2016年06月30日

健康経営とジェロントロジー~従業員の退職後までを視野に入れた健康経営を

生活研究部 主任研究員   前田 展弘

文字サイズ

■目次

1――はじめに~注目が集まる「健康経営」
2――「健康経営」とジェロントロジーの接点
3――長寿科学研究からの示唆と重点対象層
  1|健康とは何か
  2|健康経営が注力すべき対象とは
4――退職後を見据えた新たな健康経営の取組視点
  1|セカンドキャリア支援に向けた「社内研修」の充実
  2|退職従業員に対する取り組み
5――経営にとっての「セカンドキャリア支援」の意義

※本稿は2016年2月25日「基礎研レポート」を加筆・修正したものである。

1――はじめに~注目が集まる「健康経営」

1――はじめに~注目が集まる「健康経営」

「健康経営」という言葉を近年よく見聞きするようになった。本年1月には経済産業省より「健康経営銘柄2016」選定企業として25社が発表されたことが記憶に新しい。今回が2回目の選定であり、昨年度選定された22社と合わせると計47社1が「健康経営」に優れた取り組みを行っている企業(すなわち健康経営銘柄)として選定されたわけである。

さて、その「健康経営」とは何か。ご存じの方も多いかもしれないが「従業員に対する健康増進を重要視した経営2」のことを指す。1980年代に米国の経営心理学者のロバート・ローゼン氏が提唱した思想「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」がこの概念の基盤となっているとされる3。日本では比較的近年になってから注目された概念と言える。発端は2007年に経済産業省が設置した「健康資本増進グランドデザイン研究会」において、「健康経営」の必要性が議論され、その普及に向けて動き出した経緯が確認される。そして、民間企業の健康経営の取り組みを後押しすることを目的に2014年度からは、経済産業省と東京証券取引所が共同で、上記の健康経営銘柄を選定し公表することを開始したのである。企業にとっては健康経営に取組むことで、「単に医療費という経費の節減のみならず、生産性の向上、従業員の創造性の向上等の効果が期待され、また健康経営銘柄として評価されるなどにより企業イメージの向上にもつながる」等の効果が期待されているのである4

筆者はジェロントロジー(高齢社会総合研究学)を専攻しており、「健康経営」そのものについてはまだまだ研究中ではあるが、関連する部分も少なくない。そこで本稿では、今日的に注目を集める「健康経営」について、ジェロントロジーの視点からの示唆(私見)を述べることとしたい。
 
1 健康経営銘柄に選定された企業(47社)については、下記の経済産業省HP「健康経営銘柄」を参照ください
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_meigara.html
2 田中滋 他編著「会社と社会を幸せにする健康経営」(勁草書房、2010年10月)より引用
3 ㈱電通NEWS RELEASE「従業員への積極的な健康増進策で、生産性・収益性の向上を図る『健康経営』の実態を調査」(2013.3.8)より引用
4 特定非営利活動法人 健康経営研究会HP(http://kenkokeiei.jp/)より引用
※「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標である。
 

2――「健康経営」とジェロントロジーの接点

2――「健康経営」とジェロントロジーの接点

ジェロントロジーは、「個人と社会のエイジング(加齢・高齢化)に伴う課題の解決」を志向する学問(研究)である。その目的は、高齢者の生活課題の解決、高齢者のQOL(Quality of Life)の向上、そして安心で活力ある超高齢社会の創造まで広範にわたる。課題解決に向けて学際的なアプローチをはかることと、「学」の領域だけに止まらず、地域や産業界、行政等と連携し協働しながら取組む実学性の高い研究活動を展開するところに特徴がある。

健康経営との接点を考えると、国民(従業員)の「健康寿命の延伸」に貢献することが目的であることが共通する。その共通項において、健康経営は「現役世代」の健康を、ジェロントロジーはリタイアした「高齢者」の健康について注目しているところは異なる。ただ相互の関係性は深いと考える。高齢者の健康状態は、老後になってからの生活習慣もさることながら、現役時代の生活習慣や健康状態、職場の影響を受けていることが多い。それ故、ジェロントロジーの研究者の立場からすれば、健康経営がより充実されることが望ましい。他方、健康経営を実践する立場からすれば、従業員の退職後の健康までを支援する上で、ジェロントロジーに含まれる知見は有用であるに違いない。この点、健康経営において退職後のことまでをフォローする必要があるかどうかは賛否があると思われるが、筆者としてはその視点を組み込むことが大切だと考える。そのスタンスに立ち、現役時代に何が必要か、さらに取組むべきことがないか、ジェロントロジーの立場から考察していく。
<健康経営とジェロントロジーの接点イメージ>

3――長寿科学研究からの示唆と重点対象層

3――長寿科学研究からの示唆と重点対象層

1|健康とは何か
まず基本的なこととして、“「健康」とは何か”を確認しておきたい。中には「病気でない状態」が健康と考えられている方もいるかもしれないが、その見方は狭すぎるし正しくない。世界保健機関(WHO)が1948年の憲章でうたった健康に関する定義では、「健康とは身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない」”Health is a state of complete physical,mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity”とされる。また同じくWHOが2002年に健康状態を規定する構成要素間の関係性を概念化した結果(図表1)においても、健康状態は、「個人因子(性格等)」、「環境因子(住居環境、経済環境等)」、「心身機能・身体構造」に加えて、社会や人間関係の中で生じる「活動」や「参加」といった要素が相互に関連し合うと考えられている。つまり、健康を維持・増進するために、食事(栄養)に気をつけ適度の運動を行っていればよいということだけでは足りないのである。食事と運動が大事なことは言うまでもないが、人間関係や社会との関係性などあらゆる生活要素が健康に影響を与えているということを理解しておく必要がある。
図表1:WHO-ICFの構成要素間の相互作用の概念図(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)
41_ext_01_0.jpg

生活研究部   主任研究員

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

レポート

アクセスランキング

【健康経営とジェロントロジー~従業員の退職後までを視野に入れた健康経営を】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

健康経営とジェロントロジー~従業員の退職後までを視野に入れた健康経営をのレポート Topへ