2016年06月28日

医薬品・医療機器の現状 2015年度総まとめ

保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   篠原 拓也

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4|医薬品の薬価を巡る議論
医薬品や医療機器の保険償還価格は、医療費の議論におけるポイントとなる。ここでは、まず医薬品の保険償還価格である薬価を取り上げる。医療機器については、第6章で取り扱うこととしたい。

(1)薬価差の構造
診療報酬は、医療機関が行う医療サービスについて、保険者から医療機関に支払われる料金を定めているものである。同様に、保険薬局が行う調剤サービスについても調剤報酬が定められている。診療報酬や調剤報酬には、診療や調剤のサービスの本体部分と、処方、使用される医薬品や医療機器の部分がある。診療報酬や調剤報酬には公定価格が定められており、医療用医薬品の公定価格のことを薬価という。薬価は、厚生労働省によって全国一律に決められている。

一方、実際に医薬品卸が医療機関や保険薬局に医薬品を卸売りする際の実勢価格は、当事者間の交渉で決められる。薬価と実勢価格の差は、「薬価差」と呼ばれる。例えば、医薬品卸が販売促進のために、実勢価格を値引きすれば、薬価差が大きくなり、これが医療機関や保険薬局の手元に残る。この薬価差を減らして、医薬品の薬価を引き下げるために、厚生労働省は、診療報酬改定の前年の9月に薬価調査を行い、医薬品銘柄ごとに販売価格と販売量を把握している。その結果に基づいて、診療報酬改定に併せて、薬価改定が行われる。

具体的には、薬価調査の結果判明した過去の実勢価格の平均値に、許容幅15を上乗せした金額が新たな薬価となる。この許容幅は、医薬品の購入・管理に関する一種のマージンの役割を果たしている。現在、許容幅は、薬価調査で判明した実勢価格の平均値の2%分とされている。保険薬局側からは、この許容幅の水準では、医薬品の保管費用等を賄えないとの声が上がっている。歴史的に見ると、1990年代初めには、許容幅は15%分であったが、薬価改定とともに徐々に縮小されて2000年以降2%分となった16。許容幅を小さくした結果、薬価差が縮小したため、医療機関は医薬品による収益確保に執着しなくなった。このことが、院内処方の減少と、処方箋を通じた保険薬局での処方の進展に寄与したと言われている。

図表10. 薬価差のイメージ

(2)未妥結減算ルールの導入
2014年の診療報酬・調剤報酬改定では、医薬品の流通の適正化を図るために、「未妥結減算ルール」が導入された。従来、医薬品業界では、価格交渉が未妥結のまま、医薬品を仮納入するという慣行が常態化し、流通上の課題となっていた。医薬品卸にとっては販売価格が仕入価格を下回るなど、事業の収益性を損なうリスクを常に抱えていた。一方、医療機関・保険薬局にとっては、交渉妥結が遅れるほど、実勢価格が下がり薬価差が拡大するため都合が良いという事情もあった。極端な場合、薬価改定から2年間価格が決着しないまま次の薬価改定を迎えるケースもあった。新ルールでは、薬価改定から半年後の9月末時点で、5割超の妥結率(薬価金額ベース)を達成していない大病院や保険薬局は、報酬17が25%前後引き下げられることとなった18。2014年は、8月下旬から交渉が急速に進み、9月末の妥結率は9割を超えた。新ルールの導入効果が、現れる結果となった。

図表11. 医薬品価格交渉の妥結率 (9月末)

なお、医薬品卸側からは、「妥結を最優先した結果、従来以上に厳しい交渉をせざるを得ないケースや単品単価19交渉が行いづらいケースが多く発生し、また、(中略)特定卸、特定品目、特定期間のみの部分妥結が一部に見られるなど、必ずしも真の流通改善には繋がっていません。」20との声もある。

(3)薬価毎年改定の議論
現在、薬価は診療報酬や調剤報酬と同様、2年に1度、改定されている。その頻度を毎年に高めてはどうかという議論がある。そうすることにより、速やかに、実勢価格を反映して、薬価を引き下げることができ、医療費抑制が図られるという考え方である。これに対し、従来、医薬品業界からは反対意見が上がっていた。その理由は、1)価格交渉の妥結率が低いために実勢価格がなかなか把握できない、2)頻繁な価格改定により医薬品の価格低下が早まり医薬品メーカーの研究開発意欲がそがれる、3)薬価調査を毎年実施する実務上の負荷が大きい、などとされた。このうち1)の妥結率は、未妥結減算ルールにより向上し、実勢価格の把握は可能となってきている。

薬価毎年改定の議論は、これまでにも行われてきた。近年は、経済財政諮問会議等で議論が交わされている。今後、薬価は2016年と2018年に改定される予定であるが、消費税率の10%への引き上げに伴い、2017年にも改定される予定である。過去を振り返ると、1989年の消費税(税率3%)導入時と1997年の5%への税率引上げ時は、いずれも薬価改定の間の年であり、臨時で薬価を改定した。1989年には薬価に単純に消費税分を上乗せしたが、1997年には追加の薬価調査を行い一旦薬価を引き下げた上で消費税分を反映させた。従って、2017年の薬価改定に先立って、2016年9月に薬価調査を行うかどうかが焦点となる。もし薬価調査を行えば、2019年以降の毎年改定につながる可能性がある。21

図表12. 薬価改定率の推移
 
15 許容幅は、リーズナブルゾーン、Rゾーンなどと呼ばれている。
16 「日本の薬事行政 (2014.3)」(日本製薬工業協会)によると、許容幅は1992年薬価改定では15%だったが、94年に13%、96年に11%、97年に10%(長期収載品は8%)、98年に5%(同2%)、2000年に2%と、徐々に縮小された。
17 引下げの対象となる報酬は、大病院では、初診料(通常282点→減算後209点)、外来診療料(同73点→54点)、再診料(同72点→53点)。保険薬局では、調剤基本料(同41点→31点)、調剤基本料の特例(同25点→19点)(第3章にて、詳述。)。
18 特に、大病院(病床数200以上)と保険薬局で、妥結率が低かったことから、新ルールの対象とされた。
19 単品ごとの価格が設定され、妥結する契約。他に複数の品目が組み合わされている取引で総価で交渉し総価に見合うよう個々の単価を設定する単品総価や、総価に見合うよう個々の単価を薬価一律値引で設定する全品総価という様式がある。
20 「未妥結減算ルールに関する改善要望について」(一般社団法人 日本医薬品卸売業連合会, 平成27年3月16日)より抜粋。
21 なお薬価調査とは別に、個々の医薬品について、再算定による薬価引下げが行われることがある。再算定は、(1)新薬の売上げがメーカーの想定を上回った場合(市場拡大再算定(次章で述べる。))、(2)医薬品の効能や用法用量が変化した場合(効能変化再算定、用法用量変化再算定)、(3)新薬の特許期間が終了し、後発薬が発売された場合、に行われる。
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保険研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品、保険計理

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