2016年06月27日

米国「長寿年金」の動向-適格長寿年金契約(QLAC)に関する税制の確定を受け、401(k)、IRA等、年金プランからの投資が期待される-

松岡 博司

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1――長寿年金拡大の原動力となるか 適格長寿年金契約(QLAC)に関する税制改正等の概要

近年の長寿年金を巡る一番大きなトピックは、税制取扱いの確定等、長寿年金を巡る制度的な問題が解消したことであろう。
 
1|401(k)、IRA等、確定拠出型の年金プランの概要と、これまでこれらの資金で長寿年金を購入する上でネックとなっていたRMD(最低引出義務)制度
 
米国では、民間の年金プランの主流は、旧来の確定給付型の年金プランから、401(k)プラン、IRA(individual retirement account:個人退職勘定)等の確定拠出型の年金プランに移っている。
米国の退職貯蓄の残高および内訳(2014年末)
これらは勤労者が在職中に掛け金を計画的に払い込み、投資リスクを負担しながら将来の退職貯蓄を確保する個人勘定タイプの年金プランである。401(k)プランでは、従業員が在職中に非課税の個人勘定で掛け金を積み立て自主運用し、将来の退職時に積み立て残高を取り崩すことにより退職所得に充当する。IRAでは、勤労者が在職中に非課税で投資信託や生保の年金契約を購入し退職所得を準備する。IRAはもともと企業年金制度でカバーされない勤労者を対象に発足(1975 年)したが、その後すべての勤労者に適用が拡大された。また、401(k)プラン等を脱退した者の受け皿としても活用されている。印象としては、わが国の企業型401(k)が米国の401(k)に相当し、わが国の個人型401(k)が米国のIRAに相当するように思われる。

これらの確定拠出年金プランでは、加入者ごとに個別の勘定が設けられ、拠出金およびその運用成果が勘定内に蓄積される。拠出額および勘定の中での運用成果については、その年の連邦所得税が課されず、将来、資産を引き出すときに始めて課税されるという税制上の特典が与えられる。

長寿年金を、米国民の間に普及した401(k)プランやIRA等、確定拠出年金プランの投資対象とできれば(=税制適格を有する確定拠出型年金プランの資金で長寿年金を購入できるようにできれば)、長寿年金の普及が大きく前進すると考えられる。

ところが、年金プランの課税繰り延べという税制上のメリットには、年齢制限があった。それは、70.5歳を過ぎると毎年一定の金額を口座から引き出さねばならないとするRMD(Required Minimum Distributions: 最低引出義務)制度である。このRMDが、長寿年金を年金プランの資金で購入する上での大きなネックとなっていた。

確定拠出年金プラン内で長寿年金を購入していた場合、RMDにより引出すことが必要とされる金額は、長寿年金への投資額も含めたプラン残高全体の何分の1として算出されるが、実際には、長寿年金は80歳、85歳といった超高齢期まで資金化できないので、年金プラン内の他の投資資産を取り崩して必要金額を引き出していかなければならなくなる。これが、401(k)プランやIRAで長寿年金を購入する上での制約となっていた。
2|2014年7月、適格長寿年金契約(QLAC)に関するRMDからの適用除外ルールの確定 
2014年7月、財務省と内国歳入庁が、確定拠出年金プラン等の資金で長寿年金を購入することに関するルール改正を実施した。先述のように、今回の税制改正の元になった政府提案は2012年2月に行われたものである。それから約2年半の期間を経て、最終ルールが取りまとめられたことになる。ルール改正は2014年7月2日から適用された。

今回のルール改正の要諦は、税制上、長寿年金として認められる年金を適格長寿年金契約(Qualified Longevity Annuity Contract、以下、QLAC)として定義し、QLACに投資した部分についてはRMDの適用を免除するとした点にある。QLACは、RMDに基づく70.5歳以降の引出必要額の計算において、年金プランの残高の分母分子から除外される。これにより、QLACと認定された長寿年金契約を401(k)プランや IRA等の確定拠出年金プランの資金で購入することが可能になった。

QLACの要件等、ルールの概要は以下の通りである。
QLACの要件等、ルールの概要1
QLACの要件等、ルールの概要2
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松岡 博司

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