2016年06月24日

中国経済:景気指標の総点検と今後の注目点(2016年夏季号)~景気評価点は「低位」から「中位」に改善

三尾 幸吉郎

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1.供給面から点検すると

(図表-1)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移 【工業生産】
景気指標の中でGDPへの影響が最も大きいのが工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)である。ここもとのサービス化の進展で影響度が落ちたとはいえ、依然として有効性は高い。4月の工業生産は前年同月比6.0%増、5月も同6.0%増と1-3月期の前年同期比5.8%増を0.2ポイント上回る水準で推移している。従って、工業生産を見る限り、第2四半期(4-6月期)の成長率は前四半期を上回る可能性がでてきている(図表-1)。
(図表-2)製造業PMI 【製造業PMI】
供給面を見る上では製造業PMI(中国国家統計局)も重要な景気指標である。これは製造業3000社の購買担当者に対し毎月実施されるアンケート調査の結果を元に計算されるもので、通常は50%が景気強弱の分岐点とされる。5月の製造業PMIは50.1%と3ヵ月連続で50%を若干ながら上回った。但し、5月の生産経営活動予想指数(今後3ヵ月予想)が55.9%と3月の62.6%をピークに落ちてきた点には注意が必要である(図表-2)。
(図表-3)非製造業PMI 【非製造業PMI(商務活動指数)】
一方、中国では製造業からサービス業への構造転換が進行中なため、非製造業の動きが重要性を増している。非製造業に関する統計は少ないが、製造業PMIと同時に公表される非製造業PMI(商務活動指数)が参考になる。製造業PMIと同様に50%が景気強弱の分岐点とされる。5月の非製造業PMIは53.1%と、依然50%を十分に上回っているものの、3月の53.8%を直近ピークに2ヵ月連続で低下した。また、5月の同予想指数が57.8%と大きく低下したため、非製造業が第2四半期(4-6月期)成長率の足枷となりそうである(図表-3)。

2.一方、需要面を点検すると

2.一方、需要面を点検すると

(図表-4)業種別に見た小売売上高(限額以上企業)の動き 【小売売上高】
個人消費の動きを示す代表的な指標となるのが小売売上高である。4月の小売売上高は前年同月比10.1%増、5月も同10.0%増と1-3月期の前年同期比10.3%増を小幅に下回る水準で推移している。日用品は高い伸びを維持しているものの、家電、自動車、化粧品などは1-3月期の伸びを下回っている(図表-4)。また、価格要因を除いた実質でも、4-5月期は前年同期月比9.5%増と1-3月期の前年同期比9.7%増を小幅に下回る伸びに留まっている。
(図表-5)固定資産投資と民間投資 【固定資産投資】
投資の動きを示す代表的な指標となるのが固定資産投資(除く農家の投資)である。固定資産投資は毎月発表されるものの、1月からの年度累計で公表されるため、時系列の動きは読み取り難い。そこで、当研究所で月次に直したのが図表-5である。1-3月期は前年同期比10.7%増と前年の伸び(前年比10.0%増)を上回る好調なスタートを切った。しかし、5月には前年同月比6.1%増(推定1)と大きく伸びが鈍化、特に民間投資の落ち込みが顕著となっている。
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
(図表-6)新規輸出受注指数の推移 【輸出】
世界の工場といわれる中国では輸出需要が生産動向を左右する。4月の輸出額(ドルベース)は前年同月比1.8%減、5月も同4.1%減と1-3月期の前年同期比9.6%減に比べるとマイナス幅は縮小した。一方、先行指標となる新規輸出受注指数は5月も50.0%と3ヵ月連続で50%台を回復、マイナス幅の縮小傾向が今後も続く可能性がでてきた(図表-6)。世界経済の回復が緩やかと想定される中でどこまで回復するか注目される。

3.その他の景気指標を点検すると

3.その他の景気指標を点検すると

【電力消費量】
その他の指標では電力消費量の注目度が高い。李克強首相は特に工業の電力消費量を重視していたとされる。1-5月期の電力消費量は前年同期比2.7%増と前年の伸び(前年比0.5%増)を上回っている。産業別に見ると、第2次産業は前年同期比0.4%増と前年のマイナスから小幅なプラスに転じており、第3次産業も同9.6%増と前年を上回る伸びを示している(図表-7)。但し、4月は前年同月比1.9%増、5月も同2.1%増と3月の同5.6%増を下回り、勢いに陰りがある(図表-8)。
(図表-7)電力消費量(業種別)/(図表-8)電力消費量の推移
【貨物輸送量】
また、貨物輸送量の注目度も高い。鉄道貨物輸送量は李克強首相が重視していたとされる指標だが、過半を占める石炭の輸送量がエネルギー改革の中で構造的に減少、景気と乖離する可能性がでてきたため道路貨物輸送量を見ることとしている(図表-9)。道路貨物輸送量は電子商取引(EC)など新たな消費活動の動きを反映するという利点もある。1-5月期の道路貨物輸送量は前年同期比4.1%増と前年の伸び(前年比6.4%増)を下回り、景気の懸念材料となっている。但し、3月は前年同月比6.2%増、4月は同5.1%増、5月は同5.7%増(推定)と、1-2月期の前年同期比1.3%増を上回り、伸びを回復しつつある(図表-10)。
(図表-9)貨物輸送量の内訳(2015年)/(図表-10)鉄道貨物と道路貨物の推移
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三尾 幸吉郎

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