2016年06月08日

2016・2017年度経済見通し~16年1-3月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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新設住宅着工戸数の推移 住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数は2015年10-12月期の86.8万戸(季節調整済・年率換算値)から2016年1-3月期に94.7万戸へと大幅に増加し、月次ベースでは2016年3月が99.3万戸、4月が99.5万戸と水準を大きく切り上げている。ただし、これは2017年4月に予定されていた消費税率引き上げを見込んだ駆け込み需要が含まれている可能性がある。

消費税率引き上げが見送られたことによって前倒しで住宅を購入するインセンティブはなくなった。住宅ローン減税、マイナス金利導入に伴う住宅ローン金利の低下が一定の下支えにはなるものの、今後住宅着工戸数は減少に転じる可能性が高く、工事の進捗ベースで計上されるGDP統計の住宅投資も2016年度後半には減少に転じるだろう。住宅投資は2015年度の前年比2.4%の後、2016年度が同0.9%、2017年度が同0.1%と予想する。
公共工事請負金額、出来高の推移 公的固定資本形成は2015年7-9月期が前期比▲2.4%、10-12月期が同▲3.6%と大きく落ち込んだ後、2016年1-3月期は同▲0.7%と減少幅が大きく縮小した。先行指標の公共工事請負金額は2016年3月が前年比5.0%、4月が同10.6%と急増している。2015年度補正予算、2016年度当初予算の前倒し執行の効果が顕在している可能性が高い。また、熊本地震からの復旧に向けた事業を盛り込んだ2016年度補正予算(予算規模は7780億円、5/17予算成立)は7-9月期以降の公的固定資本形成を押し上げることが見込まれる。

さらに、秋の臨時国会で策定される経済対策の裏づけとなる2016年度第2次補正予算は年末までに成立することが見込まれるため、2016年度末から2017年度初めにかけてその効果が顕在化する可能性が高い。公的固定資本形成は2014年度(前年比▲2.6%)、2015年度(同▲2.7%)と2年連続で減少したが、2016年度は前年比1.6%と3年ぶりに増加し、景気を一定程度下支えする役割を果たしそうだ。
経常収支の予測 2016年1-3月期の輸出は前期比0.6%と2四半期ぶりの増加となったが、円高の影響が顕在化することにより4-6月期には減少に転じると予想する。海外経済は米国、欧州は比較的堅調だが、中国をはじめとした新興国経済は減速傾向が続いている。日本の輸出ウェイトで加重平均した海外経済の成長率は2012年以降、過去平均(1980年~)を下回り続けているが、2016年の伸びは2015年からさらに低下することが予想される。当研究所では米国の利上げ再開、日本の金融緩和継続を背景とした日米の金利差拡大を主因として徐々に円安・ドル高が進むと予想している。しかし、海外経済の低成長が続く中で円高がさらに進行するようであれば、輸出の失速を起点とした景気後退のリスクが高まるだろう。

また、国際収支ベースの貿易収支(季節調整値)は2015年10月以降黒字となっているが、貿易収支改善の主因となっていた原油安局面はすでに終了しており、今後は原油価格上昇に伴う輸入価格の上昇が貿易収支の悪化要因なることが見込まれる。貿易収支の黒字幅は徐々に縮小し、2016年末までには再び赤字となる可能性が高い。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、原油価格下落に伴うエネルギー価格の低下を主因として2016年3月に前年比▲0.3%と5ヵ月ぶりのマイナスとなった後、4月も同▲0.3%となった。原油価格は上昇に転じているが、電気代、ガス代は原油価格の動きが遅れて反映されること、円高で原油価格上昇の影響は一部相殺されることなどから、消費者物価のエネルギー価格は夏場まで前年比で二桁のマイナスを続ける可能性が高い。

また、現時点では消費者物価指数の対象品目のうち6割以上の品目が上昇し、物価上昇の裾野の広がりを示すものとなっているが、為替レートの変動は輸入物価を通じて幅広い品目に影響を及ぼすため、こうした状況は大きく変化する可能性がある。特に、消費者物価の食料(生鮮食品を除く)は前年比で2%台の伸びを続けてきたが、輸入物価の食料品は前年比で二桁の下落を続けており、国内企業物価の食料品もゼロ近傍まで伸び率が低下している。今後、川上から川下への価格転嫁が進むことにより、消費者物価の食料(生鮮食品を除く)も伸び率が鈍化するだろう。

コアCPI上昇率がプラスに転じるのは、円高、原油安の影響がほぼ一巡する2016年末頃になると予想する。その後は円安、原油高に伴うエネルギー価格の上昇、景気回復持続に伴う需給バランスの改善が消費者物価を押し上げることから、コアCPIは2017年度入り後には1%程度まで伸びを高めるだろう。コアCPI上昇率は2016年度が前年比0.0%、2017年度が同1.0%と予想する。
潜在GDPと需給ギャップの推移/消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測

 
日本経済の見通し(2016年1-3月期2次QE(6/8発表)反映後)
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2016年06月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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【2016・2017年度経済見通し~16年1-3月期GDP2次速報後改定】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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