コラム
2016年05月26日

「人口減少=低成長」ではない~日本経済再浮上の第一歩は悲観論の払拭

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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日本の人口はすでに減少局面に入っており、このことが経済成長率の低迷をもたらしているとの見方は根強い。しかし、日本の経済成長率の低下に大きく寄与しているのは人口増加率の低下よりも一人当たりGDPの伸び率低下である。
図1 実質GDP成長率(人口、1人当たりGDP) 実質GDP成長率を人口増加率と一人当たりGDPの伸び率に分けてみると、人口増加率は1970年代の1%台から1980年代が0.6%、1990年代が0.3%、2000年以降が0.0%(人口のピークは2008年)と徐々に低下しているが、変化のペースは緩やかである。これに対し、一人当たりGDPの伸びは1980年代の3.7%から1990年代が1.2%、2000年以降が0.8%と大きく低下している(図1)。

人口増加率と一人当たりGDPの伸びは無関係

図2 人口増加率と一人当たり実質GDP成長率の関係 人口増加が一国の経済成長にプラスに寄与することは間違いないが、人口増加率は一人当たりGDPの伸び率と連動しない。実際、OECD加盟国(34カ国)における1990年以降の人口増加率と一人当たりGDP成長率の関係をみると、両者にはっきりとした相関は見られない(図2)。

日本の低成長は人口減少とは直接関係のない一人当たりGDP成長率の低下によってもたらされている部分が大きい。人口減少率は今のところ年率0.1%程度にすぎないので、一人当たりGDPの伸びを高めることによって国全体の成長率を高めることは可能だ。

日本は本当に豊かなのか

図3 一人当たりGDPのOECD加盟国中の順位 日本はもう十分に豊かになったので、これ以上成長する必要がないという反論があるかもしれない。もちろん、収入も資産も十分でこれ以上豊かになる必要がない人もいるだろう。しかし、その一方で生活保護世帯数が過去最多を更新し続ける現実をどう考えるべきだろうか。そもそも、国際的にみて日本は十分豊かとは言い切れない。国全体のGDPの規模は米国、中国に次ぐ世界第3位を保っているものの、一人当たりGDPで見ればOECD加盟国(34カ国)の中で下位(ドルベースでは20位、購買力平価ベースでは18位)に位置している(図3)。日本はまだまだ豊かになる余地がある。

労働力人口は増えている

図4 生産年齢人口(15~64歳)と労働力人口 日本は少子・高齢化が急速に進展しているため、人口以上に労働力が減少し経済成長の制約要因になるとの見方もある。確かに生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに20年にわたって減少を続けており、団塊世代が65歳を迎えた2012年以降は減少ペースが加速している。しかし、生産年齢人口の減少が労働力人口の減少に直結するわけではない。労働力人口は1990年代後半から減少傾向となっているが、2005年頃を境に減少ペースはむしろ緩やかとなり、女性、高齢者の労働力率の上昇を主因として2013年からは3年連続で増加している(図4)。少なくとも現時点では労働力の減少が経済を下押しする形とはなっていない。

悲観論の払拭を

筆者は人口減少そのものよりも、人口減少によって経済が縮小するという固定概念が経済の停滞に拍車をかけていると感じている。安倍政権発足後、企業収益が過去最高を更新し続けたにもかかわらず設備投資は依然として盛り上がりに欠けている。企業が海外投資を拡大させる一方で、国内の設備投資に積極的になれない背景には、多くの経営者が人口減少下で国内市場の縮小が不可避と考えていることがあるのではないか。国内の売上増加に自信が持てないため賃上げも躊躇してしまう。企業が将来への投資よりも現在の貯蓄を優先することが、家計所得、個人消費の低迷、成長率の低下を招き、そのことが企業行動のさらなる萎縮をもたらすという悪循環に陥っている。

確かに、人口が減少するなかで従来と同じようなモノ・サービスの提供を続けるだけで売上を伸ばすことは難しい。しかし、医療、介護、旅行、スポーツなど高齢化に対応した潜在的な需要の掘り起こしによって国内の需要を拡大させることは十分期待できる。日本経済再浮上のためには人口減少を巡る悲観論の払拭が不可欠だ。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2016年05月26日「研究員の眼」)

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