2016年06月21日

中国株市場の成り立ちと特殊性-日本株市場との違いに焦点を当てて

三尾 幸吉郎

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■要旨

世界第2位の経済大国となった中国は、世界における存在感を年々増している。15年夏や16年正月には中国の株価急落が世界的な株安を招くなど、保険・年金の資金を運用する上でも中国株市場から目が離せなくなってきた。本稿では、中国株市場の成り立ちとそれを背景とした特殊性を紹介する。

■目次

1――中国株市場の成り立ち
2――上海と深圳で大きく異なる業種構成
3――主な投資家と今後の注目点

1――中国株市場の成り立ち

1――中国株市場の成り立ち

(図表-1)中国株市場の沿革/(図表-2)主要な市場統計 中国の株式市場の歴史を振り返ると(図表-1)、90年には上海証券取引所が、91年には深圳証券取引所が相次いで営業を開始した。当時は外資の導入と厳格な外貨管理を両立するため、国内投資家向けのA株(人民元建て)と外国投資家向けのB株(外貨建て)の2つに市場が分けられた。そして、93年には香港証券取引所に中国本土企業(青島ビール)が上場してH株市場も始まった。

当時の中国は計画経済から市場経済への移行期にあり、計画経済下で国家が支配権を握っていた国有企業を、市場経済の象徴ともいえる株式市場の導入で一気に民営化すれば、計画経済を担ってきた国有企業の経営が混乱する恐れがあった。そこで、市場で取引される「流通株」を少なめにし、国家が保有する「国家株」や「法人株(国有企業などの持ち合い)」など「非流通株」を多くすることで支配権を維持することとなった。その結果、その後に「非流通株」を流通化させる過程では株価に下押し圧力が掛かることとなり、「非流通株改革」が加速した2000年代前半には株価が低迷した。

その後、04年には「中小企業板」を、09年には「創業板(ChiNext)」を、12年には店頭市場の「全国中小企業株式譲渡システム(新三板)」を新設した。また、10年には信用取引と先物取引を解禁するなど制度面も充実してきている。そして、中国の株式市場の時価総額は、日本を超えて米国に次ぐ世界第2位の規模となっている(図表-2)。

他方、株式市場の対外開放も進められている。02年には適格海外機関投資家(QFII)制度、11年には人民元適格海外機関投資家(RQFII)制度を創設するなど海外機関投資家に門戸を開いた。また、06年には適格国内機関投資家(QDII)制度を創設して国内機関投資家にも海外への門戸を開放している。さらに、14年には「滬港通(香港と上海証券取引所の相互接続)」も始まった。
 

2――上海と深圳で大きく異なる業種構成

2――上海と深圳で大きく異なる業種構成

上海総合の業種構成を見ると、第1位は金融の38.6%、第2位は資本財・サービスの18.6%などとなっている(図表-3)。東証株価指数(TOPIX)と比べると、上海総合の方が金融では21.1ポイント、エネルギーで8.5ポイント上回る一方、一般消費財・サービスでは▲13.4ポイント、情報技術では▲6.7ポイント下回る。従って、内外経済環境の変化に対する株価への影響も日中両市場では異なる。

また、同じ中国でも上海と深圳では大きく異なる(図表-3)。現在、中国では構造改革が進行中で、国有大手銀行やエネルギー関連などが向い風を受ける一方、今後の主役として期待される情報技術、ヘルスケア、消費関連などには追い風が吹いている。深圳総合の業種構成を見ると、追い風の吹く情報技術、ヘルスケア、消費関連が上海総合より多い一方、向い風を受ける金融やエネルギーは少ない。上海総合が07年の最高値の半分以下で低迷しているのに対し、深圳総合がそれを上回る水準で堅調に推移しているのは、こうした事情が背景にある(図表-4)。ここもとの両市場は同じような値動きをしているが、構造改革が再び進み始めれば、上海総合は冴えない動きをしても、深圳総合は堅調に推移すると思われる。従って、構造改革の先行指標としても深圳市場の今後の動きが注目される。
(図表-3)業種構成の日中比較(時価総額、2015年12月末現在)/(図表-4)上海総合と深セン総合の推移

3――主な投資家と今後の注目点

3――主な投資家と今後の注目点

上海証券取引所が公表した投資家に関する情報を見ると、保有構成では一般法人が61.4%で過半を占めており、個人が23.5%、日本の投資信託に相当する投資基金が3.8%、前述の滬港通が0.4%で、10.9%を占める“その他機関”には証券会社(自己勘定)、社保基金、保険資金、資産管理、QFIIが含まれる(図表-5)。一方、売買構成で見ると、個人が売買の主役となっており85.2%を占める。保有でトップの一般法人は3%に過ぎずバイ・アンド・ホールドの色彩が強い(図表-6)。
(図表-5)上海証券取引所の保有構成(2014年)/(図表-6)上海証券取引所の売買構成(2014年)
(図表-7)上海総合と信用買い残高 今後の注目点としては4つを挙げたい。第1に個人投資家の動向である。株価の行方を探る上では、売買の大半を占める個人投資家がカギを握るからである。図表-7に示したように14年後半には信用買い残の急拡大とともに株価が急騰した。そして、15年夏に株価が急落すると信用買い残も一気に減少している。ここもとの信用買い残はじりじりと減少しており、個人投資家が株価を押し上げるような勢いは見られない。第2に大株主の動向である。前述のとおり2000年代前半には非流通株改革が株価下落を招いた。現在は非流通株の9割超が売却可能となったため、非流通株改革が市場を揺るがす事態は想定しづらい。但し、国家が大株主として上場企業を支配している構造は健在であり、大株主が売却に動けば市場は大きく動揺する。16年正月に株価が急落した背景には、15年夏の株価急落時に6ヵ月間の時限措置として導入された“大株主などによる保有株の売却禁止措置”が期限を迎えたことがあった。6割を保有する一般法人が売却に動けば、その破壊力は計り知れないだけに、関連ニュースには細心の注意が必要である。第3に海外投資家の動向である。前述のとおり中国では株式市場の対外開放が進んでいる。しかし、14年時点の滬港通は保有で0.4%に過ぎず、QFIIとRQFIIの投資枠を合計しても約1兆元と、上海総合の時価総額の約4%に過ぎない。外国法人が3割前後を保有する日本株市場とは大きく異なる。中国では保有が少ないだけに株価下落の主因とはなりにくいものの、対外開放の進展や国際的に利用される株価指数への採用を契機に株価が上昇することは有り得る。第4に養老保険基金(年金基金)の動向である。中国の年金基金の運用対象は長らく国債と銀行預金に限られていた。ところが、15年8月に中国政府が「基本養老保険基金投資管理弁法」を発表し、最大で6000億元(日本円換算で約10兆円)の資金が株式市場に流入する見込みである。早ければ8月にも動きだすと見られるだけに、今後の動きに注目が集まる。
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(2016年06月21日「保険・年金フォーカス」)

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