2016年06月09日

景気ウォッチャー調査(16年5月)~熊本地震の影響は残存、景況感は停滞が続く

岡 圭佑

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景気ウォッチャー調査 景気の現状判断(方向性)/景気の先行き判断(方向性)一覧

1.景気の現状判断DI:2ヵ月連続の悪化、停滞局面を脱せず

6月8日に内閣府から公表された16年5月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DIは43.0(前月:43.5)と2ヵ月連続の悪化となった。参考系列として公表されている季節調整値は40.6と前月から+0.6ポイントとなったものの、改善は小幅にとどまるなど停滞局面を依然として脱していない。

5月調査では中国の景気減速や株安・円高、熊本地震によるマインド面の下押しがみられる一方で、引き続きインバウンド需要が景況感を下支えした。また、調査期間は5月25日から月末であるが、6月1日に安倍首相が表明した消費増税延期は事前に織り込まれる形で、景況感にプラスマイナス両面の影響を与えた模様である。家計動向関連では消費増への期待などから小売関連の押し上げ要因として働いた一方で、駆け込み需要の押し上げ効果が無くなるとして住宅関連の下押し要因となった。企業動向関連では円高や新興国経済の減速が逆風となり製造業を中心に弱さがみられる。

コメントをみると、中国の景気減速関連や円高・株安関連のものをはじめ、景況感の下押し材料は多く存在する(最終頁の図参照)。円高などによる輸入物価下落を根拠にデフレ懸念を警戒する声も小売など一部の業種で聞かれた一方で、マイナス金利政策の効果に対して懐疑的な見方は弱まっている。

2.熊本地震の影響は残存

現状判断DIの内訳をみると、雇用関連(前月差0.4ポイント)が前月から改善する一方で、家計動向関連(同▲0.3ポイント)、企業動向関連(同▲1.5ポイント)は悪化した。家計動向関連では、飲食関連(前月差0.8ポイント)、サービス関連(同0.1ポイント)が前月から改善したものの、小売関連(同▲0.2ポイント)に加え住宅関連(同▲4.1ポイント)が大幅に悪化したため、全体では前月の水準を下回った。
景気の現状判断DI(分野別、原数値)/小売関連の要因分解 コメントをみると、小売関連では、改善要因として「気温が前年より高いため、夏物商材の動きが5月中ごろから好調である」(南関東・家電量販店)といったように、夏物商材の売れ行きが好調であることを指摘するコメントや、「消費税増税が再延期となりそうで、ムードが良くなっている」(東海・商店街)など消費増税先送りによるマインド改善を指摘する声も一部で聞かれた。一方、「熊本地震の影響で、一部で旅行の行き先が振り替わったほか、キャンセルも発生したため、ゴールデンウィークの落ち込みは仕方がない」(近畿・旅行代理店)や「衣料品は継続的に苦戦していることに加え、年明け以降の円高・株安などの影響から、高額品の動きがやや鈍化している」(四国・百貨店)のように、熊本地震の影響や円高・株安による消費マインドの悪化が大きく影響した模様である。

これまで小売の下支えとなっていたインバウンド需要については、「これまでインバウンドが宿泊、小売や飲食等の消費全般を下支えしてきたが、来客数、消費額共に、落ち込みはじめているように感じられる」(東海・百貨店)など、インバウンド需要に陰りがみられる。

飲食関連では、「消費マインドは横ばいであり、客の声からは熊本地震の影響があるように感じられる」(近畿・一般レストラン)のように、熊本地震によるマインド面の下押しを懸念するコメントが多々見受けられた。一方で、「ゴールデンウィーク中の客の動きは良く、特に県外客の入りが良い」(北関東・一般レストラン)などのコメントも寄せられた。

住宅関連では、「持家住宅は、消費税増税の再延期で客の動きが鈍くなり、伸び悩んでいる」(東海・住宅連専門店)といったように、消費増税の再延期を懸念するコメントのほか、「客は、先行きが不安で買い控えしている」(東海・住宅販売会社)など将来不安による買い控えなどを指摘するコメントも寄せられた。

