2016年06月09日

米国経済の見通し-4-6月期は成長再加速見通しも、労働市場回復の持続可能性を見極める必要

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)1-3月期の成長率は前期から低下。個人消費が期待外れ
米国の1-3月期実質GDP成長率(以下、成長率)は前期比年率+0.8%と、10-12月期の+1.4%から低下した(図表1、図表5)。需要項目別にみると、住宅投資が+17.1%(前期:+10.1%)と2桁伸びた前期からさらに加速するなど好調を維持したものの、民間設備投資が▲6.2%(前期:▲2.1%)と落ち込み、2期連続でマイナスとなったほか、純輸出の成長率寄与度も▲0.21%ポイント(前期:▲0.14%ポイント)と前期からマイナス幅が拡大した。米国では原油安やドル高に伴い設備投資や外需が成長を押下げる状況が持続している。さらに、在庫投資の成長率寄与度も▲0.20%ポイント(前期:▲0.22%ポイント)と、前期からマイナス幅は縮小したものの、3期連続でマイナス寄与となり成長を押下げた。もっとも、当期の成長率が冴えない要因は、個人消費が僅か前期比年率+1.9%(前期:+2.4%)に留まったことが大きい。
(図表2)個人消費支出(主要項目別)および可処分所得 個人消費を仔細にみると、伸び(前期比年率)は、15年4-6月期の+3.6%をピークに3期連続の鈍化となっており、同時期の実質可処分所得を大幅に下回っている(図表2)。とくに、1-3月期は可処分所得の伸びが+4.0%に加速したことから、消費との乖離が顕著となった。

個人消費の内訳をみると、非耐久消費財が+1.3%(前期:+0.6%)と前期から小幅ながら加速したほか、サービス消費も+2.6%(前期:+2.8%)と前期並みを維持した。一方、耐久消費財は▲1.2%(前期:+3.8%)と前期からマイナスに転じた。とくに、自動車関連は▲11.5%(前期:▲5.7%)と、マイナス幅が2桁に拡大し、消費の足を引っ張った。実際、新車販売台数1は15年10月に年率1,820万台まで増加したものの、16年入り後は概ね1,700万台前半での販売に留まっており、自動車販売の勢いに陰りがみられる。5月レポート2でも指摘したが、自動車販売は、株式市場など資本市場が不安定な動きとなったことを受けて、消費マインドの改善が頭打ちとなった影響を受けた可能性がある。
(図表3)金融環境指数と社債スプレッド 一方、16年入り後に大幅に下落した資本市場は、2月中旬以降に安定する動きもみられる。高金利社債スプレッド(10年)は、2月に一時金融危機以来となる8%超に拡大したが、足元では5%台後半まで縮小しており、年初の水準を下回っている(図表3)。さらに、短長期債券市場や株式市場、銀行システムも含めた包括的な金融市場の動きを示す金融環境指数も、2月中旬以降は金融環境が緩和していることを示している。このような動きを反映して、FRBは4月FOMC会合の声明文で金融情勢が米経済に対するリスク要因であるとの表現を削除した。このように、資本市場の不安定な動きが実体経済に与える影響は一頃に比べて後退していると言えよう。
 
1 AUTODATA集計、季節調整値、年率換算。
2 Weeklyエコノミスト・レター(2016年5月13日)「米国個人消費の動向-消費を取り巻く環境は良好も、所得対比で伸び悩み」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=52900?site=nli

 
(経済見通し)成長率は16年+1.9%、17年+2.4%を予想
米国の成長率は、1-3月期が失望的な内容となったものの、4-6月期は成長が再び加速しそうだ。1-3月期に冴えなかった個人消費支出は、4月の名目値が前月比+1.0%(前月:横這い)と前月からの大幅な回復を示しており、4-6月の個人消費が前期比年率3%超に加速することを示唆している。さらに、これまで成長を押下げる要因となっていた原油安やドル高も一頃に比べて緩和されてきている。とくに、原油価格は6月8日現在50ドルを少し上回る水準まで上昇しており、原油安を背景とした資源関連の設備投資についてマイナス幅縮小が見込まれる。

