2016年05月25日

シドニーのオフィス市場~海外資金による取得は高水準、日本の投資家にとっても魅力的~

増宮 守

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4.シドニーのオフィスエリア

シドニーのオフィス市場は、メインのCBD(中心業務区域)の他、複数のエリアから構成されている。シドニーハーバーを挟んでCBDの対岸に位置するノースシドニー、さらに鉄道路線を北上した近郊の駅周辺に複数のオフィスエリアが展開している(図表-4)。特に、ノースライド、マッコーリーパークは、広々とした敷地に中低層の大型ビルが集積し、オーストラリアでは珍しい大規模なビジネスパークとなっている。また、シドニーCBDの23km西方の近郊都市であるパラマタは、パラマタ川上流にある歴史ある都市で、教育施設などの公的セクターを主なテナントとしたオフィスエリアとなっている。

各オフィスエリアは、鉄道路線および都心部の地下鉄で繋がれ(図表-5)、国内線および国際線の空港もCBDから容易に鉄道でアクセスできるなど、利便性の高い都市交通網が整備されている。
各オフィスエリアの規模11は、CBDの賃貸オフィスストックが約500万㎡と圧倒的に大きく、他のエリアを合計してCBDの半分程度となっている。テナント構成もCBDと他で異なっており、CBDの大半を金融テナントが占めている一方、他のエリアでは金融テナントは特に目立たず、各種サービス業およびIT、政府系団体や学校などの多様なテナントの比率が高くなっている。
図表-4 シドニーのオフィスエリア/図表-5 シドニー中心部鉄道路線図
 
11 英サビルズによると、シドニーの賃貸オフィスストックはCBDで507万㎡、ノースシドニーで82万㎡、クロウネスツ・レオナルドで34万㎡、チャッツウッドで28万㎡、ノースライド・マッコーリーパークで88万㎡、パラマタで68万㎡(2016年1Q時点)。
 

5.シドニーCBDの変遷

5.シドニーCBDの変遷

シドニーCBDは比較的広く(図表-6)、北側のCBDノースに金融機関が集積している。チーフリースクウェアやファーラープレイスなどがシドニーのプライムオフィスエリアとなっており、各々に立地するチーフリータワーやガバナーフィップタワーなどがシドニーで最高のオフィス賃料を得ている。これらの超高層ビルの足元には公開空地が配置され、洗練された金融街の佇まいとなっており、また、高層階からオペラハウスやハーバーブリッジといったシドニーを代表する景観を見下ろすことができ、それらの美観も高賃料の主な要因となっている。
図表-6 シドニーCBD
金融機関が集積するCBDノースのやや南には、かつての金融街であるマーティンプレイスが控えている。同通りは1891年にまで歴史を遡ることができる歩行者天国で、欧風の歴史的建造物が残されている。長らく国内銀行の本社ビルをはじめ、金融機関が集積するCBDの中心であったが、現在、金融機関の多くはCBDノースの超高層ビルに移転している。最近では、マーティンプレイスにIT企業が移転するケースが増加しており、歴史的建造物を建て替えた新しいビルに、欧米のIT、インターネット関連の大手企業が主要テナントとして入居している。

マーティンプレイスの南側は、商業施設が集積するエリアとなっており、特に南北に走るピットストリートは、シドニーで最も高い店舗賃料を得るプライム商業ストリートである。商業モールの上層階部分を賃貸オフィスとしているビルも多く、オフィス集積も進んでいる。

南側のシドニーセントラル駅まで広がるCBDサウスは、元来、チャイナタウンなどを含む下町エリアで、大規模なオフィスビルは少なかった。リーマンショック前には、超高層オフィスビルを含む大規模複合施設のワールドスクウェアが建設されるなど、一時、新たな金融センターとして再開発が続く期待もあった。しかし、リーマンショック以降の景気鈍化に伴い、オフィスエリアとしての発展は止まり、最近ではホテルやコンドミニアムの開発が活発なエリアとなっている12

その他、大規模開発によって最近注目を集めているのがCBDウェストにあたるバランガルーエリアである。ダーリングハーバーに面した広大な港湾施設跡地に、超高層ホテルを含む大規模複合施設の開発が進んでおり、その中に3棟の超高層オフィスビルから成るインターナショナルタワーズが含まれている。依然として、商業施設の集積が乏しくアメニティー面で劣るなど、オフィスエリアとしては成熟を待つ必要があるものの、ウィンヤード駅からの連絡通路の整備によりアクセスの利便性が確保されている。シドニーの都市形態は概して欧米型で、アジアの主要都市に比べて古風な印象だが、バランガルーの大規模開発は都市としての新陳代謝を進め、シドニーCBDの新たな魅力として国際競争力の向上に寄与するものとみられる。
 
12 日本企業によるコンドミニアム開発事業もみられ、積水ハウスがシンガポールのフレイザーズ・センターポイントと共に商業複合高層コンドミニアムの「セントラルパーク」を開発。
 

6.賃貸オフィス市場の特徴

6.賃貸オフィス市場の特徴

オーストラリアの賃貸オフィス市場では、英国に類似した期間10年などの長期の定期借家契約が一般的となっている。期間2年の普通借家契約が一般的な日本では、2年毎に賃料交渉があり、加えて、常時解約予告を受けるリスクに晒されている。一方、オーストラリアでは、契約期間の賃料収入が確定しており13、さらに、将来の契約満期時も、既存テナントを保護する観点がなく、既存テナントあるいは他のテナントと市場賃料で新たに契約を結ぶことになる。投資家にとっては、安定したインカムゲインを長期にわたって見込め、限られたリスクに的を絞った投資判断が可能となっている。海外投資家にとっても、現地の投資家に対しての不利が少なく、取り組み易い投資対象といえる。

また、賃貸契約交渉に際して、インセンティブの付与条件が額面賃料以上に大きな変動要因となっている。テナントへのインセンティブの付与形態は多様で、フリーレントの他、転居費用や内装工事費用のキャッシュバック、送迎バスサービスの付帯などがあり、付与するタイミング14も契約毎に異なっている。現在、インセンティブは額面賃料の3割前後で推移しており、リーマンショック以降にみられた4割前後から徐々に改善が進んでいる。一見、インセンティブは複雑にみえるものの、契約期間が長期で定まっていることから、インセンティブ金額を期間で割り、実質賃料(月額)を把握することができる。
 
13 インフレに応じて賃料の上乗せがなされるステップアップ条項の付帯が一般的であり、正確には、確定しておらずアップサイドがあるといえる。
14 概して、市況悪化時にはインセンティブの付与タイミングが前倒しされ、契約期間を通じた賃料の割引よりも、フリーレントや一時金のキャッシュバックが増加する傾向がある。
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増宮 守

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