2016年05月30日

欧州 保険ストレステスト2016-EIOPAがEU全体の保険のストレステストの実施内容を公表-

中村 亮一

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3―ストレスシナリオ

ベースラインのシナリオ(0で表示)に加えて、以下の2つのストレスシナリオを加えた3つのシナリオに基づいた数値が算出される。

2つのストレスシナリオに基づく結果は、いくつかの特定のストレス条件のセットの影響についてだけでなく、これらの影響がショックの大きさと組成の変化に対してどのように反応するのか、についての情報を提供することになる。

1|長期間低金利シナリオ(LYLow for Long
EIOPA内部で開発された。

固有のリスクを評価するために、EIOPAは、過去2年間にEA(ユーロ圏)において観察された金利の期間構造に基づいて、特定の曲線を導き出した。より具体的には、曲線は、定義された時間枠でのユーロ・スワップ・カーブの異なる満期において登録された最低金利、即ち、2015年4月20日に登録されたデータに由来している。
ユーロ・スワップ・カーブ
ストレス(をかけた)曲線は、次のアプローチに従って、スミス・ウィルソン法で生成される。

ⅰ.LLP(最終流動性ポイント)は、EIOPAのリスクフリー金利の期間構造の定義に使用されるLLPと統一的に20年に設定

ⅱ.EAにおいて、次の60年で無成長の極端なシナリオを想定し、UFR(終局フォワード・レート)は、ECB(欧州中央銀行)によって設定されたインフレ目標に対応して2.0%に設定

ⅲ.曲線の流動的な部分は、信用リスク調整を含む15bpsの下方ショックで処理

他の通貨については、「ストレス」曲線を得るために、その通貨の基本的なリスクフリー曲線に適用される必要がある「シフト」の定義に、ユーロ・カーブの派生乗数が使用される。異なる通貨に対する完全な金利期間構造は、EIOPA-16-112 Stress Test 2016 Technical Informationで手に入れることができる。

LYのシナリオでは、スプレッドなどの他の全てのパラメーターは、ストレスが適用される前の評価を参照して変わらないと考えなければならない。

2|ダブルヒットシナリオDHDouble-hit
ESRB(欧州システミック・リスク理事会:European Systemic Risk Board)との協力に基づいて、市場リスクに対する保険分野の脆弱性を評価するために、EIOPAが仮想的な市場のストレスシナリオを開発した。

以下の「市場変数」に対するストレスを考慮している。

金利、株式市場(価格の下落)、金融債、非金融債、EU諸国の国債、EU加盟国における住宅用不動産価格、EU加盟国における商業用不動産価格、オルタナティブ投資(プライベート・エクイティ(価格の下落)、不動産投資信託(REIT)、ヘッジファンド及び商品)等

ショックは瞬間的であり、かつ独立した方法で同時に発生することが仮定されている。このため、イベントタイプの間の本質的かつ歴史的な依存関係にもかかわらず、相関行列は提供されていない。

2次あるいは伝染効果は、2016ストレステストの定量的な部分の範囲外であり、資産保有や再保険回収見込み額の信用力(すなわち、信用リスク)に関する影響は全く考慮されていない。

ダブルヒットシナリオに対する具体的なパラメーターは、例えば、以下の通りとなっている(出典:EIOPA Stress Test 2016 Technical Specification)。
(1)ユーロ・スワップ・レートに対するショック/(2)国債に対するショック/(3)社債に対するショック/(4)株式に対するショック
因みに、今回のEIOPAのシナリオの具体的な水準について、2015年12月31日時点における、ドイツと日本のゼロ・クーポン・カーブの例は、以下の通りとなっている。これをみても、日本の金利シナリオは、低金利に苦しんでいるドイツを上回る厳しいものとなっている。
ゼロ・クーポン・カーブの例(ドイツ/日本)
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中村 亮一

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