2016年06月10日

【東南アジア経済】ASEANの製造業生産(6月号)~高成長の越比と他4カ国で二極化の展開に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(図表1)ASEAN6ヵ国製造業生産指数の伸び率 ASEAN主要6カ国の製造業生産指数の伸び率(前年同月比)を見ると、まず中国からの生産拠点移転の動きが続くベトナムと選挙関連支出を受けて年初に大きく上昇したフィリピンは高い伸びを維持した。また景気刺激策が奏効したタイとシンガポールが年明けから若干持ち直す一方、資源安を背景に国内需要が乏しいインドネシア1とマレーシアがやや鈍化しており、これら4カ国に明確な差異が見られなくなってきた(図表1)。結果、高成長のベトナム・フィリピンと伸び悩むシンガポール・マレーシア・タイ・インドネシアといった二極化の構図が見えてきている。
(図表2)タイ製造業生産指数(業種別)の伸び率 タイの16年4月の製造業生産指数は前年同月比1.5%増とプラスの伸びを維持したものの、前月の2.2%増から低下した(図表2)。昨年から輸出の低迷と干ばつによる内需回復の遅れを受けて改善傾向は見られず、製造業の生産動向は一進一退の状況が続いている。

業種別に見ると、全21業種中11業種が前年同月比で上昇、10業種が低下した。4月は自動車が同9.1%増(前月:同7.3%増)と新型のピックアップトラックの需要拡大を受けて一段と上昇したほか、石油製品は同5.9%増(前月:同2.5%減)と、価格下落による国内需要の増加やプラントのメンテナンス終了を受けて3ヵ月ぶりのプラスに転じた。しかし、海外需要の減速を受けて織物(同13.8%減)やアパレル(同28.2%減)、ハードディスクを含むオフィス用機器(同9.9%減)などは大幅な減少が続いているほか、化学製品は同0.9%増(前月:13.4%増)、ラジオ・テレビ・通信機器は同3.3%増(前月:4.3%増)とそれぞれ低下した。

4月の出荷指数は同2.7%増(前月:同2.6%増)と緩やかな上昇が続く一方、在庫指数は同0.7%減(前月:同2.1%増)と低下し、出荷・在庫バランスの改善が見られた。また4月の設備稼働率は58.4%と、ソンクラーン休暇の影響で前月の72.8%から大きく低下した。
(図表3)マレーシア製造業生産指数(業種別)の伸び率 マレーシアの16年4月の鉱工業生産指数は前年同月比3.0%増と、前月の同2.8%から小幅に上昇した。

業種別に見ると、全体の7割弱を占める製造業が同3.3%増(前月:同4.5%増)と鈍化する一方、全体の3割弱を占める鉱業は同0.6増(前月:同2.5%減)と上昇した。電力は同9.4%増(前月:同7.7%増)と前月に続いて高めの伸びを維持した。鉱業は前月から上昇したものの、依然として停滞の域を脱しておらず、通貨安によって輸出競争力が向上した製造業を中心に底堅い伸びが続いている。

製造業の内訳を見ると、全23業種中19業種が前年同月比で上昇、4業種が低下した。主力のコンピュータ・電子・光学製品は同8.8%増(前月:5.9%増)、石油製品は同5.1%増(前月:2.3%増)、ゴム・プラスチック製品は同4.9%増(前月:3.6%元)と、それぞれ上昇した(図表3)。一方、食品が同8.9%減(前月:7.3%増)と大きく減少したほか、化学製品が同4.1%増(前月:同4.3%増)と小幅に低下した。
(図表4)シンガポール製造業生産指数(分野別)の伸び率 シンガポールの16年4月の製造業生産指数は前年同月比2.9%増と、旧正月の影響で2月こそマイナスとなったものの、主力の電子製品とバイオ医療が好調で年明けから増加傾向にある(図表4)。

分野別に見ると、主力のバイオ医療は同14.9%増(前月:同24.4%増)と医薬品原料や医療機器需要が堅調であり、電子製品は同10.9%増(前月:同5.8%増)と半導体需要の拡大で一段と上昇した。一方、化学は同4.3%減(前月:同4.9%減)と石油および石油化学工場のメンテナンスによる操業停止による生産減を受けて低迷した。また輸送エンジニアリングは同12.0%減(前月:同22.9%減)と航空機整備の増加、精密エンジニアリングは同1.9%減(前月:同6.1%減)と半導体関連の機械・システムの生産増加によってそれぞれマイナス幅が縮小した。
(図表5)フィリピン工業生産量指数(業種別)の伸び率 フィリピンの16年4月の工業生産量指数は前年同月比10.5%増と、前月の同8.9%増から上昇し、高めの伸びが続いている(図表5)。

業種別に見ると、全20業種中13業種が前年同月比で上昇、7業種が低下した。主要産業では、石油製品が同37.0%減(前月:同31.0%減)と大幅な減少傾向が続いているほか、電気機械が同4.5%増(前月:同15.6%増)と輸出伸び悩みによって鈍化した。一方、低インフレによる生産コストの安さや昨年半ばから続く公共投資の拡大、そして年明けからの選挙関連支出を受けて国内の消費需要は旺盛であり、食品加工は同27.1%増(前月:同17.0%増)、機械・設備は同43.7%増(前月:同30.5%増)、出版・印刷は同33.5%増(前月:20.1%増)と、それぞれ二桁増の高い伸びが続いているほか、紙製品(同7.8%増)やゴム・プラスチック製品(同7.7%増)も高めの伸びとなった。

また4月の設備稼働率は83.4%となり、前月から横ばいとなった。
(図表6)ベトナム鉱工業生産指数(業種別)の伸び率 ベトナムの16年4月の鉱工業生産指数は前年同月比7.9%増と、前月の同6.2%増から上昇した(図表6)。依然として高水準を維持しているが、上昇ペースは昨年7月をピークにやや鈍化している。業種別に見ると、製造業が同12.5%増、電気ガス業が同11.5%増、水供給業が同8.5%増と好調を維持しているものの、鉱業が同8.1%減と5ヵ月連続のマイナスとなって全体の重石となっている。

製造業の内訳を見ると、食品加工(同7.3%増)が製造業平均を下回る一方、主力のコンピュータ・電子・光学機器(同36.6%増)をはじめ織物(同11.4%増)、バイク(同16.9%増)など外国企業の投資が伸びている分野は堅調な伸びを示している。

製造業の出荷指数は同8.9%増と3ヵ月ぶりに一桁台まで鈍化したものの、在庫指数も同8.7%増と小幅に低下した結果、出荷・在庫バランス(出荷前年比-在庫前年比)は0.2%ポイントと小幅のプラスを維持した。
 
1 インドネシアの製造業生産の業種別指数は四半期毎に開示されるため、国別の記述は割愛する。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2016年06月10日「経済・金融フラッシュ」)

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