業動向関連は、製造業(前月差▲2.7ポイント)、非製造業(同▲0.4ポイント)ともに前月から悪化した。コメントをみると、「熊本地震の影響で大きく落ち込んだ自動車関連の仕事が、以前の水準にはなかなか戻ってこない」(北関東・一般機械器具製造業)とのコメントのように、熊本地震によるマインド悪化が引続き下押し要因となっている。また、「円高の影響で業績は右下がりにある。製品不良に伴う廃棄費は増加が続いており、利益は予算比で減少の見込みとなっている」(東海・輸送用機械器具製造業)など円高の影響を懸念する声も目立つ。

雇用関連は年初に入ってから悪化が続き、節目の50を2 ヵ月連続で割り込むなど改善の動きに一服感がみられる。「人手不足感が強まっている。業者や事業規模による差はあるものの、欠員補充の困難、人件費の上昇、事業計画の見直しなど、その影響は大きい」(東北・新聞社)など、人手不足感の高まりを懸念する声が寄せられた。このほか、「業種、職種を問わず、求職者が減少しており、中途採用市場の求人企業を悩ましている」(北海道・求人情報雑誌製作会社)や「以前に比べて求職者の応募は少ない。マッチング率が低下している」(北陸・人材派遣会社)のように、求職者不足による企業側の懸念の声も多々聞かれた。

3.先行きは4ヵ月ぶりの改善も、足踏み状態が続く

先行き判断DIは47.3(前月差1.8ポイント)と4ヵ月ぶりに改善した。参考系列として公表されている季節調整値は44.6と前月から1.7ポイントの改善となった。先行き判断DIの内訳をみると、家計動向関連が前月差1.2ポイント、企業動向関連が同2.6ポイント、雇用関連が同3.7ポイントとなった。これまで改善基調に陰りがみられていた雇用関連(51.5)は2ヵ月ぶりの改善となり、節目の50を回復した。
景気の先行き判断DI/景気の先行き判断DI(分野別、原数値) 家計動向関連は、「ボーナス商戦があるので、期待をこめてやや良くなる」(南関東・通信会社)など、ボーナス増による消費押し上げを期待する声や、「消費税増税の延期が確定すれば、消費マインドも少し明るくなる」(東海・乗用車販売)のように消費増税先送りによって、消費が上向いていくとの前向きなコメントも寄せられた。一方、「熊本地震等の影響もあり、消費マインドの回復には時間がかかる」(南関東・百貨店)のように、熊本地震によるマインド面の下押しを懸念するコメントも見受けられた。

企業動向関連は、「消費税増税の再延期が個人消費にプラスになれば、良くなるのではないか」(南関東・食料品製造業)といったように、消費増税延期を期待する声が聞かれた。また、「熊本地震の影響も落ち着いてくると思われる」(東海・輸送用機械器具製造業)などのコメントから、熊本地震による悲観的な見方が弱まりつつある状況が見て取れる。

雇用関連は、前月から改善しているものの、「円高や中国経済の減速により、今後の景気を不安視している事業所の声が多い」(北陸・職業安定所)のように、景気の先行き不安から雇用環境が厳しくなるとの懸念が根強いようだ。
中国経済の動向など海外情勢の不透明感が高まるなか、年初からの金融市場の不安定な動きにいったん歯止めがかかりつつある。また、景気ウォッチャー調査を見る限り、熊本地震の影響は依然景況感の重石となっているものの、今後は復興対策による景気押し上げが期待できるほか、消費増税先送りによって消費が持ち直す可能性も考えられる。ただし、米国の利上げ、英国によるEU離脱を巡る国民投票など海外情勢に左右される不安定な状況が続く可能性もあるため、今後の動向に注意が必要であろう。
各種コメント数の推移 インバウンド関連/マイナス金利関連/中国の景気減速関連/円高・株安関連/熊本地震関連
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岡 圭佑

研究・専門分野

(2016年06月09日「経済・金融フラッシュ」)

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