2016年06月10日

【東南アジア経済】ASEANの輸出動向(6月号)~輸出は持ち直しの動きが続かず、一進一退

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(図表1)ASEAN6ヵ国輸出の伸び率 ASEAN主要6カ国の輸出(通関ベース)の伸び率(前年同月比)は、原油価格の緩やかな上昇など資源安要因の剥落や中華圏の春節の影響によって2月に大きく上昇したが、その後は顕著な持ち直しの動きは見えていない(図表1)。タイは2-3月に一時的な要因によって持ち直したものの、4月は同8.0%減と再びマイナスに転じた。シンガポールとマレーシア、インドネシア、フィリピンの4カ国は前月から上昇したものの、冴えない展開が続いている。依然として中国をはじめ世界経済は低調で、輸出の底打ちには暫く時間が掛かりそうだ。
(図表2)タイ輸出の伸び率(品目別) タイの16年4月の輸出額は前年同月比8.0%減と、前月の同1.3%増から低下して3ヵ月ぶりのマイナスとなった(図表2)。主に2-3月に一時的な要因で増加した金・宝飾品や軍需用品(多国間共同軍事訓練の影響)が鈍化したことが影響したと見られる。

品目別に見ると、主要工業製品は同7.8%減(前月:同3.4%増)と低下した。家電製品(同4.2%増)が前月から上昇したものの、電子製品(同7.8%減)や自動車・部品(同8.0%減)、機械・装置(同12.7%減)、宝飾品(同13.7%減)など低下した品目が多かった。また鉱業・燃料は同40.8%減(前月:同41.3%減)と引き続き大幅減少となった。農産品・加工品は同0.6%減(前月:同1.0%増)と、価格が下落したコメや砂糖を中心に低下した。
(図表3)マレーシア輸出の伸び率(品目別) マレーシアの16年4月の輸出額は前年同月比1.6%増(ドルベースでは同5.3%減)と、前月の同0.2%増から上昇し、3ヵ月連続のプラスとなった(図表3)。また輸出数量指数は同4.8%増と、前月の同5.7%増から低下した。

品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器が同4.2%増と、電気・電子機器を中心に前月の同2.7%増から上昇した。またパーム油などの動植物性油脂は同8.7%増(前月:6.9%増)と増加傾向を維持した。さらに原油や天然ガスなどの鉱物性燃料は同1.0%減(前月:同23.0%減)と5ヵ月ぶりにマイナス幅が一桁台まで縮小した。原油・石油製品は同64.0%増(前月:同2.3%増)と上昇した一方、価格低迷が続く天然ガスは同32.4%減(前月:43.7%減)と引き続き大幅なマイナスとなった。
(図表4)インドネシア輸出の伸び率(品目別) インドネシアの16年4月の輸出額は前年同月比12.6%減と、前月の同13.4%減から小幅に上昇したものの、19ヵ月連続のマイナスとなった(図表4)。また輸出数量は同12.3%減と、前月の同10.7%減から低下した。

品目別に見ると、輸出全体のそれぞれ1割強を占める石油ガスが同39.2%減、鉱業製品が同27.2%減と大幅な減少が続いており、資源価格の低迷が輸出の重石となっていることが分かる。また製造品は同5.8%減(前月:同4.8%減)と動植物性油脂や電気機械を中心に低下した。
(図表5)ベトナム輸出の伸び率(品目別) ベトナムの16年4月の輸出額は前年同月比7.5%増と、高水準の前月(同13.3%増)から鈍化したものの、製造業を中心に堅調に増加している(図表5)。

品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同14.2%増と4ヵ月連続の二桁増となったものの、前月の同42.3%増からは低下した。また織物・衣類が6.8%増(前月:同14.4%増)、履物が同3.7%減(前月:同14.8%増)についても、それぞれ低下した。一方、コンピュータ・電子部品は同13.0%増と、前月の同5.6%増から上昇した。

資本別に見ると、地場企業が同2.0%増(前月:同1.8%増)と小幅に上昇したものの、輸出全体の7割を占める外資系企業が同5.5%増(前月:11.5%増)と鈍化した。
(図表6)シンガポール輸出の伸び率(品目別) シンガポールの16年4月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比7.9%減(米ドルベースでは同8.0%減)となり、前月の同15.7%減からマイナス幅が縮小したが、2ヵ月連続のマイナスとなった(図表6)。

品目別に見ると、輸出(石油と再輸出除く)全体の約3割を占める電子製品は同7.4%減(前月:同9.1%減)とマイナス幅が縮小した。通信機器(同36.1%増)の大幅な増加傾向は続いたものの、主力のIC(同3.4%減)やPC(同21.6%減)、PC部品(同23.4%減)、ダイオード・トランジスタ(同1.6%減)など幅広い品目が低迷する傾向に変化は見られない。また同じく全体の約3割を占める化学製品は同2.7%減(前月:同23.1%減)と、医薬品が持ち直してマイナス幅が縮小した。さらにその他製品も同11.9%減(前月:同14.5%減)と、前月からマイナス幅が縮小した。
(図表7)フィリピン 輸出の伸び率(品目別) フィリピンの16年4月の輸出額は前年同月比4.1%減となり、5ヵ月ぶりにマイナス幅が縮小した(図表7)。

品目別に見ると、5月は電子製品が伸び悩み、一次産品が低迷するなか、その他の製造品が持ち直したことが分かる。まず輸出全体の約5割を占める電子製品が同1.9%増(前月:同1.0%増)と上昇した。またその他電子機器(同8.7%増)、アパレル(同39.1%減)、化学(同9.0%減)、機械・輸送用機器(同2.7%増)などが前月からマイナス幅の縮小やプラスに転化するなど、その他製造品は12ヵ月ぶりに増加した。一方、農産品(同11.1%減)のマイナス幅は縮小したものの、鉱業製品が同85.5%減(前月:36.7%減)と一段と低下したことから一次産品は引き続き輸出の重石となっている。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年06月10日「経済・金融フラッシュ」)

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