2016年06月16日

訪日外国人旅行客数は増加するのか~「2020年に4,000万人」達成に高い壁、新たなインバウンド拡大策が必要

岡 圭佑

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3――「2020年に4,000万人」達成の壁は高い、新たなインバウンド拡大策が必要

図表5 訪日旅客数の将来推計 アジア諸国を中心に高成長が期待されるなか、政府は2020年に訪日旅客数を2,000万人とする従来の目標から、2倍となる4,000万人へ増やすことを決定している。そこで、政府目標の実現可能性を検証するため、前項で導出した推計式を用いて2020年の訪日旅客数を推計した(図表5)。まず、ベースシナリオとして、各国の成長率はIMF見通しを用い、為替は現状から横ばいとした。このベースシナリオでは、2020年の訪日旅客数は2,540万人と政府目標に大きく届かない推計結果となった。そこで、為替水準が現状から30%円安(シナリオ①)注1、実質GDPがIMFの見通しから2%上方修正(シナリオ②)注2、①+②(シナリオ③)、を想定した場合の訪日旅客数をシミュレーションした。なお、対象国の実質GDPにはIMFの見通しを用いたが、為替レートが大きく変動すれば実質GDPも影響を受けるため、あくまで機械的な試算であることに留意する必要がある。

シミュレーション結果によると、シナリオ①~③のいずれにおいても政府目標の4,000万人を下回る計算になる。大幅な円安、成長率上振れを想定したシナリオ③では、中華圏からの旅客数が年々15%と大変速いペースで増加する推計結果となったが、それでも全体では3,617万人と政府目標を達成するまでには至らなかった。また、シナリオ②、③では中国が2020年にかけて8%成長を続けることを前提としており、減速が懸念される中国経済が持ち直したとしても、その押し上げ効果は限定的にとどまるとみられる。

このように、2020年にかけて現状の水準から大幅な円安や成長率の上振れが実現したとしても、政府目標である「2020年に4,000万人」の実現は困難が予想される。もっとも、中国国家統計局によれば中国本土からの海外旅行者は年間1億人を超えるとされ、このうち訪日旅客数は5%程度に過ぎず拡大の余地は十分にあると言える。さらに訪日旅客数の増加を促し、2020年に4,000万人といった政府目標を達成するためには円安に頼るだけでなく、従来の施策(訪日ビザ緩和、免税制度の拡充等)に加え、新たなインバウンド拡大策が必要となろう。

5月13日に観光庁が公表した「平成28年版観光白書」によると、2016年は一部の観光地だけでなく、国内のあらゆる地域で訪日旅客受け入れのための環境整備を進めるとされている。いっそうのインバウンド拡大を実現する上で、魅力的な観光資源の掘り起こしや対外的な発信を通じた地方への誘致が鍵となるだろう。
 

注1 2020年10-12月期の対円為替レートが2016年1-3月期の水準から30%円安となることを想定。2016年4-6月期から2020年7-9月期の見通しは線形補完により推計。
注2 2016年から2020年の実質GDP成長率が各国ともIMF見通しから各年2%上振れることを想定。
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岡 圭佑

研究・専門分野

(2016年06月16日「基礎研レター」)

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