定された「東京都文化振興指針-『創造的な文化を生み出す都市・東京』を目指して」に英国のアーツカウンシルを参考にした評議会設置の検討が具体的な取組の一つとして掲載されていたことがきっかけとなっている。同時に、前年に決定した2016年の五輪招致を実現するためには、文化政策を強化すべきだという判断もこの評議会設置の背景であった。

条例では「必要があると認めるときは知事に意見を述べることができる」、「知事は(評議会の)意見を尊重するものとする」と記載されており、従来の諮問機関に終わらせず、より主体的で影響力のあるアーツカウンシル的な組織が念頭に置かれていた。この評議会に専門的人材を起用し、予算を付与して本格的なアーツカウンシルにできないかという検討も行われたが、条例設置の評議会ではそれが難しいことが判明し、(公財)東京都歴史文化財団の内部に設置されることになったのがアーツカウンシル東京(2012年11月設立)である。

東京芸術文化評議会は東京都(知事)に対して、政策提言や政策評価を行うことで東京都の文化政策の形成を担い、アーツカウンシル東京はその政策に基づいて、支援事業やパイロット事業、企画戦略事業を実施することになっている。

東京都が行っていた「東京芸術文化創造発信助成」は2013年度からアーツカウンシル東京に移管され、充実が図られてきた。2015年度は単年助成、長期助成の二つの枠組みで実施され、2006年の評議会発足時には2,000万円だった助成予算は、1億5,000万円にまで拡大した。
  • 単年助成プログラム(東京を活動拠点とする芸術団体等が主催する(1)都内で実施する公演・展示等、(2)国際的な芸術交流活動、(3)芸術環境の向上に資する活動|助成額:活動の種類により最大50万円~400万円)
  • 長期助成プログラム(東京を活動拠点とする芸術団体等が主催する(1)これまでにない意欲的な企画や創造活動、(2)東京を代表する国際的な芸術団体へのステップアップとなる継続的な活動、(3)東京の芸術創造環境の向上に資する活動|助成額:活動の種類・期間によって最大400万円~1,200万円)

またアーツカウンシル東京の助成事業の特徴としては次のような点があげられる。
  • 実現性以外の審査基準として、(1)革新性・独創性、(2)影響力・普及力、(3)国際性、(4)将来性・適時性、(5)継承性(伝統芸能の場合)が示され、次のとおり、芸術団体や芸術家のステージごとに重視するポイントが明確にされていること
    (1)活動基盤形成期:新しいクリエーションへの支援
    (2)活動拡大・発展期:継続と革新のための支援
    (3)活動成熟・トップ期:業界を牽引し、後進を育成する姿勢への支援
  • 美術・映像、伝統芸能の分野について、個人申請を受け付けていること(2015年度より)
  • 従来の助成制度では対象となりにくかった伝統芸能も助成対象となっていること
  • 単年助成にはⅠ期、Ⅱ期と年2回の応募のチャンスがあり、申請書類の締切から概ね約2ヶ月後に交付決定が行われること
  • 活動実施前の助成金の一部概算払いが可能なこと(個人申請を除く、別途請求手続きが必要)

何よりアーツカウンシル東京の助成の仕組みで注目すべきは、選考にあたって委員会は設けず、各芸術分野のプログラムオフィサーが申請書類を精査し、プログラムディレクターによるとりまとめを経て評価案及び採択原案が作成されている点である。その過程で有識者へのヒアリング又はミーティングが行われ、決定前に採択原案についてカウンシルボードへの諮問が行われるが、助成先の審査は基本的に11名のプログラムオフィサーとディレクターに委ねられている。
この選考方法は、英国のアーツカウンシルと同様の仕組みで、上記の審査基準の明確化や年2回の申請受付と迅速な決定、一部概算払いなどを可能にしている。

2015年4月、アーツカウンシル東京は、それまで東京への五輪招致を目指して様々な文化事業を展開してきた東京文化発信プロジェクト室と統合された。事業全体の規模から見ると、助成事業の比率が大幅に低下し、海外の標準的な例と比較した場合に、アーツカウンシルと称することが妥当かどうかの疑問は残るが、2020年に向けてさらなる事業や組織体制の強化が予定されており、今後の展開に期待したいところである。
 
 
4大阪アーツカウンシル(大阪府市文化振興会議・アーツカウンシル部会):府市が地方公共団体の枠組みを超えて取り組むアーツカウンシルの新たな形
大阪アーツカウンシルは大阪府市文化振興会議の専門部会として2013年7月に設置された。大阪府市文化振興会議は、府市の諮問機関として共同設置規約に基づいて設定されたもので、文化振興計画の策定及び変更、文化施策に関する重要事項等に関することについて調査審議し、知事・市長に提言、答申等を行う。アーツカウンシル部会の審議状況・結果も文化振興会議に報告され、同会議で審議の上、知事・市長に提言が行われるしくみになっている。

アーツカウンシル部会は部会長(統括責任者)、3名の専門委員(発足時は4名)によって構成されており、2013年5月に統括責任者が決まり、同年7月に部会の委員が選任されて活動がスタートした。2015年度は、(1)評価・審査(府市の文化課が担当する文化事業の評価と改善提案、府市の公募型助成金の審査)、(2)企画/調査(文化を育てる環境づくりへの新たな提案、そのベースになる情報収集と発信)という二つの枠組みで運営されている。府市の公募型助成金は次の3つである。
  • 大阪府芸術文化振興補助金(大阪府内の芸術文化団体が行う活動に対する補助金|補助金額:最大100万円)
  • 輝け!子どもパフォーマー事業(府)(大阪府内の子どもが参加し、発表する文化活動を実施する団体や個人に対する補助金|補助金額:最大30万円)
  • 大阪市芸術活動振興事業助成金(大阪市内で芸術・文化活動を行う団体及び個人に対する助成|一般助成:上限20万円、特別助成(都市の魅力向上につながる事業):最大400万円)

審査の対象となる公募型助成金は2015年度予算で8,000万円弱と、アーツカウンシル東京の約半分であるが、評価や改善提案を行う文化事業(公募型助成金を含む)は府市合わせて約50件、6億8,000万円であり、その役割は決して小さくない。

また、2014年4月に開設されたホームページを見ると、コラムやインタビューに加え、芸術の分野・ジャンル別、子どもや青少年などの対象別、地域別に検索できるアートイベント情報、芸術文化に関連した各種ニュースの提供など、情報収集と発信に力を入れている。2014年4月には、大阪府立江之子島文化芸術創造センターに出張所を開き、毎週金曜午後、気軽に相談できる場を設けた。

大阪府市の文化事業の評価・改善提案とその一部の審査を行う専門家の部会をアーツカウンシルと称している点は変則的な感をぬぐえない。ただ、限られた陣容の中で、大阪ならではのアーツカウンシルを目指そうとする姿勢には、他にはない可能性が感じられる4
 
4 2015年5月の住民投票でいわゆる大阪都構想が実質的に見送りとなったことに伴う今後の方針についてはこれから検討される予定。
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