2016年06月08日

2016・2017年度経済見通し~16年1-3月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2016年1-3月期は前期比年率1.9%へ上方修正

6/8に内閣府が公表した2016年1-3月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.5%(年率1.9%)となり、1次速報の前期比0.4%(年率1.7%)から上方修正された。

公的固定資本形成(前期比0.3%→同▲0.7%)、民間在庫品増加(前期比・寄与度▲0.0%→同▲0.1%)は下方修正されたが、1-3月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより設備投資が1次速報の前期比▲1.4%から同▲0.7%へ上方修正されたこと、推計に用いられる基礎統計の追加から民間消費が前期比0.5%から同0.6%へ上方修正されたことが成長率を押し上げた。

2016年1-3月期は潜在成長率を大きく上回るプラス成長となったが、うるう年による日数増で成長率が年率1%程度かさ上げ(当研究所による試算値)されていること、2015年10-12月期の年率▲1.8%のマイナス成長の後であることを踏まえれば、景気が足踏み状態を脱したとはいえない。実質GDPは2015年4-6月期以降、年率1%台後半のマイナス成長とプラス成長を繰り返しており、日本経済が1年にわたって停滞を続けてきたことを示している。
(企業収益の悪化が鮮明に)
6/1に財務省から公表された法人企業統計では、2016年1-3月期の経常利益(金融業、保険業を除く全産業)の経常利益が前年比▲9.3%と2四半期連続の減少となり、減少幅は2015年10-12月期の同▲1.7%から拡大した。製造業は2四半期連続の減益(10-12月期:前年比▲21.2%→1-3月期:同▲20.4%)、非製造業は2013年1-3月期以来、3年ぶりの減益(10-12月期:前年比12.7%→1-3月期:同▲4.5%)となった。円高の進展、海外経済の減速、国内需要の低迷などを受けて製造業(前年比▲2.2%)、非製造業(同▲3.8%)ともに売上高が減少し、製造業は売上高経常利益率も大きく悪化したため、2四半期続けて前年比20%台の大幅減益となった。

季節調整済の経常利益は前期比▲6.8%(10-12月期:同▲3.3%)となった。経常利益は2013年度後半から2015年前半にかけては過去最高水準の更新を続けてきたが、2015年7-9月期から3四半期連続で減少し、完全にピークアウトする形となった。直近の水準をピーク時と比較すると、非製造業の低下幅は1割以下にとどまっているが、製造業は約3割も落ち込んでいる。
経常利益の推移/経常利益(季節調整値)の推移
(消費を取り巻く環境は改善)
企業収益の悪化が鮮明となる一方で、低迷を続けてきた個人消費を取り巻く環境は大きく改善している。2016年の春闘賃上げ率が前年を下回ったこともあり、名目賃金は伸び悩みが続いているが、雇用者数の高い伸びが雇用者所得を大きく押し上げている。さらに、既往の原油価格下落の影響で物価上昇率がマイナスとなっていることが実質ベースの雇用者所得を大きく押し上げている。

消費者マインドの悪化などに伴う消費性向の低下、労働市場改善の恩恵を受けない高齢者、年金生活者の消費動向などには注意を払う必要があるが、先行きの個人消費は実質雇用者所得の高い伸びを主因として持ち直しに向かうことが予想される。
完全失業率、雇用者数の推移/実質雇用者所得の推移

2. 実質成長率は2016年度0.6%、2017年度1.1%

2. 実質成長率は2016年度0.6%、2017年度1.1%

(2017年度の成長率見通しを上方修正)
2016年1-3月期のGDP2次速報を受けて、5/19に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2016年度が0.6%、2017年度が1.1%と予想する(5/19時点ではそれぞれ0.9%、0.0%)。2016年度の見通しを0.3%下方修正する一方、2017年度の見通しを1.1%上方修正した。
 
安倍首相は6/1に記者会見を行い、2017年4月に予定されていた消費税率の引き上げ(8%→10%)を2019年10月に延期することを表明し、それと同時に秋の臨時国会で総合的な経済対策を講じる考えも示した。

消費税率引き上げの延期により2016年度の成長率は駆け込み需要がなくなる分だけ消費増税実施の場合よりも低くなる(当研究所では駆け込み需要を0.3%想定していた)。一方、2017年度は駆け込み需要の反動がなくなること、税率引き上げによる物価上昇に伴う実質所得低下の影響がなくなることで、消費税率引き上げが実施された場合よりも実質GDP成長率は1%程度上昇する。また、経済対策の規模は現時点では明らかではないが、今回の見通しでは2016年度第2次補正予算で約5兆円規模の経済対策が策定されることを想定した。

2016年1-3月期は2四半期ぶりのプラス成長となったが、4-6月期はうるう年による押し上げの反動、熊本地震の影響、円高の顕在化による輸出の減少などから前期比年率▲0.4%のマイナス成長となるだろう。ただし、1-3月期とは逆に統計上の技術的な要因により成長率が押し下げられる(年率▲1%程度)ため、表面的な数字で過度に悲観する必要はない。7-9月期は民間消費の伸びが高まることなどからプラス成長に復帰し、その後は年率1%前後の成長が続くことが予想される。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(需要項目別の見通し)
実質GDP成長率の予想を需要項目別にみると、民間消費は2015年度の前年比▲0.2%から2016年度に同1.0%と増加に転じた後、2017年度も同0.9%と2年連続の増加を予想する。
実質雇用者報酬の予測 一人当たりの名目賃金の伸びが大きく高まることは期待できないが、企業の人手不足感の高さを背景に雇用者数が増加を続けること、円高、原油価格下落の影響で物価上昇率が低下することから、実質雇用者報酬は2015年度の前年比1.7%から2016年度は同1.9%と若干伸びが高まることが予想される。耐久消費財のストック調整圧力が残存していること、2016年初からの株価下落による逆資産効果などが引き続き消費の抑制要因となる可能性があることには留意が必要だが、実質所得の増加を主因として民間消費は回復に向かう可能性が高い。ただし、2017年度は円高、原油安の一巡などから消費者物価が上昇し実質所得が再び下押しされるため、消費の伸びが加速することは難しいだろう。
2015年度の設備投資は前年比2.0%と2014年度の同0.1%から伸びを高めたが、企業収益が好調を続けてきたことからすれば低い伸びにとどまった。

内閣府の「企業行動アンケート調査(2015年度)」によれば、今後5年間の実質経済成長率見通し(いわゆる期待成長率)は1.1%となり、前年度から0.3ポイント低下した。企業の設備投資意欲を示す「設備投資/キャッシュフロー比率」は期待成長率との連動性が高いため、先行きも企業の投資意欲が大きく高まることは見込めない。

また、円高や海外経済の減速を受けて企業収益は大きく悪化しており、2016年度の経常利益は前年比▲1.7%と2011年度以来5年ぶりの減益となることが予想される(法人企業統計ベース)。設備投資意欲の低迷に企業収益の悪化が加わることにより、設備投資は当面低調に推移する可能性が高い。2016年度の設備投資は前年比0.5%と前年度から伸びが鈍化した後、企業収益の改善を受けて2017年度は同2.2%と伸びを高めると予想する。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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