2016年06月30日

オフィス市場におけるインバウンドの影響~教育関連施設やアジア系企業の拡大などに期待~

増宮 守

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3.メルボルンでの教育関連機関によるオフィス需要

オフィス需要へのインバウンドの影響は国内では明確でないが、海外に眼を向けると、インバウンドオフィス需要といえる外国人によるオフィス需要をみることができる。再びオーストラリアから、メルボルンの特徴的な事例を紹介したい。

メルボルンは、多数の大学を有する教育水準の高い都市として知られており、また、アジアパシフィックで英語習得に優位なオーストラリアの第2の都市として、アジア全土から多くの留学生を集めている。都市機能はシドニーに大きく劣らないものの、生活コストが安く、また、公園が豊富で美しい景観に恵まれていることもあり、留学先として世界で最高水準の評価を受けている(図表-6)。
図表-6 学生にとって最適な上位20都市(QS学生都市指数・2016)
メルンボルンでは、卒業した留学生がそのまま就職するケースも多く、また、帰国した卒業生が退職後のシニアライフのために戻ってくる、あるいは、子女の留学先として再びメルボルンを選択するケースも多い。メルボルンの人口増加率はオーストラリアの中でも高く、移民流入の背景となることで、教育が都市の成長ドライバーとして機能している。

メルボルンには大学に加え、語学学校も多数存在している。公的不動産の民営化が進むオーストラリアでは、大学を含む教育関連施設やその他の政府系団体による民間オフィスビルの賃貸が多い。こうしたテナントによるオフィス需要が、メルボルンの賃貸オフィス市場の2~3割を占めている。

メルボルンで学ぶ留学生は、アジア圏の人口増加と経済成長に伴って継続的に増加しており、特に、最近は中華系やインド系の留学生の増加が顕著で、中華系資本による中国人向けの語学学校も増加している。こうした教育関連施設の拡大がメルボルンのオフィス需給を支えており、特徴的なインバウンドオフィス需要の事例となっている。
 
日本でも、主要駅周辺で予備校や専門学校などを見かけることは多い。しかし、大規模な専門学校などは自社ビルを保有しているケースも多く、必ずしもオフィステナントとしての存在感は大きくない。三幸エステートによると、2013年の東京23区のオフィス需要をみると、教育セクターに医療、公的機関を加えても、オフィステナント全体の6%を占めるに過ぎなかった(図表-7)。現在も、教育関連施設などの来店型テナントは全体に占める比率が小さく、加えて、不特定多数が出入りするため安全面の維持が難しいことや、入居期間の短いテナントが多いことなどから、概してビルオーナーが敬遠する対象となっている。
図表-7 東京23区のオフィス需要構成
しかし、インバウンドオフィス需要の観点からみると、教育関連施設は無視できないオフィステナントといえる。留学先としての東京の評価は世界的に高く(図表-6)、日本国内の外国人留学生の数は、右肩上がりで推移している(図表-8)。現在、留学生の主な受け入れ先は、オフィスビルを賃借しない大学や大学院となっているが、日本語教育機関でも留学生の増加は顕著で、その他の専修学校などでも留学生が増加している。また、日本文化を幅広くみると、アニメやファッション関連、さらには、和食からサービスノウハウに至るまで、外国人の学習需要が見込めるコンテンツは豊富である。実際のところ、言語面などの受け入れ側の許容力不足のために掘り起こせていない潜在的な留学需要は大きいとみられる。
図表-8 日本の外国人留学生数
英語という強力なコンテンツがあり、大学を含めた公的不動産の民営化が進んでいるメルボルンに対し、東京では、教育関連施設のオフィス需要がすぐに主要セクターの一角を占めるほど大きくなるとはいえない。しかし、今後、留学生の増加が一定のオフィス需要を生む可能性には十分留意しておきたい。
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増宮 守

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