2016年06月30日

コーポレート・ガバナンス報告書のベストプラクティス-“とりあえずコンプライ”を “あとからエクスプレイン”する

江木 聡

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5――「あとからエクスプレイン」を躊躇しない

上場各社では、最初にガバナンス報告書を開示して以降、株主・投資家や社外取締役からもたらされるベストプラクティスの事例、他社のエクスプレイン開示やこれらが示すエクスプレインと判断するレベル感など、この1年間で蓄積された知見も少なくないはずである。これらを踏まえて改めて深度ある検討を行った結果、一旦はコンプライとしながらも、十分に実施しているとはいえない原則が浮かび上がる可能性も十分にある。この場合、コンプライを「あとからエクスプレイン」することに躊躇すべきではない。上場規程等に抵触している可能性を可及的速やかに排除すべきなのは勿論のこと、これこそがコード原則の趣旨・精神に照らして真に適切か否かを判断した結果であるからだ。
 
コード原則の本来的実施は時間がかかるものである。たとえ一時的にエクスプレイン率が高まっても、残された課題を改めて外部に率直に開示することは、コーポレートガバナンスの自律的改善が機能している証左であり、株主・投資家を含めた全てのステークホルダーから信頼を勝ち得ることになるだろう。
 

6――日本のベストプラクティスがコードを塗り替えるか

6――日本のベストプラクティスがコードを塗り替えるか

コードは、海外におけるコーポレートガバナンスの知見をベースとしたベストプラクティスを企業に提示し、企業はこの高い目標に対してコンプライ・オア・エクスプレインを表明するという仕組みである。コードは、強い株主の存在を前提としていること、ベストプラクティス(ベンチマーク)で引っ張るモデルであること、から優れて英米的といえる7。強い株主といえば総会屋しかいなかった日本、詳細なルールが決まった細則主義しかなかった日本では、コードが経営者にコーポレート・ガバナンスについて発想の転換を迫っている。
 
しかし、コードは望ましいコーポレートガバナンスを実現するための一つの道具に過ぎない。コードの趣旨・精神を踏まえた上で、コード原則を超えた自社に最適なガバナンス施策を追求すればよいのである。今は、コード原則と自社の現状との乖離について率直に意見を表明するほかはなくとも、これから各社が独自のガバナンス施策を創出し堂々とエクスプレインすることで、「日本のベストプラクティス」が形成され、これによってコードが塗り替えられていくことを期待したい。それは、「日本的経営」の正当性を裏打ちするものにもなるだろう。
 
最後に、本稿の執筆に際して、花王株式会社と株式会社東京証券取引所の厚意ある諒解と協力を得たことを記して、厚く謝意を表したい。
 
7 日本コーポレート・ガバナンス研究所 若杉敬明所長「コーポレートガバナンス勉強会2016」による。
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(2016年06月30日「基礎研レポート」)

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