2016年07月01日

日銀短観(6月調査)~大企業製造業の景況感は横ばいだが、非製造業は悪化、設備投資計画も弱い

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.全体評価:予想以上はヘッドラインの数字のみ、Brexitもほぼ未反映

日銀短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が6と前回3月調査比で横ばいとなり、2四半期連続での景況感悪化は回避された。一方、大企業非製造業の業況判断D.I.は19と前回比3ポイント低下し、2四半期連続でマインドが悪化した。
 
前回3月調査では、円高、新興国など海外経済の減速、消費の低迷を背景に、大企業製造業・非製造業ともに景況感が悪化し、先行きに対しても悲観的な見方が示されていた。

日本経済は長らく勢いがなく、停滞が続いている。6月上旬に発表された1-3月期のGDP統計(2次速報値)では、実質成長率が2四半期ぶりにプラスに転じたものの、うるう年による日数増の影響を除けば、プラス幅はわずかに留まった。また、その後に発表された4月以降の経済指標も勢いを欠いている。日銀が算出を開始した消費活動指数(実質・季節調整値)は4月に前月比で0.8%上昇したが、3月の低下を補えていない。輸出は米国向けやアジア向けを中心に数量が前年を割り込んでいる。結果、鉱工業生産は、一進一退が続いている。また、金融市場では、米利上げ観測の鈍化や英国のEU離脱懸念などから、前回調査以降も円高進行に歯止めがかかっていない。

大企業製造業ではさらなる円高進行等を受けて加工業種で景況感が悪化したものの、資源・素材市況改善に伴う素材業種の改善が下支えとなり、全体では横ばいを維持した。非製造業では、株価の下落もあって国内消費の低迷が長引いているうえ、円高や震災、中国の関税引き上げの影響などから、これまでの支えであったインバウンド(訪日外国人)需要の勢いに陰りが出たことが影響したとみられ、景況感が悪化した。また、ここ数ヵ月における原油価格の上昇も運輸業を中心として逆風に働いたようだ。

中小企業の業況判断D.I.は、製造業が▲5、非製造業が0と、それぞれ前回比で1ポイント、4ポイント低下した。大企業同様、非製造業のマインド悪化が顕著になっている。
 
先行きの景況感についても、大企業製造業で横ばいとなったのを除いて、幅広く悪化が見られた。中小企業製造業では、新興国経済の減速懸念や米利上げの不透明感、さらなる円高への警戒などが悲観に繋がったと考えられる。非製造業では、伸び悩む内需や原油高への警戒感が強く現れたとみられ、企業規模を問わず、製造業よりも先行きに対する厳しい見方が示された。
 
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計4、当社予想は2)、先行き(QUICK集計4、当社予想は1)ともに市場予想を上回った。大企業非製造業では、足元(QUICK集計19、当社予想も19)については予想と一致、先行き(QUICK集計18、当社予想も17)については、予想をやや下回った。
 
15年度設備投資(全規模全産業)は、前年度比で5.0%増と、前回調査時点計画の8.0%増から大幅に下方修正された。例年、6月調査(実績)では大企業を中心に若干下方修正されることが多いが、今回の下方修正幅は極めて大きい。

16年度の設備投資計画(全規模全産業)は、15年度比で0.4%増と前回調査時点の4.8%減から上方修正された。例年、3 月調査から6 月調査にかけては、計画が固まってくることに伴って、大きく上方修正される傾向が強いうえ、今回は比較対象となる15年度の設備投資が大きく下方修正され、前年比のハードルが下がっていた。それにもかかわらず、示された16年度計画は例年に比べて上方修正幅が抑制的であり、伸び率の水準としても6月調査としては5年ぶりの低水準に留まっている。円高の進行、国内消費の伸び悩み、インバウンドの鈍化など懸念材料は多く、先行きの不透明感が強いことが企業の投資先送りに繋がっていると考えられる。
 
