2016年06月28日

医薬品・医療機器の現状 2015年度総まとめ

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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2|在宅医療の充実に不可欠な、かかりつけ薬局の整備
現在、地域包括ケアシステムの構築に向けた取組みが進められている。これは、在宅医療・ケアをベースに地域で高齢患者の医療・介護を行うための取組みである。医療、介護のみならず、介護予防、住まい、自立した日常生活の支援まで、包括的に確保される体制とされている。

図表38. 地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムが浸透すると、介護施設でのケアや、自宅での医療・ケアが進む。そこで、医療機関での医師による診療だけではなく、介護施設や自宅での医薬品の服用などによる自己管理が重要となる。それに併せて、薬剤師の役割も高まっていくこととなる。

現在、保険薬局は、他の施設や事業所と引けをとらない施設数が設置されている。今後、保険薬局の薬剤師は、地域ケア会議63への参加等を含めて、在宅医療に不可欠な存在となるものと考えられる。

図表39. 地域包括ケアシステム関係施設数 (2013年)

2015年5月に、経済財政諮問会議において、厚生労働省は、かかりつけ薬局の整備構想を示した。それによると、「『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ」というキーワードのもと、2025年に、5.7万の保険薬局全てを患者本位のかかりつけ薬局に再編する目標が掲げられている。この整備により、在宅対応や24時間対応といった薬局機能の充実を図り、適切な服薬指導を通じて高齢者医療の有効性や安全性を高めるとともに、残薬や過剰な投薬を減らして医療の適正化・効率化と、医療費の削減につなげることが示されている64

(参考) 地域包括ケアシステムにおける見守り活動と、薬剤服用の確認 (柏市の先進事例からの成果)
地域包括ケアシステムの先進事例の1つとして、2009年度から2013年度にかけて千葉県柏市で実践されたモデル事業がある。この事業は「柏プロジェクト」と呼ばれており、その事業での経験から、今後、全国で地域包括ケアシステムを展開するための有益な知見や示唆が、数多く得られている。この事業では、得られた知見をまとめて「在宅医療・介護多職種連携柏モデル ガイドブック」が作成された。その中で、診療・治療やサービスなどと併せて、薬剤についても、多職種連携のためのルールが提言されている。

図表40. 在宅医療における薬剤に関する情報連携

特に、残薬については、患者の治療が有効に進まないだけではなく、医薬品費の面でも問題がある。

厚生労働省の委託調査65によれば、患者に残薬を確認したところ残薬を有する患者がいた、とする薬局は90%に上った。また、医薬品が余ったことがある患者は、50%超との結果であった。

図表41-1. 残薬を有する患者がいた薬局の割合/図表41-2.医薬品が余ったことがある患者の割合

日本薬剤師会が実施した残薬変化に関する調査によると、薬剤師が服薬指導をした結果、残薬の金額が平均2,000円以上減少した。また、服薬指導により、50%以上の患者が残薬なしとなった。

図表42.残薬変化に関する調査

在宅医療では、患者の服薬による治療が大きなウェイトを占めることになるものと考えられる。今後、在宅医療が本格化すれば、薬剤師による患者への服薬指導の充実が必要となろう。その中でも、残薬の発生をどのように減らすかが、大きなポイントになるものと考えられる。

在宅医療では、服薬状況を含む各種の患者の情報を、多職種間で共有し、医療・介護方針の統一を図ることがポイントとなる。そのためには、情報通信技術(ICT66)が有力なツールとなる。例えば、モバイル端末や各種のセンサー等の情報機器を通じて、患者の情報を把握し、関係者間で共有化することが検討されている。また、こうしてやり取りされる情報を、ソフトウェアにより集約・分析・処理することで、在宅医療の質の改善や、効率化の向上につなげることも検討されている。
 
63 地域ケア会議は、地域包括支援センター等が主催し、医療・介護等の多職種が協働して、高齢者の課題の解決を図るとともに、介護支援専門員の自立支援に資するケアマネジメントの実践力を高めるためのもの。個別ケースの課題分析等を積み重ねることにより、地域に共通した課題を明確化するとともに、共有された地域課題の解決に必要な資源開発や地域づくり、さらには介護保険事業計画への反映などの政策形成につなげる。
64 「中長期的視点に立った社会保障政策の展開」(厚生労働省, 経済財政諮問会議 資料5, 平成27年5月26日)より。
65 「外来医療(その1)」(厚生労働省, 中医協資料 総-3, 平成27年4月8日)に記載の、「平成25年度 厚生労働省保険局医療課委託調査『薬局の機能に係る実態調査』」の結果による。残薬を有する患者についての薬局への調査は998件、医薬品が余った経験の有無についての患者への調査は1,927件の標本に対するアンケート結果。
66 ICTは、Information and Communication Technologyの略。情報処理・情報通信分野の関連技術を総称する用語。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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【医薬品・医療機器の現状 2015年度総まとめ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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