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進化を続けるリバースモーゲージ-(その2) 英国におけるエクイティ・リリースの市場展開、フランスにおけるヴィアジェ市場とファンド創設
社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫
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現在のヴィアジェ市場にはヴィアジェを取り扱う不動産業者が20社から25社ほどあるが、いずれも零細企業が多い。その中でも、老舗のコスタ・ヴィアジェ社が市場の40%を占めている。以下は、ヴィアジェと市場の状況について、このコスタ・ヴィアジェ社、同社もマネージメントに参加しているセルティヴィア・ファンド及び公証人から聴取した内容である。
(a) ヴィアジェの仕組み
ヴィアジェ契約は、不動産物件の売買取引の形態であり、フランスでは1804年からの民法典に基づく契約である。売り手は買い手から住宅を購入するが、ヴィアジェの場合には、用益権の一種である居住権(Droit d’Usage et d’Habitation : DUH)を売り手に残し、物件の所有権や処分権を含む虚有権(Nupropriété)だけを購入する契約になる。一般的なヴィアジェの契約では、この虚有権の移転の対価として、虚有権分の価値総額から一定の一時金(Bouquet)を支払う。次に一時金額を差し引いた差額を定期支払い金(Rente)として毎月支払う。居住権は買い手に残しているので、買い手は亡くなるまでその物件に住み続けることができる。
なお、ヴィアジェ取引では、一時金と定期金の総額(虚有権額)が家賃の総額(居住権額)よりも低いと契約が成立しない。居住権の価額を算出するのに必要な家賃は市場に基づく統計データが整備されているし、余命は政府が発行する死亡率表に基づいて求められる。余命は個別のものではなく、あくまでも平均的な数値を用いる。
これらの契約金額については、契約時には公証人が認める水準でなければならない。契約前の条件説明は公証人が行うし、契約も公証人が介在して行われる。ヴィアジェに関わらず、フランスにおける不動産売買等には法の定めにより、必ず公証人が介在しなければならない。
(b) 買い手と売り手のメリット
買い手のメリットは、銀行融資を受けなくても、あたかも融資を受ける際の頭金と元利支払いのように、ヴィアジェの一時金と年金の支払いを行えばよく、期限のメリットを得つつ、当初から大体15~20年間分の家賃に相当する居住権の価値を除いた価格で該当物件を購入できる点である(概ね市場価格の5~6割で購入することになる)。将来の所有権の完全な確保を考えれば、割安の資金額で購入できることになる。特にパリ市内の住宅は将来的な値上がりが期待でき、買い手にとっては人気がある。
フランス統計局(INSEE)の統計値でも、フランスの住宅価格は長期的に年率2%で上昇していることから、最終的には市場価格で売却すると、売却価格から虚有権部分と居住権部分を除いた残額はキャピタルゲインとなる。居住権部分は非課税であるが、キャピタルゲインは課税される。
売り手のメリットは、住みながらにして一時金(なしの場合もある)及び定期支払い金を受領し、年金の補填や様々な用途に使うことができる点である。定期金は年金生活者であるため、多くの場合は非課税であり、夫婦の場合は片方が亡くなっても、配偶者は引き続き住み続け、定期金をもらい続けることができる。定期金は物価スライド式条件付なので、物価上昇による自分の将来の購買力の縮小をある程度担保できる。もし、高齢によって老人ホームに入らねばならないとしても、退出により当該物件は空き家になり買い手は賃貸できるため、通常は従来よりも定期金額が上がる。
ただし、非常に重要なことは、ヴィアジェは射幸性の高い契約であり、契約がいつ終了するかを読むのは難しく、買い手と売り手の双方に予期しない事態が生じることがある点である。
(c) 売り手の定期金支払いの保証
ヴィアジェ取引は個人取引であるから、買い手による定期金の払い込みが契約通り履行されるかどうかは売り手の懸念材料となる。しかし、この取引は、通常の不動産取引と同様に、契約書を公証人が作成し登記などの必要な手続きを行うことに加え、契約上、売り手から買い取った物件に対し、公証人を通じて抵当権を設定し、買い手が支払いを怠った場合には契約を解除し、売り手が所有権を取り戻せるようにしてきた。しかし、現実に契約を解除して抵当権を行使するには、9~18ヶ月ほどを要するため8、訴訟費用も含めて、契約不履行が生じた場合の対処には大きな課題がある。
もうひとつ、ヴィアジェ取引において、法人が買い手となる場合、仮にその法人が破綻すると、米国のチャプター11と同様に、抵当権の行使は困難になるため、最近では別の方法で売り手の保護を図るのが一般的である。それは商品の割賦販売と同様な方法であり、一時金や定期金を全額支払わねば、所有権を移転しない方法である。売り手が死亡した場合には、自動的に所有権が移転する契約としているが、買い手が支払いを滞納した場合には、所有権は移転していないので、契約を解除するだけで済む。実際に法人の買い手が破綻するという事件がいくつか過去に発生したため、2006年に法律の改正があり、ヴィアジェ契約にこうした条件設定ができるようになった。
8 フランスでは家賃滞納などの不都合なテナントを退出させる手続きにも、同様の期間がかかるという。わが国同様、借家法においても、テナントの保護が優先されている。
(d) ヴィアジェの種類
ヴィアジェにはいろいろな種類があるが、売り手が住んでいる状態の “Viager Occupé”が一般的であり、全体の80%位を占める。また、ある高齢者がいくつかの物件を所有していて、自分の住む場所以外の物件をヴィアジェで売るという居住者なしヴィアジェ “Viager Libre”が15%位を占める(表5)。他にも一時金型とか定期型、契約設定型ヴィアジェなどの種類があるが、これらが使われることは少ない。
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