ちなみに、今回の調査は調査期間(調査基準日6月13日)の関係で、英国のEU離脱(Brexit)とその後の金融市場の緊迫化を殆ど織り込んでいない。従って、現時点では、企業の景況感や設備投資計画は短観の水準よりも下振れしている可能性が高い。
 
金融政策との関係では、今回の短観は大企業製造業の景況感こそ横ばいであったが、全体的に弱い部分が多く、日銀の追加緩和の可能性を低下させる内容ではないと見ている。

日銀は1月にマイナス金利政策の導入を決定したが、その後は物価の下振れや円高の進行にもかかわらず様子見姿勢を維持している。マイナス金利政策の影響見極めに時間を要するうえ、追加緩和余地が残り少なくなっていることから、矢継ぎ早の追加緩和を避けたとみられる。

しかしながら、今回の短観では、大企業製造業の景況感こそ持ちこたえた形だが、非製造業で景況感が顕著に悪化し、設備投資計画も抑制的であるなど、前向きに評価できる部分は少ない。消費の低迷や円高の定着などから物価の下振れリスクは高まっており、7月に追加緩和に踏み切る可能性は高いと見ている。
 
なお、4日に発表される「企業の物価見通し」も引き続き注目される。企業の物価見通しは、前回調査にかけて、3四半期連続で、全ての年限で下振れが確認されている。今回発表される「企業の物価見通し」において、さらに下振れが認められれば、日銀に追加緩和を促す材料が追加されることになる。
 

2.業況判断D.I.:全規模全産業の景況感は悪化、先行きはさらに悪化

2.業況判断D.I.:全規模全産業の景況感は悪化、先行きはさらに悪化

全規模全産業の業況判断D.I.は4(前回比3ポイント低下)、先行きは2(現状比2ポイント低下)となった。規模別、製造・非製造業別の状況は以下のとおり。

(大企業)
大企業製造業の業況判断D.I.は6で前回調査から横ばいとなった。業種別では、全16業種中、改善が9業種と悪化の6業種を上回った(横ばいが1業種)。新興国経済の減速や円高進行を受けて、自動車(7ポイント悪化、軽自動車の燃費不正問題も影響か)、造船・重機等(6ポイント悪化)、業務用機械(4ポイント悪化)といった輸出依存度の高い加工業種で悪化が目立ったが、最近の原油高が損益改善に直結する石油・石炭(22ポイント改善)、春に市況が改善した鉄鋼(10ポイント改善)などの素材業種での大幅な改善が下支えとなった。

先行きについては、悪化が11業種と改善の5業種を大きく上回ったが、全体では横ばいとなった。値下げ圧力がかかる食料品(12ポイント悪化)、木材・木製品(11ポイント悪化)、非鉄金属(9ポイントの悪化)などで悪化が目立つが、電気機械(11ポイント改善)、窯業・土石(9ポイント改善)などで改善し、方向感が出なかった。足元で大きく悪化した自動車は、先行きの改善(5ポイント改善)が見込まれている。

大企業非製造業のD.I.は19と前回調査から3ポイント低下した。業種別では、全12業種中、悪化が8業種と改善の4業種を上回った。個人消費の低迷やインバウンド消費の鈍化の影響を受ける小売(7ポイント悪化)と宿泊・飲食サービス(11ポイント悪化)、ガソリン高の逆風を受ける運輸・郵便(5ポイント悪化)のほか、これまで好調であった建設(9ポイント悪化)、不動産(5ポイント悪化)などで軒並み悪化した。一方、対事業所サービス(13ポイント改善)、通信(11ポイント改善)などでは改善した。

先行きについても、悪化が9業種と改善の2業種を大きく上回り(横ばいが1業種)、全体では2ポイントの悪化となった。足下で改善を示していた通信(16ポイント悪化)、対事業所サービス(7ポイント悪化)が大きく悪化しているほか、運輸・郵便(6ポイント悪化)などで引き続き悪化が見込まれている。
(図表1)業況判断DI/(図表2) 業況判断DI(大企業)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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