2016年06月21日

日銀短観(6月調査)予測~大企業製造業の業況判断D.I.は4ポイント低下の2を予想

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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6月短観予測:円高・海外経済減速・消費の低迷・燃費不正問題など逆風多い

(先行きも厳しい見方に) 
7月1日発表の日銀短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が2と前回3月調査比で4ポイント低下し、前回に続いて景況感の悪化が示されると予想する。また、大企業非製造業の業況判断D.I.も19と前回比3ポイント低下すると予想。この場合、製造業、非製造業ともに2四半期連続の悪化となり、それぞれ12年12月調査、14年9月調査以来のこととなる。
 
前回3月調査では、円高、新興国など海外経済の減速、消費の低迷を背景に、大企業製造業・非製造業ともに景況感が悪化し、先行きに対しても悲観的な見方が示されていた。

日本経済は長らく勢いがなく、停滞が続いている。6月上旬に発表された1-3月期のGDP統計(2次速報値)では、実質成長率が2四半期ぶりにプラスに転じたものの、うるう年による日数増の影響を除けば、プラス幅はわずかに留まった。また、その後に発表された4月以降の経済指標も勢いを欠いている。日銀が算出を開始した消費活動指数(実質・季節調整値)は4月に前月比で0.8%上昇したが、3月の低下を補えていない。輸出は米国向けやアジア向けを中心に数量が前年を割り込んでいる。結果、4月の鉱工業生産(季節調整値)は前月比0.5%増と上昇したものの、一進一退の域を出ていない。また、金融市場では、米利上げ観測の鈍化や英国のEU離脱懸念などから、前回調査以降も円高進行に歯止めがかかっていない。

こうした実体経済や為替の状況を受けて、今回の短観でも企業の景況感悪化が予想される。特に、製造業ではさらなる円高進行を受けて、景況感の悪化が顕著になりそうだ。燃費不正問題の影響で軽自動車販売が大幅に減少していることも、景況感を下押しするだろう。

非製造業では、株価の下落もあって国内消費の低迷が長引いているうえ、円高や震災、中国の関税引き上げの影響などから、これまでの支えであったインバウンド(訪日外国人)需要の勢いに陰りが出ており、景況感の悪化に繋がりそうだ。また、ここ数ヵ月における原油価格の上昇も運輸業を中心として逆風に働く。
 
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が▲8、非製造業が1とそれぞれ前回比で4ポイント、3ポイント低下すると予想。大企業同様、中小企業でも製造業の景況感悪化が非製造業よりやや大き目になるとみている。
 
先行きの景況感についても、企業規模や製造業・非製造業を問わず悪化しそうだ。新興国経済の減速懸念や米利上げの不透明感、さらなる円高への警戒などが製造業の悲観に繋がるだろう。非製造業も、インバウンド需要を通じて海外経済や為替の影響を受けやすくなっているうえ、賃上げへの期待が減退しており、先行きに対する厳しい見方が示されそうだ。
 
なお、2015年度設備投資(全規模全産業)は、前年度比で7.7%増と、前回調査時点計画の8.0%増から小幅に下方修正されると予想。例年、6月調査(実績)では大企業を中心に若干下方修正されることが多く、今回も同様の動きが見込まれる。

16年度の設備投資計画(全規模全産業)は、15年度比で0.4%増と前回調査時点の4.8%減から上方修正されると予想。例年、3 月調査から6 月調査にかけては、計画が固まってくることに伴って、大きく上方修正される傾向が強いが、今回は例年に比べて上方修正が抑制的となり、水準としても6月調査としては5年ぶりの低水準に留まりそうだ。円高の進行などから製造業を中心に足下の収益が圧迫されており、先行きの不透明感が強いことが企業の様子見スタンスに繋がっていると考えられるためだ。なお、非製造業は人手不足感が極めて強く、省力化投資需要が一定程度期待されるため、製造業より上方修正幅が大きくなりそうだ。
(図表2)前回までの業況判断D.I./(図表3)生産・輸出・消費の動向/(図表4)円相場と原油価格/(図表5)設備投資予測表/(図表6)設備投資計画(全規模全産業)/(図表7)設備投資関連指標
(注目ポイント:設備投資計画)
今回の短観で最も注目されるのが16年度の設備投資計画だ。企業収益と経営環境が厳しさを増すなかで、どこまで上方修正が行われるか?が焦点となる。例年、3月調査から6月調査にかけての上方修正度合いが、その後のトレンドに大きく影響するため、今回の設備投資計画は、16年度の日本経済を占ううえで重要となる。

また、16年度の収益計画も注目点になる。前回調査時点では、売上高は横ばい、経常利益は2.2%の減益が見込まれていたが、今回は減収減益計画に修正される可能性が高い。どこまでの悪化が織り込まれるかが注目される。なお、収益計画に関しては、その前提となる16年度の想定為替レートがどのあたりに設定されるかと合わせて評価する必要がある。前回の想定為替レートは117.46円と足元から10円以上も円安水準に設定されていた。今回はさすがに円高方向に修正されるとみるが、織り込みがあまり進まない場合は、収益計画が今後さらに下方修正される余地が大きいということになる。
(日銀金融政策:追加緩和を促す材料に)
日銀は1月にマイナス金利政策の導入を決定したが、その後は物価の下振れや円高の進行にもかかわらず様子見姿勢を維持している。マイナス金利政策の影響見極めに時間を要するうえ、追加緩和余地が残り少なくなっていることから、矢継ぎ早の追加緩和を避けたとみられる。
 しかしながら、今回の短観で、足元・先行きの景況感の悪化と抑制的な設備計画が示されることになれば、日銀の早期追加緩和を促す材料になるだろう。
 
また、今回の短観で示される企業の価格設定行動や物価観も重要になる。
「販売価格判断D.I.」は足元と先行きの企業の販売価格の方向性を示すが、これまで3調査連続で低下している。実際に、最近では円高に伴う輸入物価下落や消費の低迷から、値下げの動きが目立ってきている。今回の短観では、足元・先行きの販売価格について、価格設定者である企業がどのように見ているのかが明らかとなる。
(図表8)企業の物価見通し また、翌営業日の4日に発表される「企業の物価見通し」も引き続き注目される。企業の物価見通しは、前回調査にかけて、3四半期連続で、全ての年限で下振れが確認されている。

今回発表される「企業の物価見通し」において、さらに下振れが認められるかがポイントになる。
 
販売価格判断D.I.の低下、企業の物価見通しの下振れが明確化すれば、今後の物価下振れリスクとなり、日銀の予想物価上昇率判断の下方修正にも繋がりかねない。これらも、今後の追加緩和の可能性を占う材料になる。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2016年06月21日「Weekly エコノミスト・レター」)

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