2016年06月15日

韓国における老人長期療養保険制度の現状や今後の課題―日本へのインプリケーションは?―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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老人長期療養保険制度に対する認知度が広がることにより2008年に34万人であった申請者数は2015年には77.4万人に2倍以上にも増加した。また、同期間における認定者数も21.4万人から45.4万人に増加している。45.4万人は高齢者人口の6.8%に該当する数値であり、日本の18.2%に比べるとかなり低い水準である。しかしながら、今後、急速に人口高齢化が進むことにより、申請者数や認定者数は早いスピードで増加することが予想されており、将来に対する緻密な対策が要求されている(図表10)。
図表10申請者、認定者、認定者の対高齢者比の推移
図表11は、2015年8月現在の認定者数の等級別内訳を見たものであり、3等級の認定者が全体の38.6%(17.5万人)で最も多く、次に4等級(15.4万人、34.0%)、2等級(7.1万人、15.6%)、1等級(3.7万人、8.2%)、5等級(1.7万人、3.7%)の順になっている。
図表11老人長期療養保険制度認定者数の等級別内訳
老人長期療養保険制度認定者の男女別割合は女性が72.7%で男性の27.3%を大きく上回っている。そして、年齢階層別には65歳未満の割合は5.8%に過ぎず、65歳以上が94.2%で認定者の大部分を占めており、さらに年齢が上がるほど認定者の割合が高くなった(図表12)。
図表12老人長期療養保険制度認定者数の男女・年齢階級別内訳
3老人長期療養保険制度の管理・運営体系及び在宅・施設サービスの概要
図表13は、老人長期療養保険制度の管理・運営体系を示しており、保健福祉部や地方自治団体、国民健康保険公団、被保険者、長期療養サービス事業者の間に密接な関係があることが分かる。つまり、制度の主な指導及ぶ監督は保健福祉部や地方自治団体が担当する代わりに、等級判定やサービスモニタリングの実施、資格管理・保険料の賦課・徴収、等級判定委員会の運営という業務は国民健康保険公団が担当している。また、被保険者は保険料を納める義務があり、老人長期療養保険制度からのサービスの利用を希望する時には等級判定を申込み、認定されたらサービスに対する利用者負担金を支払うことによりサービスを利用することができる。長期療養サービス事業者が提供サービスは在宅サービスと施設サービスがあり、在宅サービスとしては、訪問療養、訪問入浴、訪問看護、昼・夜間保護、短期保護、福祉用具の購入・貸与などのサービスが提供され、施設サービスは老人療養施設や老人療養共同生活家庭(グループホーム)で利用することができる。

施設サービスは、老人長期療養保険制度が施行される以前には、老人療養施設、老人専門療養施設、実費老人療養施設、有料老人専門療養施設、有料老人療養施設などで提供されていたが、管理をより効率的にするために老人長期療養保険の施行直前である2008年4月に「老人療養施設」という一つの施設に統合し、運営している。そして、施設の不足などによりサービスが利用できないことを防ぐ目的で、「老人療養施設」より設備及び人材配置に関する基準を少し緩和した「老人療養施設」の縮小版とも言える「老人療養共同生活家庭」を新設した。両施設の設備及び人材配置に関する基準は図表14の通りである。

施設サービスを提供している機関は、2008年の1,700ヶ所から2014年には4,871ヶ所に2.87倍にも増加した。また、在宅サービスの提供機関も同期間に9,961機関から20,747ヶ所に2.16倍にも増えている(図表15)。
図表13老人長期療養保険制度の管理・運営体系/図表14「老人療養施設」や「老人療養共同生活家庭」の設備及び人材配置に関する基準
図表15 老人長期療養保険制度のサービスを実施する機関の数の推移
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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