2016年06月21日

マイナス金利下におけるRMBS投資の可能性

千田 英明

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7――ネガティブコンベキシティーについて

RMBSには金利が低下するとデュレーションが短くなり、金利が上昇するとデュレーションが長くなる(短くならない)投資家にとって不都合な性質(ネガティブコンベキシティー)があったが、この効果はどれぐらい収支に影響するものであろうか。

通常の債券であれば、金利が分かれば価格は正確に計算することができる。しかし、RMBSの場合、先に述べた通り、金利と価格の関係がモデルに依存してしまう。そのため、計算された価格が実現するかどうか分からない。そこで、過去の金利変動局面で、RMBSの価格が実際にどのように変化したのかを見てみる。

図表5は、縦軸をRMBS価格、横軸を10年国債金利としたグラフである。RMBSの金利(複利)はモデルに依存してしまうため、実際にマーケットで観測された10年国債金利に対するRMBS価格の変動率を計測した。債券の金利変動に対する価格変動率はデュレーション(及び残存期間)に依存する部分が大きい。デュレーションは時間の経過と共に短くなるので、その影響を排除するため、できるだけ金利変動が大きかった期間の数値を採用した。住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫含む)のRMBSが最初に発行された2001年3月以降で最も金利(10年国債)が大きく変動したのはVarショックの時で、2003年6月12日から9月2日までの82日間で1.19%上昇している。その間のRMBS価格と10年国債金利の関係をグラフにして2次関数で近似曲線を引いた。

図表6は、2003年6月12日時点で発行されていたRMBS10銘柄の2次関数の近似式である。x2の前につく係数の符号がプラスであれば下に凸の曲線(ポジティブコンベキシティー)、マイナスであれば上に凸の曲線(ネガティブコンベキシティー)を意味する。また、係数の数値が大きければ大きいほどその曲がり方が大きく、コンベキシティーの影響が大きいということになる。

結果を見ると、発行直後で残存期間の長い5銘柄(第6~10回債)はポジティブコンベキシティー、それより古く残存期間の短い5銘柄(第1~5回債)はネガティブコンベキシティーとなっている。また、ネガティブコンベキシティーで最も影響(曲がり方)が大きいものは第1回債で、コンベキシティーがパフォーマンスに与える影響(金利と価格の関係が曲線ではなく、直線で推移すると仮定した場合との比較)はマイナス0.84%程度であった。金利が短期間で1.19%上昇したため、価格は7.97%下落したが、そのうち0.84%がネガティブコンベキシティーの影響であったといえる。
図表5:Varショック時(2003/6/12~2003/9/2)のRMBS価格と金利の関係 更に、通常の債券であれば得られたはずのポジティブコンベキシティーの影響がRMBSでは得られない影響も考慮する必要がある。第1回債のxの前につく係数がマイナス6.0659となっているが、これはグラフの傾き(金利変動に対する価格変動率)を示し、デュレーションに近い値と考えられる。そのため、デュレーション約6年の通常債券のポジティブコンベキシティーがパフォーマンスに与える影響を同様に計算するとプラス0.22%であった。先のネガティブコンベキシティーの影響と合わせると1.06%となる。つまり、Varショック時にRMBSが被った損失は7.79%であるが、通常の債券であれば6.73%であったと推定され、その差は1.06%ということになる。

しかし、これはVarショック時の、最も影響が大きかったケースである。通常の債券と同様にポジティブコンベキシティーのRMBSもあり、ネガティブコンベキシティーの影響をこのように過大に見積もる必要があるかどうかは、検討しなければならない。

RMBSがネガティブコンベキシティーになったりポジティブコンベキシティーになったりする理由は次の3つが考えられる。第1の理由は、発行後間もないRMBSは期限前返済率が低いことが挙げられる。RMBSのネガティブコンベキシティーが機能するためには、金利変動に応じて期限前返済率が変化する必要があるが、発行直後のRMBSは期限前返済がほとんど発生せず、金利変動による影響を受けにくい。そのため、発行直後のRMBSは、通常の債券に近い価格変動特性を有している。Varショック以外の金利上昇局面についても、RMBSの金利変動と価格変動の関係を見てみたが、概ね同様の傾向があることが確認できる。

第2に、金利変動により期限前返済率が変化するには、タイムラグがあることが挙げられる。住宅ローン債務者は、金利が低下してから借り換えの申し込みをするまでに、一定の時間を要する。また借り換えの申し込みをしても、実際に借り換え手続きが進むには時間がかかる。当社の試算では、金利変動と期限前返済率の変動には、概ね3ヶ月のタイムラグがあった。そのため、金利が短期間で変動した場合、その影響がすぐに期限前返済率に反映されず、価格への影響も限定されている可能性がある。例えば、異次元金融緩和導入直後の金利上昇局面(2013年4月4日から5月29日までの55日間で0.5%上昇)などは、金利上昇スピードがVarショックほど速くなかった。そのため、直前の金利低下による期限前返済増加の影響を受けやすかったことや、時間経過によるデュレーション短期化効果の影響なども加わり、多くの銘柄がポジティブコンベキシティーの形状になっている。

第3に、金利水準に関係なく、住宅ローンを保有し続ける人たちがいることである。RMBSはある程度年数が経過して期限前返済が続くと、金利に反応して期限前返済する人たちがいなくなり、金利に関係なく住宅ローンを保有し続ける人たちのみが残ると言われている。つまり、金利が変動しても期限前返済が発生しなくなる。これはバーンアウト効果と言われ、期限前返済がほとんど発生しなくなるので、通常の債券に近い価格変動をするようになると考えられる。そのため、これもポジティブコンベキシティーの形状になる要因である。

このように、RMBSに不利と言われているネガティブコンベキシティーの影響は、必ず現れるものではないため、リスクを過剰に見積もることなく、投資判断することが必要になる。

8――おわりに

8――おわりに

RMBSには複雑なキャッシュ・フローとリスクを伴うため、慎重に投資判断しなければならないが、マイナス金利下でも一定のプラス収益を確保できる可能性があり、投資を検討する価値は高いと考えられる。信用リスクを心配する必要はほとんどなく、特に発行直後の単価100円近辺で推移しているRMBSは、長期保有を前提にするならば、マイナス金利下においても安全にプラス利回りを確保できる可能性は高い。オーバーパーのRMBSはモデルにより計算された指標を参考に投資判断するしかない。その際は、モデルにより計算結果が大きく異なるため、モデルの想定が現在の相場環境に近いものかどうかなどを吟味し、充分なスプレッドが確保できていることを確認しながら投資しなければならない。一方で、RMBSに不利と言われているネガティブコンベキシティーの影響は現れる場合と現れない場合があり、リスクを過剰に見積もることなく投資判断することも必要になる。
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(2016年06月21日「基礎研レポート」)

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