7-9月期以降についても、資本市場の安定が持続するとの前提で消費主導の経済成長が持続すると予想する。6月3日に発表された5月雇用統計が市場予想を大幅に上回る減速を示したことから、労働市場の回復持続性に対する疑問が生じている。当研究所では後述するように労働市場は、回復ペースが鈍化する可能性はあるものの、17年にかけて回復が持続すると予想しており、消費主導の成長は持続すると予想している。さらに、住宅市場についても雇用不安の後退に加え、過去に比べて金利が低い状況が続くことから、伸びは鈍化するものの回復基調は持続しよう。

一方、民間設備投資については、当研究所では、原油価格が7-9月期に40ドル台前半まで一時的に下落した後、17年末にかけて緩やかな上昇を見込んでいるため、資源関連の設備投資削減が一服することもあって、民間設備投資はプラスに転じると予想する。一方、外需を押下げているとみられるドル高は足元で緩和されているものの、米金利先高観測から今後も緩やかなドル高が見込まれる(図表5)ため、外需は成長を押下げる方向に働こう。最後に政府支出については次期大統領の政策に一部影響を受けるものの、17年にかけて成長に中立となろう。

以上を考慮すると、4-6月期以降の成長率は2%台半ばから2%台前半で底堅く推移すると予想する。この結果、16年の成長率は前年比+1.9%(前年:+2.4%)と1-3月期成長率の低迷から前年を下回るものの、17年は+2.4%と15年と同水準に再加速しよう。
 
物価は、原油価格が緩やかに上昇することから、エネルギー価格下落が物価を押し下げる状況が緩和されるため、総合指数は緩やかな上昇を見込む。
 
金融政策は、16年は7月と12月の年2回(合計0.50%)の利上げを予想している。労働市場の回復持続性が注目される中、FRBは7月発表の6月雇用統計で労働市場の回復持続性を判断した後、7月下旬のFOMC会合で追加利上げに踏み切ると予想している。
 
最後に長期金利は、資本市場の安定が続く前提で、物価の緩やかな上昇や政策金利の引き上げ継続などを背景に、緩やかに上昇すると見込まれる。もっとも、物価上昇圧力は限定的であることから、金利の上昇幅は限定的となろう。
 
上記見通しに対するリスク要因としては、原油相場や米資本市場が再び大幅な下落に転じ不安定化することや、11月の大統領選挙に伴う国内政治リスクが挙げられる。原油相場や米資本市場は安定を取り戻しているものの、中国をはじめとする新興国経済に対する減速懸念の再燃や、6月下旬に予定されている国民投票でBREXITが決定した場合には、市場のリスク回避姿勢が強まり資本市場が不安定化するリスクがある。
 
(図表4)クリントンおよびトランプ候補の支持率 また、国内政治リスクでは、民主、共和両党の大統領候補を選ぶための予備選挙が行われており、共和党はトランプ氏、民主党はクリントン氏が指名されることがほぼ確定した。このため、11月の本選挙に向けてトランプ氏とクリントン氏の争いが激化するとみられる。両者の組み合わせでどちらに投票するかを問う世論調査結果は、1~2ヵ月前のクリントン氏断然有利の状況から、クリントン氏の優位性は後退しており、大統領選の結果は予想が一層難しくなっている(図表4)。

米大統領選挙結果の米経済への影響は、クリントン氏が当選する場合には基本的な政策路線がオバマ大統領と重なることから、大きな影響がないとみられる。一方、トランプ氏が当選する場合には、現政権からの大幅な政策転換が見込まれることに加え、同氏の政策に関する発言が頻繁に変更されることから、政策の予見可能性の低下が見込まれる。このため、家計・企業の消費や投資行動が慎重になることで米経済に対する悪影響が懸念される。
(図表5)米国経済の見通し
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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